めっちゃ諦めが悪い 3 ~山小屋

文字数 1,533文字

私ははっと目覚めた。

ぼんやりとした灯りの中で天井を見詰める。
隣を見る。祥がいない。
私はどきりとする。
起き上がってもう一度小屋の中を見渡す。小屋の中は眠った時と同じ。キャンプ用のライトが朧に辺りを照らす。あちらこちらに干した洋服。私のリュック。

 私はドアを見詰める。

そろりと寝袋を抜け出してリュックからナイフを取り出した。そのまま小屋の角に後退さる。

嫌な予感がする。
祥は何処へ行った?・・こんな真っ暗闇の中で。何をしに行ったのだ?


ドアが少し開いた。私はびくりとした。
いつでも飛び掛かれるように体制を作る。
祥のシャツが見えた。私は安堵のため息を付いた。
祥がドアを閉めた。
「もう。祥。脅かさないでよ。一体どこに行っていたの」
私は声を掛けた。祥が振り向いた。
祥じゃない。

私は凍り付いた。
河合だ。
河合の顔には一本の大きな傷が付いていた。額から顎に掛けて。そこから血をどくどくと流している。そして彼はニヤリと笑った。
「ようやく見つけた」
彼が言った。
私は悲鳴を上げた。


「ナツ。おい。ナツ」
祥が私を揺さぶる。
私は悲鳴を上げたまま祥に抱き付く。そしてドアを見詰める。

「ナツ。どうしたんだ。悪い夢を見たのか。おい。驚かすなよ。心臓が止まるかと思ったぜ」
祥が言った。
私はさっき見た河合の衝撃が大きくて口がきけなかった。
そして目はドアから離れない。
「祥。何か来る。良くないモノが来る。ここは良くない。早く出ましょう」
私は早口で言った。
祥はえっ?という顔をする。
私は起き上がると荷物をさっさとまとめる。
「今からか?外は真っ暗だぞ」
祥が眼鏡を掛けながらそう言う。
「いいから。急いで」
私はランプを持って小屋のドアを恐る恐る開ける。
そして外をきょろきょろと見回す。


真っ暗闇だ。
怖い。
何が隠れているか分からない。
「祥。早く。怖い」
私は急かす。
祥がリュックからライトを取り出す。
一緒に小さなケースを取り出してその蓋を開ける。
銃が現れた。
私はそれをじっと見る。
やばい。
マジでヤバイ。あの夢と一緒だ。


「ちょっと!何時の間にそんなモノを私のリュックに入れたのよ」
私は荷物を運びながら言う。
「銃刀法違反で逮捕されるから」
祥がそれを構えてドアを開ける。片手にライト、片手に銃。体でドアを抑える。

「ここに警察が居ると思うか?いいからナツは気にするな」
そう言って車のキーを放って寄越す。
私は車のドアを開けて後ろに荷物を放り込む。そして祥にキーを手渡す

じゃりっと石を踏む音がした。

私はびくりと顔を上げる。
祥が走って運転席に乗り込む。
「早く乗れ!」
車のエンジンを掛けてライトを付けた。
車のすぐ前には男が立っていた。
男は眩しそうに顔を覆う。


河合だ。
そんな馬鹿な。
祥は茫然と見ている。
祥のチームのボス。そして祥の義父・・・死んだはずなのに。

河合が片手を上げて近寄って来る。
「行って!」
私は怒鳴った。
「えっ?」
祥は驚く。
「いいから車を出すのよ!あれは幻よ。河合の死体を見たでしょう!」
私は祥をせかす。
「早く出さないともっと来る!早く!」
祥はアクセルをふかして一気にスタートした。
どんと何かにぶつかった音がして衝撃が体に伝わる。
祥は驚いてブレーキを踏んだ。
「駄目。行くのよ!」
私は祥の腕を掴んでそう言った。

祥はアクセルを踏んだ。
後ろを見ると額から血を流した河合が追い掛けて来る。
私は悲鳴を上げた。
祥がルームミラーを見てぎょっとする。
車は小屋からの登りの砂利道を加速する。もっと馬力が欲しい。車は林に突っ込みそうだった。

「祥、通りに出たらブレーキ!でないと崖から落ちる!」
私はそう叫んだ。
「分かっている!」
祥が怒鳴り返した。
タイヤの軋み音を暗闇に響かせて車は山沿いの道路に飛び出た。ガードレールが目前に迫る。私は再び悲鳴を上げた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み