肆 鈴の刻印 その一

文字数 1,785文字

最後は僕ですね。
僕はコヤマミツルと言います。
高校2年生です。

今からお話しするのは、僕が中学3年の時の出来事です。
中学3年といえば、高校受験を控えてそれなりにピリピリしています。

一方で中学生活も最後だし、高校に行ったら仲の良かった同級生と離れ離れになるし、出来るだけ楽しく過ごしたいと思うのも、当然のことだと思います。
不安とか期待とか、色んな気持ちが入り混じった、複雑な時期なんですよね。

そんな時に、僕のクラスの女の子が1人転校してきました。
シマダミキコという子でした。

シマダさんは、大人しそうな雰囲気の子でしたが、中3女子にしては、かなりの高身長でした。
多分170cmは軽く超えていたんじゃないかと思います。

やはり女子で背が高いと、それだけで目立ってしまいます。
うちの学校には、それほど質の悪い連中がいた訳ではなかったんですけど、それでもヤンチャな奴らが少しはいたんです。

そしてシマダさんは、そういう連中に目を付けられてしまったんです。
ただ背が高いというだけで、理不尽な話だと思います。

シマダさんはいつも教室の隅で、ポツンと一人座っていました。
転校してきた当初、何人かのクラスメートが話し掛けたんですが、彼女は極端に無口で、殆ど反応が返って来ないので、そのうち誰も話し掛けなくなりました。

事件が起こったのは、シマダさんが転校してきて一週間くらい経った頃でした。
昼休みの時間に、隣のクラスにいたヤンチャグループの一人が、僕のクラスの教室に入ってきて、彼女に絡み始めたんです。

虐める機会を狙ってたんでしょうね。
それはネチネチと、しつこく絡んでいました。

そいつが因縁を吹っかけていた内容は、主にシマダさんの容姿に関することでした。
彼女は長身に加えて、非常に細身だったので、そのことについて、子供じみた悪口を並べ立てたのです。

しかしシマダさんは、一向に反応しませんでした。
ただじっと俯いて、黙ってそいつに言われるがままだったのです。

するとそいつは、彼女のそんな態度が癇に障ったらしく、腕を掴んで思い切り引っ張りました。
そしてシマダさんは、椅子から転げ落ちて、床に倒れてしまいました。

その音に驚いて、僕は彼女の方を振り向いたのですが、その直前に、『リン』と鈴が鳴るような音を聞いたのです。
シマダさんをいびっていた奴は、教室中の注目を浴びてバツが悪かったのか、倒れた彼女をそのままにして、教室を出て行きました。
そしてシマダさんは、黙ったまま立ち上がると、何事もなかったように席に戻りました。

その日の放課後でした。
クラブの練習に行くために教室を出ると、階段から大きな音が聞こえてきたのです。

何が起こったのだろうと思って見に行くと、既に人だかりができていました。
そして野次馬たちの間から僕が見たのは、階段の踊り場に倒れている一人の生徒でした。

それは、さっきシマダさんに絡んでいた、隣のクラスの奴でした。
多分誤って階段を転げ落ちたんだと思いましたが、倒れているそいつの姿があまりに異様だったので、僕の眼はくぎ付けになってしまいました。

だって、首も両手両足も、あり得ない方向に折れ曲がっていたんですよ。
階段から落ちただけで、あんな風になるとは、とても思えませんでした。

見ただけで、そいつが確実に死んでいることが分かりました。
我に返った僕がそいつから目を逸らすと、そこにはシマダさんが立っていました。

彼女は階段下の踊り場を凝視しているようでした。
その目は何だか、怯えているような、悲しんでいるような、複雑な色に見えたのです。

その後はご想像がつくと思いますが、学校中が大騒ぎになりました。
警察と救急隊が呼ばれ、先生たちは現場から野次馬の生徒たちを排除するのに、てんやわんやになっていました。
もちろんクラブ活動は中止され、僕たちは強制的に学校から追い出されたのです。

翌日学校は再開されましたが、事件のことで持ちきりでした。
クラスの皆が、教室のあちこちで噂話に花を咲かせている中、隅に座ったシマダさんは、相変わらず無言のままでした。

後から聞いた話ですが、階段から落ちた生徒はやはり事故だったようです。
階段から降りようとして足を踏み外したのを、何人かの生徒が目撃していたようなのです。

その噂が流れると、騒然としていた校内の雰囲気は、徐々に収まっていきました。
しかし間もなく、次の事件が起こったのです。
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