弐 誓詞 その一

文字数 1,974文字

こんにちは。
エイジと申します。

今夜は、私と妻のスミレを襲った災難について、お話したいと思います。
私たちが結婚したのは、今から五年前でした。

結婚式は妻の希望で、街中にある、小さなキリスト教の教会で挙げました。
元々妻の実家はクリスチャンで、洗礼もその教会で受けていたのです。

私と妻は近所に住む幼馴染で、小中学校の同窓生でした。
高校と大学は別々でしたが、社会人になってから、ふとした契機(きっかけ)で付き合うことになって、そのままゴールインしたのです。

あ、すみません。
私と妻の馴れ初めなんて、興味ないですよね。

でも、この後の話と関連しているので、少し我慢して聞いて下さい。
妻の通っていた教会はカトリック系で、神父さんはカタギリという名の、五十代くらいの人でした。

その教会の神父は、妻が洗礼を受けた時からは代変わりしていて、カタギリ神父は、僕たちが結婚式を挙げる数か月前に、派遣されて来たようでした。
結婚式の打ち合わせで、何度かカタギリ神父と会いましたが、聖職者らしく、とても温和な印象でした。

そして結婚式当日、僕と妻はタキシードとウェディングドレス姿で、式に臨み、神の前で厳かに誓いの(ことば)を述べたのです。

「新郎エイジ。あなたはここにいるスミレを、
病める時も、健やかなる時も、

富める時も、貧しき時も、
そして共に生き、共に死する時まで、

妻として愛し、敬い
慈しむ事を誓いますか?」

カタギリ神父の厳かな言葉に続けて、私は「誓います」と、はっきり口にしました。
神父の顔は、式の事前打合せの時と違って、とても厳粛な表情に見えました。

「新婦スミレ。あなたはここにいるエイジを、
病める時も、健やかなる時も、

富める時も、貧しき時も、
そして共に生き、共に死する時まで、

妻として愛し、敬い
慈しむ事を誓いますか?」

「誓います」
続いて妻も誓いの詞を述べました。

「双方の誓いの詞を受け、これより夫婦と認めます。アーメン」
最後に夫婦そろって、「アーメン」と唱え、無事式は終わりました。

式に参列した家族、親族、友人たちの祝福を受けて、私たちの新婚生活は、順調に始まる筈でした。
しかし、そうはならなかったのです。

結婚して暫くの間は、平穏な生活が続きました。
近所の幼馴染ということもあり、お互い気心知れた仲だったので、妙に肩肘張ることもなく、穏やかな家庭が、自然と出来上がっていったのです。

思ったよりも、妻の信仰心が篤かったのには驚かされましたが、彼女が私に、信仰を押し付けてくることはありませんでした。
妻は毎週日曜の朝になると、教会の礼拝に通っていましたが、私が誘われることは、一度もなかったのです。

そして結婚してから半年ほど経った頃から、妻が徐々に体調を崩し始めたのです。
最初は妊娠かと思いましたが、検査の結果、そうではないということが分かりました。

それ以外の病気が心配になり、病院で検査を受けさせましたが、特に悪いところは見つかりませんでした。

妻の症状は、時々微熱が出たり、以前よりも喉が渇きやすくなったり、あるいは軽い腹痛を覚えたりという、軽微なものが多かったので、特に治療は行わず、そのまま経過観察をすることになったのです。

そんなある日のことでした。
私は、教会のカタギリ神父に呼び出されたのです。

偶々その日は、妻が友人と会う約束をしていた日だったので、私は一人で神父と会うことになりました。
場所は教会の中の一室でした。

カタギリ神父は、最近の妻の様子について、私に訊きたかったようです。
理由を問うと、礼拝に来ている妻が、以前よりも元気がないように見えたからだと言われました。

私は、妻が少し体調を崩していて、病院に掛かったことを説明しました。
それを聞いた神父は、妻の症状だけでなく、私の健康状態まで、根掘り葉掘り質問してきたのです。

私は、何でそれ程詳細を知りたがるのか、少し疑問に思いましたが、私たち夫婦のことを心配してくれているのだと好意的に解釈し、妻の様子などを詳しく説明しました。
それを聞いた神父は、何故か少し険しい表情を浮かべたように見えたのです。

その日の夜、神父と話してきたことを妻に話すと、彼女は少し驚いていました。
妻も日曜礼拝の後に、彼から同じようなことを訊かれていたそうなのです。

「親身になって、考えてくれているのかも知れないけど、ちょっと変だよね」
妻はそう言って、首を傾げました。

私も妻と同様の違和感を覚えていましたが、それ以上考えても仕方がないと思い、神父の話はそれで終わりました。
その日以後の日曜礼拝で、妻がカタギリ神父から、あれこれと訊かれることもなかったようです。

それからの数か月間、妻の体調は相変わらず良くなかったのですが、かと言って深刻な訳でもなく、月に一度病院で検査を受けて経過を見る日々が続いていました。
しかし突然、私たち夫婦を、理不尽な出来事が襲い始めたのです。
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