第65話

文字数 1,682文字

 俺がなんともいえない寒気で両肩を撫でていると、ソーニャがそれを見て、さすがに事の深刻さを知ったようだ。傍にいる近衛兵に叫んだ。
 
 マルガリータはヒッツガル師匠を箒へ乗せて、船へと急いだ。

 俺は船に乗る前に、この白い煙の元凶を全て退治することにした。駆け出しては、神聖剣で幾つもの獣をザックリと斬り捨てていく。

 軽いステップで、獣の爪や牙の攻撃を躱しては、止めの一撃をお見舞いした。数こそ減ってきたが、獣はまだ大量にいた。

 城下町の図書館辺りまで斬り結んでいくと。
 俺はゾッとした。

 このままでは、グレート・シャインライン国の国民が全滅してしまう!
 だが、国民の悲鳴も声も何も聞こえない。
 その中で、俺は破れかぶれに、近づく獣を斬りまくった。
 
「うらあああーーー!」

 俺はぶすぶすと腐り落ちる盗賊衣装を脱ぎ捨て、元の学ランになった。王族衣装は着ていない。城の中だけと決まっていて、戦闘はやはり盗賊衣装だ。

 さすがに疲れで、俺は荒い息を整えていた。
 いきなり、後ろからドスっと、鈍い音がした。

「う!!」

 俺は振り向いた。
 獣の牙が肩のすぐそばに忍び寄っていて、今にも俺の身体を噛み砕いてきそうだった。
 だが、ソーニャのサーベルでの突きが、獣の心臓を捉えていた。
 獣は絶命した。

「あなた! 無茶よ! 今、グレート・シャインライン国領土の全国民へと伝令班を向かわせているから!」

 そして、機転を回したんだ。

「相手は違う!! あなたのその剣は、真の元凶を倒すことができるのだぞ!」
「……わかったよ……ソーニャ……」
「さあ、船へ!!」
「よし!! 行こう! 白と騎士の国へ!!」

 俺とソーニャは、グレート・シャインライン国の王都用の港まで走りに走った。城下町から命からがら王城へたどり着く。そして、城門から坂を降りていくと、徐々に視界がモヤモヤとし白くなってきた。

 辺り、いや、もうすでに。
 グレート・シャインライン国全体が白い煙で覆われだしていた。

 行き交う通行人もいない。
 ただ、腐った死肉が地面に落ちているだけだった。

「ソーニャ……すまない……俺のせいだ……」
「いや、気にするな。あなたも国王として当然のことをしたまでだ……これが私たちとこの国の最後だとしても……」

 物凄い悪臭と白い煙に包まれた俺とソーニャの学ランや鎧が、ぶすぶすと腐りだそうとした。

 ここで死ぬのかと思った。

 その時!!

「強制転移!!」
 
 遠くから西田の声が聞こえた。

 気がつくと、俺とソーニャはグレート・シャインライン国で一番速い船。
 白き輝く希望の操舵室にいた。

 操舵室は一度見学をしたことがある。
 前にソーニャから聞いたんだけど、過去のソーニャが四大強国の兵に囲まれた際に、王城から逃げる時に、ラピス城へこの船を使ったと言ったからだ。 

 白き輝く希望という名の船は、その名とは違い灰色な船は、王族脱出用の超加速船だった。

 この船は、四大強国の一番速い船でも、追いつけなかったといわれているんだ。

 白き輝く希望はグングンと物凄い速さで、海を白と騎士の国まで走っている。

 ここ広い作りの操舵室では、オニクボと白き輝く希望の上を、羽ばたいているブルードラゴンを除いてナイツ・オブ・ラストブリッジのメンバーが勢ぞろいしている。そして、周囲を走り回る近衛兵たちが船を操縦していた。他の一般兵たちは、自室にいるのだろう。

 俺はグレート・シャインライン国の方角を、強い眼差しをして向いた。
 すでに、遥か遠く小さくなったグレート・シャインライン国の本土は、ここからでも真っ白い。

「なあ、ソーニャ? 引き返さないか? やっぱり国王が国を捨てるのはよくないんじゃ……」
「そういうな。これも本国のためなのだ。元凶を叩かなければこの戦いは負ける」

 俺は隣のソーニャに話し掛けた。

 そういうもんかな?
 うーん……今でも俺の心にはどうしようもない焦燥感があるんだ。
 
 ???

 ふと、気づくと、マルガリータが俺を見つめていた。
 何も言わなかったけれど、「これでいいのよ」とマルガリータの真摯な顔が言っているような感じがした。
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