第23話

文字数 1,960文字

「痛ってーー!」

 髑髏のナイフは投げてしまったし、どこから弓を射っているのかもわからない。早くにラピス城へ行かないといけないのに……。


 俺の腕から血が滴り落ちる。
 援護射撃はまだ続いていた。

 飛んでくる矢を神聖剣で弾くと、今度は騎士団長が斬りかかる。
 
 俺は額の汗を拭う。
 かなり疲弊してきた。

「うりゃーー!」
「うん? へ??」
  
 空から女の子の声と同時に光が降り注ぐ。
 俺の身体を光が包み込むと、あっという間に腕の痛みや身体中の疲れが消えていく。

「回復は私に任せろ! だから、鬼窪はそいつらを倒せ!」
「か、通小町か?! わかった! 任せろ!」 

 俺は木々や枝葉で見えにくい空に向かって、言うと、軽いステップを取り戻した。色々な角度から来る矢を神聖剣で斬り落としながら、騎士団長の懐へ突進した。

「どりゃーー!! もらったーーー!」

 神聖剣を下から振り上げる!

 騎士団長の鎧と兜が腹から頭まで二つに分離した。
 騎士団長は軽く血を噴き出して、倒れた。

 浅く斬ったとはいえ、神聖剣の切れ味だからなあ。

「よし! ありがと通小町! 俺はラピス城までまた走って行くよ!」
「……ふふふふふふふふふふ……」

「……」

 空から通小町の不気味な笑い声が木霊した。その笑い声は、俺は何を意味しているのかちっともわからなかった。
  
 途中、森の中で凶悪な顔の黒の骸盗賊団の一人が倒れていた。手には血塗られた斧を持っているが、見るからにかなり深い怪我をしている。腕と胸と腹にかけて矢が数本突き刺さっていて、一本は貫通していた。

 虫の息だ。

「大丈夫か?」
 俺は、盗賊の腕に刺さった矢の一本をゆっくりと抜いてやった。
「お……お頭……おらぁもう駄目でやす……。この森を突き抜けると……ラピス城に行けやすが……うぐっ!」
「おい! もう、しゃべるな! 酷い傷だぞ!」

 俺は見かねて空の木々や枝の隙間へ向かって、叫んだ。
 
「通小町!!」
「鬼窪! 私に命令するなー! うりゃーー!」

 空から激しい光が盗賊の身を包んだ。
 すると、見る見るうちにあれほど深かった傷が癒えていく。

「うへえええー。凄いぞ。通小町!」

 通小町も貴重な戦力になる。俺はこの時そう思った。性格以外はだけど……。

「う? お頭? 今何をしたんでやすか? 体の痛みがなくなってきやしたでやす」
 盗賊は、すっくと何事もなかったかのように起き上がった。
「ああ、仲間に聖女がいるんだ。そいつは凄い回復魔法を使えるんだ。ほら、いや、ここからじゃ見えないか。今、空にいるんだよ」
「そうでやすか……そいつはついてやがる。それではお頭! おらぁ、ラピス城へ戻ってクシナの奴らを血祭りにしてきますぜ」

 盗賊は手にした斧を持ち直し、残忍な顔をしてラピス城へと走って行った。
 
 チュンチョンとこんな殺伐とした森でも小鳥が鳴いている。
 本当にここグレード・シャインライン国は資源が豊富なんだな。
 木々の隙間から零れる夕日の柔い日差しも綺麗だった。
 どこかから川のせせらぎも聞こえる。

 決心も固くして、俺も橋を守りにラピス城へ再び走った。

「ふふふふふふふ……こんなに豊富な資源があるっていうんなら、いずれは私がこの王国の……ふふふふふふ」
「……」

 空からの通小町の声で、彼女の目的がわかった……。
 そういえば、ブルードラゴンに一緒に乗っているはずのヒッツガル師匠はどうしたのだろう?

 その時。

 森の遥か向こう。クシナ要塞がある方……ではない。に、大爆発が起こった。
 
 きっと、ヒッツガル師匠だ!
 あ、でも。クシナ要塞を食いとめると言ったマルガリータはどうしたのだろう? 無事だといいけど。
 
 今は、わからないことだらけだけど、俺は頭を振って一刻も早くラピス城へ行こうと思った。

 俺はラピス城へ走るに走った。急いで森を突き抜けると、空気は森の木々の匂いから潮の香りへと変わった。

「見えた!! ラピス城だ!」

 やがて、ラピス城の長い橋が見えてきた。だけど、その橋を埋め尽くすかのようなクシナ要塞の騎士の大軍も、俺の目の前に広がっていた。

 あれ? え……?! あいつは?!

 その橋への入り口を陣取っているのは、騎士でもなくソーニャとガーネットでもなく……何故か黒の骸盗賊団??

 頭領のオニクボは、多くの盗賊を率いてクシナ要塞の騎士たちと激しい戦闘をしているところだった。

「盗賊を一人残らず海へと落とせーーー!!」
「落とすんだ!!」
「斬り伏せろーー!!」

「ふん! 早くこっちへ来い……」

 大勢のクシナ要塞の騎士の旗が橋の入り口を囲み。俺には多勢に無勢とも取れた。だが、オニクボは冷静だった。

 俺は神聖剣を構えて、その場に乱入しようと思ったが。

 急に、剣戟の音や怒号や、血と潮の臭いを乗せた風に混じって、辺りに土の匂いが充満した。
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