第70話

文字数 1,829文字

「う!! ……や、やっぱり!!」

 足が遅くなっている。
 力も湧いてこない。
 神聖剣もとても重い。
 
 ハイルンゲルトから授かれた力は、亡霊となって天に昇ったハイルンゲルトと一緒に、きえてなくなっていたのだ。

 俺は普通の学生になっていた。
 
 急にガクガクと足が震えだす。
 立っているのもやっとだった。

 どうするんだ?
 どうするんだ?

 どうする?
 どうする?

 このままじゃ……。

 俺は必死に逃げるが、足が遅くなっているため。
 さっき倒れたはずの騎士に追いつかれてしまった。

 斬撃が来る!!

 俺は目を瞑った。

 グサッと派手な音がした。

 ゆっくりと目を開けると、騎士の首元には髑髏のナイフが突き刺さっていた。一人の男がこちらにのんびりと歩いてくる。

「一部始終は俺も見ていたぜ。さあて、どうすっかなあ……」
「オニクボ? 頼む! 助けてくれ!」
「ははははははは」
「頼むよ! 今の俺じゃ、鋼雲剣も使えないんだ!」
「残念だな。鬼窪くん。今まで、その亡霊の力で強くなってたんだろ。だとしたら、ここでは用なしだな」
「……きっと、ソーニャなら国の半分は分けてくれるはずだよ」
「ふっふふふふふ」
「なら、グレート・シャインライン国全部だ!」
「ふぅーーーー」
 
 オニクボは目の前の敵に向かって、ニヤニヤと意地悪く笑っている。

「あのなあ……」

 オニクボがそう言って、続きを言いそうだった時。 
 俺の中で何かがチクリと刺さった。

 秋野……。

 俺は神聖剣を構えた。

「悪いな。オニクボ。やっぱやめだ。俺はここへ来たのは、秋野を助けたかったからだ。きっと、もう助けられないんだ。けれども、この国を。グレート・シャインライン国を、橋を、必ず守ってみせる!!」
 
 俺は突撃した。

「ま、待て!! 別に助けないとは……」

 オニクボの慌てた声が後ろから聞こえる。
 その時、俺の身体が緑色に発光した。

「フルスロットル!!」

 身体中を暴走するほどの力が駆け巡る。

「いくぜーーーーー!! 鋼雲剣!!」

 俺は高校生のまま。
 鋼雲剣を放った。

 強い爆発の後に爆速の光の束が騎士の身体を通り抜けて、そのまま地下から這い出てきた敵までを、貫通する。
 衝撃で、腐った床に大きな穴が空いてしまったけど……フルスロットル……恐るべし……。

「いくぜーーーーー!! 鋼雲剣!!」

 俺は高校生のまま。
 鋼雲剣を放った。

 強い爆発の後に爆速の光の束が騎士の身体を通り抜けて、そのまま地下から這い出てきた敵までを、貫通する。
 衝撃で、腐った床に大きな穴が空いてしまったけど……フルスロットル……恐るべし……。

「ありがとな……猪野間」
「ふふ。ちゃんと勉強してるようね」

 その通りだ。
 俺は鋼雲剣の使い方。
 真実の力を身体で覚えていたんだ。

 少し、その場で軽いステップをしてみる。

 うん! いつもの調子だ!

 いけるぞ!!

「回復は任せろ! 私もいるぞ!」
「私も!」

 通小町と西田の声が聞こえた。

 俺の身体で腐った怪我が淡い光に包まれ瞬時に治ってきた。
 通小町の回復魔法だが……うん?
 淡い光はいつまでも俺を包み込んでいた。

「へえ、嬢ちゃんたちの魔法。凄いな俺にも掛けてくれ」
「ダメ」
「まあな」
「ふん。ケチだな……。」
「ふふ……今のところ、強化補助魔法はオニクボくん戦用なの」
「さっき、回復してやっただろ?」
 
 腐敗していく廊下で俺のクラスメイトが揃った。
 大量の白い煙が消えていく。
 
「白い煙は西田に任せて、鬼窪とオニクボは全力で戦え!」

 通小町の言う通り、白い煙は西田の転移魔法で別の空間へと転移していったのだろう。

 これで心置きなくクラスド・エドガーと戦える。

「騎士や魔法使いとかは、俺に任せろ!!」
「わかった!」

 オニクボが卵から生まれた騎士たちを相手にしてくれる。俺は再び祭壇へと降りた。目指すわ暴君クラスド・エドガーだ。

 薄暗い地下の祭壇には、クラスド・エドガーという名の巨大な蝿が佇んでいた。こちらに向かって、笑っているかのような不気味な顔をしている。

「これで! 最後だ!!」

 俺は神聖剣を振り上げ、鋼雲剣を放った。
  
 
………

 白い煙も消え失せて、静寂を取り戻した祭壇。
 外の獣たちは、ソーニャやナイツ・オブ・ラストブリッジ、西方のガルナルナ国によって、一掃された。
 
 白と騎士の国に平穏が戻ってきた。
 
 この戦争は終わった。

 さて、帰るか……。
 元の世界へは戻れないけれど。
 俺たちにはこのグレート・シャインライン国があるんだ。
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