第7話 

文字数 2,455文字

 一瞬で青い鎧そのものや鋼の盾すらも切り裂く神聖剣。
 橋の凸凹も気にしない俺の軽やかなステップ。
 向かってくる相手の動きが逐一気づけてしまう研ぎ澄まされた直観。

 それらが俺を最強にしていた……。


 俺は一呼吸すると、薙ぎ払った青い鎧の人たちが辛うじて生きていることにホッとした。それと同時に、火炎による橋からの熱や煙で激しく咳き込んだ。ラピス城へと繋がる唯一の橋はマルガリータと俺によって、あっという間に形勢逆転していた。

「あ! 鬼窪くん! 危ない!!」

 空中からのマルガリータの叫びで俺は躱す態勢を一瞬速く作れた。
 大勢の青い鎧の人たちの中から光る剣が飛び出して俺のマントの端を切り裂いた。
 
「ラ……ライラック……か?」
「オニクボよ! 必ず戻って来ると信じていたぞ!!」

 多くの青い鎧を跨いで突進してくるライラックの白い鎧が迫る。俺は神聖剣を片手に持ち、髑髏が彫り込まれた短剣も片手に持った。

「ライラック! この橋を守るためにここで決着を付けてやる!!」
 
 神聖剣とライラックの剣から火花が飛び散った。
 遥か前方の橋では爆音が木霊する。未だマルガリータが空中を飛びまわり数千の青い鎧の人たちと交戦中だった。

 熱気と熱風で汗が頬を伝った。
 俺から仕掛けた。
 神聖剣を思いっきり振り上げ、ライラックの懐に突撃する。
 だが、ライラックは大盾を真っ正面に構えると、剣を斜め横に振り上げる。
 
「見えた!!」

 俺はライラックの懐寸前でジャンプして前転した。目の前にがら空きのライラックの背中と白いマントが見える。

 髑髏の短剣で心臓の部分に突きを放った。

 が、ライラックは振り向き様に大盾で短剣の突きを弾いてしまった。

 俺は軽いステップでバックして態勢を整えた。
 ライラックも後ろへ後退して態勢を整える。
 
「ふうっ、ふうっー……うう……。貴様! 本当に私に斬られそうになって、ただ逃げ回っていた。あの時のオニクボの息子か?!」
「ああ、そうだ!! いや、ちがーーう!! 俺は普通の高校生だったんだ!」
「何? 高校生?? とは、一体何だ!!」
「ただの学生さ!!」

 俺は神聖剣を遥か上空へ向けて構えた。

 そして、気合いと共に最上段からの神聖剣を振り下ろそうとした。
 が、遠い橋の方から数発の大砲の弾が俺に向かって飛んできた。

 俺を爆風と熱が襲う。凄まじい轟音と衝撃と共に目から火花が飛んで、耳がキ―ンと鳴った。何が起きたのかわからない。激しい頭痛と耳鳴りを抑えて、周囲を見回すと、いつの間にか俺の前には、風に包まれたマルガリータが右手を挙げて立っていた。激しい砲撃を空気が振動するほどの突風で全て弾いてしまっている。砲弾は橋から海の方へ吹っ飛んで爆発する。

「ふーっ、危ない。危ない。……鬼窪くん無事?」
「ありがとうな。マルガリータ」
「無事で良かった。大砲の弾は私に任せて。でも、今度からは騎士団たちはどうしようもないからね。自分でなんとかしてね。じゃ!」
「へ?? ライラックもか??」

 マルガリータは再び大きな箒へと跨ると空を飛んだ。そして、次々と撃たれる砲撃を風で弾き飛ばしていく。

「騎士団の数はまだ半端じゃないし! お、俺だけでどうしようっていうんだ!!」
「ふふふふっ。よーっし、これならば! オニクボを数で押し潰せーー!! 全軍突撃ーーー!!」

 橋の向こうから大勢の騎士団がライラックの命を受けて、俺に突撃してくる。

「なん?? や、ヤバくない?!」
 俺は冷や汗を掻いて、咄嗟に神聖剣を構えた。
  
 土煙を上げ、橋の向こうから軽く5000はいく青い鎧の騎士団が俺に統率のとれた動きで前進してくる。

「加勢するよ!」
「オニクボよ! 私も加勢するわ!」
 
 ラピス城からは、大女とソーニャの二人が剣をそれぞれ振り上げて、俺の傍へと駆け寄って来た。ソーニャも大女も大した怪我はない。

「王女はお下がりください!」
「でも、下がっても意味はまったくないんだよ!」

 大女の一声にソーニャが剣を構えた。
 辺りは迫り来る騎士団の耳を塞ぎたくなるような足音が轟き。不穏な空気が流れ始めた。

「あ?! やっと来たわ! 援軍よ!」

 空中のマルガリータが大砲の弾を弾きながら、西の方角を指差した。

 その時、 血の臭いを乗せた一陣の風が吹いた。橋の向こうから騎士団とは違う土煙が昇りだした。凄まじい数の黒の骸団の男たちが参戦してきたんだ。騎士団と黒の骸団は橋の向こうであっという間にぶつかり合い激しい交戦状態となった。遠くから剣戟や怒号の声がここまで聞こえてくる。

「くっ! なんだと!!」
 ライラックは悔しそうに歯ぎしりした。
「オニクボよ! 私たちの勝利は目前よ!」
 ソーニャが叫んだ!
「おのれーーー!! オニクボよ! ここでお前だけでも必ず討ちとってくれるぞ!! この場で、貴様に一騎打ちを申し出る!!」」
 ライラックは俺の方に剣の切っ先を真っ直ぐに向けた。

「私も戦うよ!」
「いや! ここは俺に任せろ!」

 加勢をしたがる大女を下がらせ、俺はありったけの力を込めて神聖剣を握った。途端に神聖剣は眩く光り輝いた。

「ライラック! 橋を守るため! 仕方ないからその誘いに乗ってやるぜ! いくぜーーーーー!!」

 ほとんど直観だったんだ。
 俺と神聖剣にはまだ隠された力があるはずだって。

 ライラックの懐へと素早く走ると、ライラックは大盾をすぐに構えた。俺とライラックの剣が交える。周囲がスローモーションのようにゆっくりと動きだした。きっと、俺の大量のアドレナリンのせいだ。ライラックの剣も光りだしたが、俺は神聖剣を下から振り上げた。

 大盾を真っ二つにすると、ライラックは剣を構えて後ずさった。

 瞬間。

 俺はその場から地を蹴って、ライラックの腹部に神聖剣を突き放っていた。
 血飛沫と白い鎧の破片が辺りに派手に飛んで、ライラックは地面に倒れた。
 
「はっ! コロ……コロ……」
「いや、ライラックはまだ生きているわ。オニクボよ。よくやった!」

 俺の首にソーニャが抱き着いてきた。
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