第6話 ナイツオブラストブリッジ
文字数 2,347文字
ひんやりとした廊下は静寂に包まれていたが、今まで武器を構えて伏せていた盗賊団の男たちが、おっかなびっくり立ち上がりながらひそひそ話を始めた。それから、一人の男が俺とマルガリータに近づいてきて頭を深々と下げてきた。
「お頭。本当にすいやせんでした。その老騎士がお頭のお仲間だったとはつゆ知らず……。その老騎士は確かある村を俺たちが襲撃した時に頭領がいつもの卑怯な手を使って倒したんでやす。老騎士は最後まで村のために戦ったんでやすが、頭領のずる賢さの方が一枚も二枚も上だったでやす。それ以来、頭領は老騎士を牢へと入れてからどこかへ旅に出たんでやすよ。その後、頭領が旅の途中で死んじまったと、風の噂で聞いたんでやす……」
「そんなに凄い人だったのか? あの老人?!」
俺は事の次第を知った。
英雄だったんだ。
あの老人は……。
でも、人死にはこれで二度目だ……。
薄暗い廊下で松明に写るマルガリータは、心底納得したという顔をしていた。でも、俺は見逃さなかった。マルガリータが一瞬涙ぐんだ顔をしたことに……。
「そうだったのね……。ハイルンゲルト……。噂で何度も聞いたわ。元四大騎士で最強の聖騎士ハイルンゲルトはドラゴンからもラピス城を救った英雄だって、大多数に囲まれても冷静さを失うこともなかったって。例え命が掛かっても王女をお守りしたって……。でもね、鬼窪くん。そのハイルンゲルトから聖騎士の力を受け継いだんだから、これからもっと激しくなっていく戦闘には必ず参加しないといけないわ。そして、盗賊団の人達もよ」
「ああ……」
俺は俯いてハイルンゲルトが掴んだ右腕を何度も摩っていた。
「俺たちは構いませんぜ! いつも新しい頭領と一緒にいます!」
「あっしらも!」
「あっしも! 罪滅ぼしでさー!」
松明の明かりで照らされた凶悪な顔の盗賊団の男たちは、俺のためならいつ死んでもいいという顔をしていた。
暗い盗賊団の洞窟から出ると、明るい外はやはり荒廃した草原が広がっていた。盗賊団の一人の男が俺に近づいて、とても動きやすい黒一色の中に金の輪や銀の輪が縫われたマントと、金の刺繍のある茶色の布のズボンに大きな髑髏マークのついた灰色のシャツを渡して来た。
そして、黒い骸骨が彫り込まれた短剣とどこかの国の紋章が浮き出た長剣も渡した。
俺は盗賊団の男たちから学ランを脱がされ、それらに身につけていく。
「え?! その剣……神聖剣よ! こんなところにあったの?!」
「神聖剣?」
「ええ、ハイルンゲルトの剣よ。そして、グレート・シャインライン国の唯一残っていた国宝なの」
俺は目を閉じて神聖剣を一振りしてから、鞘へ納めた。
マルガリータが目を丸くして、神聖剣を見つめていた。
「ふーっ……じゃ、色々あったけれど。鬼窪くん乗って。さあ、行くわよ。黒の骸団の人たちもすぐにラピス城へ向かってね」
俺はマルガリータの跨る大きな箒の後ろに同じく跨った。
不思議なことにまったく恐怖しない俺を乗せて箒が浮いてきた。
その次はマルガリータが「飛んで!」と箒に向かって叫ぶと、箒はマルガリータの言葉を理解したのか天高く空を飛んだ。見る見るうちに下方の草原の荒れ果てた大地が遠ざかっていく。
「うわああああー、た、高い! 高いぞ!」
「あははは。私がお師匠様の箒に初めて乗せてもらった時と同じ反応なのね。あの時は死ぬかと思ったけど、まあいいわよね。急ぐわよ! 鬼窪くん! しっかり掴まっていて……って!! どこ触ってるのよーーー!!」
「うへええええー!」
でも、高いところは苦手だ! 俺は空中で目を閉じて、前方から叩きつけるかのような突風の中で、必死に両手で柔らかくて暖かいものを掴んでいた。
猛スピードでマルガリータの箒が飛んでいるのがわかる。しばらくして目を開けると、前方にラピス城の長い橋が見えてきた。
「もーうっ!! いい加減! 離しなさーーい!!」
「あ! ごめーん! わかったってーーー!!」
マルガリータの控えめな胸を今まで必死に掴んでいんだな俺……。
激怒したマルガリータは何故かハッとして、片手から下方へ火炎を放った。
ラピス城へ繋がる橋の中央に火炎がぶち当たり、轟音と共に煙を巻き上げる。俺は驚いて橋を見ると、そこにはライラック率いる青い鎧の人たちが埋め尽くしていた。
ラピス城側の数少ない普通の鎧の人たちは、皆降伏しようとしているか全滅寸前の状態だった。
さっきマルガリータの放った火炎は、僅か二人のためだった。未だ戦っているのは白い鎧を着たソーニャと普通の鎧を着た大女だけだったのだ。
「鬼窪くん。さあ、行って! 私は後方支援に回るわ!」
ライラック率いる青い鎧の人たちが、遥か下方からこっちへ弓を引いてくる。雨あられのような矢が飛んでくるが、マルガリータは難なく片手から発生する火炎で矢を振り払っていく。
「わかった!」
俺は決死の覚悟で、わけもわからずマルガリータの箒から橋へと飛び降りた。
「って? ええ? 主力の間違いじゃないのか??」
橋へと落下している間に、マルガリータの火炎弾は次々と射出され、橋で戦っていた1000人を超える青い鎧の人たちを片っ端しからふっと飛ばしていた。
火炎弾が着弾した橋の至る所から立ち昇る凄まじい黒煙で目が痛かった。目を閉じて橋へと着地すると、すぐさま30人は優に超える青い鎧の人たちが俺に突撃してきた。俺は意外にも恐怖はまったく感じなかった。ハイルンゲルトから力を与えて貰ったからだろうか? それとも、手にした神聖剣のせいだろうか?
俺は目を瞑ったままだ。
体が自然と動くんだ。
気づいたら、辺りの爆炎の轟音と共に青い鎧の人たちの絶叫が木霊した。俺は自然に舞うように神聖剣を振っていた。
「お頭。本当にすいやせんでした。その老騎士がお頭のお仲間だったとはつゆ知らず……。その老騎士は確かある村を俺たちが襲撃した時に頭領がいつもの卑怯な手を使って倒したんでやす。老騎士は最後まで村のために戦ったんでやすが、頭領のずる賢さの方が一枚も二枚も上だったでやす。それ以来、頭領は老騎士を牢へと入れてからどこかへ旅に出たんでやすよ。その後、頭領が旅の途中で死んじまったと、風の噂で聞いたんでやす……」
「そんなに凄い人だったのか? あの老人?!」
俺は事の次第を知った。
英雄だったんだ。
あの老人は……。
でも、人死にはこれで二度目だ……。
薄暗い廊下で松明に写るマルガリータは、心底納得したという顔をしていた。でも、俺は見逃さなかった。マルガリータが一瞬涙ぐんだ顔をしたことに……。
「そうだったのね……。ハイルンゲルト……。噂で何度も聞いたわ。元四大騎士で最強の聖騎士ハイルンゲルトはドラゴンからもラピス城を救った英雄だって、大多数に囲まれても冷静さを失うこともなかったって。例え命が掛かっても王女をお守りしたって……。でもね、鬼窪くん。そのハイルンゲルトから聖騎士の力を受け継いだんだから、これからもっと激しくなっていく戦闘には必ず参加しないといけないわ。そして、盗賊団の人達もよ」
「ああ……」
俺は俯いてハイルンゲルトが掴んだ右腕を何度も摩っていた。
「俺たちは構いませんぜ! いつも新しい頭領と一緒にいます!」
「あっしらも!」
「あっしも! 罪滅ぼしでさー!」
松明の明かりで照らされた凶悪な顔の盗賊団の男たちは、俺のためならいつ死んでもいいという顔をしていた。
暗い盗賊団の洞窟から出ると、明るい外はやはり荒廃した草原が広がっていた。盗賊団の一人の男が俺に近づいて、とても動きやすい黒一色の中に金の輪や銀の輪が縫われたマントと、金の刺繍のある茶色の布のズボンに大きな髑髏マークのついた灰色のシャツを渡して来た。
そして、黒い骸骨が彫り込まれた短剣とどこかの国の紋章が浮き出た長剣も渡した。
俺は盗賊団の男たちから学ランを脱がされ、それらに身につけていく。
「え?! その剣……神聖剣よ! こんなところにあったの?!」
「神聖剣?」
「ええ、ハイルンゲルトの剣よ。そして、グレート・シャインライン国の唯一残っていた国宝なの」
俺は目を閉じて神聖剣を一振りしてから、鞘へ納めた。
マルガリータが目を丸くして、神聖剣を見つめていた。
「ふーっ……じゃ、色々あったけれど。鬼窪くん乗って。さあ、行くわよ。黒の骸団の人たちもすぐにラピス城へ向かってね」
俺はマルガリータの跨る大きな箒の後ろに同じく跨った。
不思議なことにまったく恐怖しない俺を乗せて箒が浮いてきた。
その次はマルガリータが「飛んで!」と箒に向かって叫ぶと、箒はマルガリータの言葉を理解したのか天高く空を飛んだ。見る見るうちに下方の草原の荒れ果てた大地が遠ざかっていく。
「うわああああー、た、高い! 高いぞ!」
「あははは。私がお師匠様の箒に初めて乗せてもらった時と同じ反応なのね。あの時は死ぬかと思ったけど、まあいいわよね。急ぐわよ! 鬼窪くん! しっかり掴まっていて……って!! どこ触ってるのよーーー!!」
「うへええええー!」
でも、高いところは苦手だ! 俺は空中で目を閉じて、前方から叩きつけるかのような突風の中で、必死に両手で柔らかくて暖かいものを掴んでいた。
猛スピードでマルガリータの箒が飛んでいるのがわかる。しばらくして目を開けると、前方にラピス城の長い橋が見えてきた。
「もーうっ!! いい加減! 離しなさーーい!!」
「あ! ごめーん! わかったってーーー!!」
マルガリータの控えめな胸を今まで必死に掴んでいんだな俺……。
激怒したマルガリータは何故かハッとして、片手から下方へ火炎を放った。
ラピス城へ繋がる橋の中央に火炎がぶち当たり、轟音と共に煙を巻き上げる。俺は驚いて橋を見ると、そこにはライラック率いる青い鎧の人たちが埋め尽くしていた。
ラピス城側の数少ない普通の鎧の人たちは、皆降伏しようとしているか全滅寸前の状態だった。
さっきマルガリータの放った火炎は、僅か二人のためだった。未だ戦っているのは白い鎧を着たソーニャと普通の鎧を着た大女だけだったのだ。
「鬼窪くん。さあ、行って! 私は後方支援に回るわ!」
ライラック率いる青い鎧の人たちが、遥か下方からこっちへ弓を引いてくる。雨あられのような矢が飛んでくるが、マルガリータは難なく片手から発生する火炎で矢を振り払っていく。
「わかった!」
俺は決死の覚悟で、わけもわからずマルガリータの箒から橋へと飛び降りた。
「って? ええ? 主力の間違いじゃないのか??」
橋へと落下している間に、マルガリータの火炎弾は次々と射出され、橋で戦っていた1000人を超える青い鎧の人たちを片っ端しからふっと飛ばしていた。
火炎弾が着弾した橋の至る所から立ち昇る凄まじい黒煙で目が痛かった。目を閉じて橋へと着地すると、すぐさま30人は優に超える青い鎧の人たちが俺に突撃してきた。俺は意外にも恐怖はまったく感じなかった。ハイルンゲルトから力を与えて貰ったからだろうか? それとも、手にした神聖剣のせいだろうか?
俺は目を瞑ったままだ。
体が自然と動くんだ。
気づいたら、辺りの爆炎の轟音と共に青い鎧の人たちの絶叫が木霊した。俺は自然に舞うように神聖剣を振っていた。