第21話

文字数 1,259文字

「どう、神聖剣にハイルンゲルトも知らない秘められた力はあった?」
「いや、普通に戦っていたからわからないんだ」
「普通に戦ったの! 鬼窪くん。凄いわ!」

 マルガリータは感心した。
 大きな箒はブルードラゴンのまた背に括り付けてあった。

 ブルードラゴンの背に乗った俺たちはラピス城まで高速で飛んでいた。ブルードラゴンも早く戻りたかったのだろうか? 今では、あっという間に海の上だ。

 海の上に浮かぶ大型船は、まだ星の数ほどあった。
 もう、ガルナルナ国へ向かってから一日はラピス城を空けている。 

 ソーニャとガーネットは無事だろうか?

「ひぃーーええええええーーーー! 高い! 速い! 高い! 速い!」

 茶髪を肩までピッタリと伸ばしていて、背がやや低く。分厚いメガネを掛けている通小町がブルードラゴンのあまりの速さと高度に怖がっていた。
 風圧もそれなりなのだから尚更だろう。
 そういえば、通小町にとって、空を飛ぶのは初めてのようだ。

「かなりラピス城を空けてしまったからねえ。もう急いで戻らないと。この速さなら夕食までには戻れるだろう」

 ヒッツガル師匠が身を引き締めてから、こちらへ微笑んだ。
 
 俺は心配になって来た。
 今になって、ガーネットが残ってくれて良かったと思う。
 だけど、たった二人で大丈夫だろうか?

「ブルードラゴン! もっと速く! 急いでくれ!」

 ブルードラゴンは、俺の言ったことを理解したのか更にスピードを上げた。視界にグングンと美しいラピス城が近づいてくる。もう、下は荒れ果てた草原だった。

「ひぃーーー! おのれ鬼窪ーーー! ウキ―――!」

 捕虜の通小町があまりのスピードにキレた。
 あと、捕虜といってもただ俺の前にちょこんと座っているだけだった。
 
 この世界に手錠なんてものもはないしな……うん?

 俺の目の前の聖女の恰好をした通小町のスカートが、風圧に耐えきれずに盛大に捲れてしまった。
 ヒッツガル師匠はマルガリータと話し込んでいるから、何も見ていなかったが……俺だけピンク色に顔を真っ赤にした。

「鬼窪! 見―たーなー!」

 鬼の形相で振り向いた通小町は、右手を思いっ切り振り上げる。
 結果。高度600メートルでのビンタは俺を失神寸前にまで追い込んだ……。

「ブルードラゴン! 偉い! もうラピス城よ!」
「ああ……さっき、マルガリータと話していたんだが、ラピス城……正確にはグレード・シャインライン国を狙う強国は、東方のクシナ要塞、北方のトルメル城と白の騎士の国、南方のサンポアスティ国が残っている。いずれも伝説級の強国だぞ!」

 下方のラピス城の橋の上はすでに激しい戦争中だった。
 
「わかった! すぐに降りよう!」

 黒煙が舞い上がり、激しい怒号のする橋の上。一体、今度はどこの国が攻めてきたんだろう?

 俺は神聖剣を構えて、マルガリータに合図を送った。ブルードラゴンはすぐにキレるからある意味危険だった。

「了解! じゃあ、飛ぶわよ! 鬼窪くん。お師匠は通小町さんをお願いしますね!」

 大きな箒にマルガリータと俺は乗った。 

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