第26話

文字数 1,706文字

「はあ、はあ、はあ……まだ走るのか……」

 俺は再び森の中をクシナ要塞へと走っていた。
 今度は夜の森だ。夕日が完全に沈んでしまって、辺りは漆黒の闇が覆う不気味な森になっていた。すると、手にした神聖剣が光りだした。その明かりに照らされ、暗闇が支配していた不気味な森はその美しさを取り戻した。
 
 鳥の囀りは消え失せ、フクロウのホー、ホー、という鳴き声は夜のままだけど。
 俺は今度も神聖剣に救われたと思った。
 ハイルンゲルトに感謝しないとな。
 何故なら所々に、地面に盗賊団が掘った落とし穴が大口を開けていたからだ。

 ふぅ―、こんな落とし穴には落ちたくはないなあ。
 ぶるっと、震えて心底そう思った。
 さすがに、落ちたら終わりだ。
 その証拠に、大口の中にはクシナ要塞の騎士たちが、無残な姿となって地の底で蹲っていた。

「まだ、クシナ要塞が見えないなあ。 あ、そうか。要塞自体の移動はゆっくりだったから。だから、まだラピス城との距離はあまり縮まっていないんだ」
「あら、鬼窪くん。どうして戻ってきたの?」

 上を見ると、真っ白いものが太腿の隙間から……。

「どこ見てるのよーー!」

 
 いきなり超低空飛行で箒がすっ飛んできて。
 パチーン!  
 突然、振り上げられた平手打ちが俺の頬に炸裂した。

 いたたたたた!
 突然、俺の上に現れたのは誰だよーーー!!

 よく見ると、箒に乗ったマルガリータだった。その大きな箒の後ろには、ヒッツガル師匠がいた。
 
「アハハハ……。鬼窪くん災難だったね。それはそうと、クシナ要塞は何故か動きをピタリと止めたんだ」
「え?? クシナ要塞が止まった??」 
 
 俺は頬を抑えて驚いて聞き返してしまっていた。
 ひょっとして、故障だったりして……。

「そうよ。なんでだろうなあって、思ったら、一人の老人がクシナ要塞から現れて、一旦。戦いを休止しようって提案してきたの。クシナ皇帝がソーニャ様にどうしてもお会いしたいって……」
「クシナ要塞が戦争の一旦休止を??」
「ええ……。何か考えがあるのは目に見えているわ。でも、今はどんなことでもいいの。それだけ、クシナ要塞が動きを止めてくれたのは、私たちにとってとてもラッキーなことなの。どうしても、私たちの攻撃魔法じゃクシナ要塞をの進行を阻止できなかった。この間に、私とヒッツガル師匠は、ソーニャ様を呼びに行くわ」
「ああ……」
「鬼窪くん。一ついいかしら? 休止しているからってクシナ要塞には絶対に気をつけてね。ちょっとした油断でも、後々命取りになってしまうことがあるの。それが戦争というものよ」

 俺は身震いした。
 そうだ。
 今は多くの強国と戦争中だったんだ。

「あ! それより、通小町とブルードラゴンは?」
「一足先にラピス城へ戻ったわ」

 通小町も学校どうしたのだろう?
 でも、人生は学校ばかりじゃないよな?! 
 うん??
 自分で言ってて、正論のようなそうでないような??

「さあ、鬼窪くんも乗ってちょうだい。このまま私たちもラピス城へ行くわよ」
「ああ、わかったよ。それより……」
「マルガリータよ。三人も乗って大丈夫なのか?」

 俺とヒッツガル師匠を乗せて、心配も余所に、マルガリータは大きな箒へ普段と変わらない口調で「飛んで」と言った。箒はグングンと空へと……上がらなかった。

「きゃーーー、重い! 重い! 全然飛ばないわ!」
「無理するなよなあ」
「だってー、クシナ要塞が微動だにしないんだもん。だけど、恐らくクシナ皇帝はラピス城を再び侵略するつもりなのよ。胸騒ぎがするんだもん」

 ヒッツガル師匠が小首を捻り。

「ああ、あり得るね。マルガリータの言うことも一理あって、クシナ皇帝はこちらの動きに不穏なことがあれば、すぐに戦争を吹っかけてくるぞ。という意味なんだろうなあ」
「そうですよ。お師匠」

 それにしても、マルガリータもきっとどこかかしら抜けてるんだろうなあ……。
 あるいは、それだけ不安要素があるんだろうなアレに……。
 俺だって不安だった。
 クシナ要塞がいつ再びラピス城へ進行してくるのかと思うと。
 
 うーん……不安だ。

「俺は走って行くよ。マルガリータとヒッツガル師匠は先に行っていてくれ!」
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