第45話

文字数 1,294文字

「くらえーーー!!」

 数多くの剣や槍の矛先を軽いステップで躱しながら、相手の鎧ごと神聖剣で切り裂いていく。時には突きを放ち、相手の喉元を貫いて、飛び交う銃弾はなるべく速く身体の重心をずらして、躱す。自然と身体が動くんだ。

 だけれど、数発の銃弾に俺の足が撃たれた。
 肩に相手の剣が振り落とされて、裂けた。
 焼けるような激痛が下半身と上半身に走った。
 さすがに、俺は痛みで地面に体を投げ出した。

 サンポアスティ国の正規軍は、まだ4分の1は残っている。それでも、俺はここ市街地のど真ん中で、追い詰められても、神聖剣を力強く握っていた。
 
 ほんと、激しい戦いだよ。倒れた俺に向かって、兵がそれぞれの武器を構えて、突進してくるんだ。

 俺は目を瞑った。

 あれ??
 俺はどうして、こんなところで、戦っているんだ??

 なんで、なんで??

 地面で横になって、自問自答していると……。

 辺りの土煙が強風に乗って、何かを言っているような気がした。
 それはか細い声だった。
 なんでかなあ……。
 あの老人。ハイルンゲルトの声によく似ているんだ。
 その風の音。

「戦え……戦ってくれ……」
 
 って、言っている。
 そればかりが、俺の耳に聞こえるんだ。
 
 幻聴??
 そうなのか??
 
 これは、俺だけが聞こえる幻聴なのか??

 俺は風の声に「わかったよ! 戦えばいいんだろ!!」と、倒れながら自分でもバカだと思うけど……返事をしていた。

「鬼窪! ちょっと待ってろ!! うりゃーーー!!」

 通小町の叫び声と共に、俺の身体が眩しい光を発すると、怪我と疲れが自然に治ってきた。俺はすぐに立ち上がると、サンポアスティ国の正規軍へ向けて、神聖剣を面前に出し、自然といつもと少し違う構えをしていた。 
 
「鋼雲剣!!」

 俺はそう叫ぶと同時に、神聖剣を振り下ろした。

 振り下ろされた神聖剣からは、怒涛のような光速の衝撃波が生じ、大地を見事に抉った。あっという間に地面に穴があいて、サンポアスティ国の兵を大勢衝撃波で吹き飛ばした。遥か上空には、市街地の土が舞い上がるほどの衝撃波だった。

「な、なんだ!! こいつは?!」
「ひっ、退けーーー!!」
「撤退ーー!」

 土埃だらけのサンポアスティ国の兵が皆、慌てて後退していった。中には、吹っ飛んで倒れたものを担ぐ兵もいる。周囲に得体の知れない緊張が走る。

 俺は一息つくと、ハイルンゲルトの声に似ている風に向かって「ありがとう」と言った。

 通小町が道路の脇から恐る恐る顔を出し、こちらに駆け寄る頃には、サンポアスティ国の兵は全て退(しりぞ)いていた。

「な、なんだったんだ? 今の技??」
「ああ、鋼雲剣っていうんだって。変わった名だろ」
「鋼雲剣??」
「風が教えてくれたんだ。なあ、変だろ??」
「あ、ああ……。それにしても、鬼窪? あの白い鎧を着た老人は誰だったんだ? 見たところ亡霊だったが! 物凄い力を持っていたが?」
「へ??」

 見、見えたのか??
 ハイルンゲルトが??

「ああ、あの老人から物凄い力を感じたぞ! そいつが、お前の腕を握ったんだ!」
「あ、ああ」
 
 やっぱりあの風の声は、ハイルンゲルトの亡霊のはずだ!!
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