第10話

文字数 1,252文字



椅子の上のライオン



一匹のライオンが椅子の上から私のことを見下ろしている
なんて高い椅子だ
しかしあの不思議な姿をしたライオンは私たちのライオンだろう
しかし私たちのものとなったあれは
ここに存在してはならない生き物かもしれない
しかしあなたが現れて
あれのことを調教し始めるだろう
あなたがあれの手綱を引き
これからはそれを秘密にしていくだろう

ライオンの大きな背中を越えて太陽が昇ってくる
そして私を見下ろしライオンは再び恐ろしい咆哮を上げた
ああ、お前を飼い馴らす者などいないと私はよく思ったものだ
ライオンは吼え声と共にもう一つの椅子へと飛び移った
ここには高いのから低いのまで、とにかく沢山の椅子があるのだ
ところであなたは知っていただろうか
調教されない獣は決してそれらの椅子から下りて
ここへ来ようとしないことを

ああ、ここにあるのはどれもこれも威厳のある椅子だ
立派な王様が大広間で大勢の家来たちを前にして
威儀を正して座るような椅子だ
しかし王様はいない
家来たちさえいない
生まれたばかりだったライオンは背もたれに寄り掛かって
まずは大あくびをしたことだろう

ライオンをここに生まれさせたのは誰だろうか
彼が動物の中の王だった時に
しかしここではまだ存在させてはならなかった時に
ライオンは白いたてがみを振り立て
唸り声を張り上げ
絶え間なく椅子の間を跳躍した
ライオン以外の者たちはその威厳のある椅子を
蹴飛ばしたりしなかったが
彼はすべての椅子に恥をかかせるだろう

ところで、椅子は頑丈で
壊れて彼をここに落としてしまったりはしないが
そしてここは草原で
いつものように色とりどりの花々が咲き乱れていたが
それはただの絨毯の絵だと言う者もいるが
ここは時折どうにもならない程不毛な場所になるのだ
真昼の太陽は私の心臓を食い破ってからここに来るのかと思える程だ
しかし、本当の太陽がここのことを全部見せることなどなかった

ここには今のところ自然がやってくる気遣いはない
ここには雨も降らず風も吹かない
もしもここを自然の嵐が吹き荒れたなら
椅子は一つ残らずなくなっているだろうか
自然がその手本を見せたならばどうゆうことになっただろうか
無論あなたは私たちのライオンの手綱を取ろうとする
椅子はここの照明を当てられて今はプカプカと浮いている
あなたはそこに飛び移り吼え声を上げるライオンを見つめる

しかし、あなたは猛獣使いだ
彼を飼い馴らすかもしれない
あなたが檻の中でライオンや虎たちを笞で叩いていた時
彼らを閉じ込めた檻の中で彼らを叩いていた時
人々があなたに向かって拍手喝采を送っていた時は
あなたはまだそうではなかった
そして、獣たちは予言者ではなかった

私はここで先程から立ちっぱなしだ
少し前から疲れてしまってお手上げ
かといってここの椅子は皆獣たちのもの
あなたは死んだという
いや、そんなはずはない
しかし、ここにあなたのテープが流れ始める
私はあわてて照明を消す
ライオンは闇の中で目を光らせ
見えないあなたを見ようとして椅子の上に立ち上がった
そして私たちはあなたのテープの声に耳を澄ませた














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