第11話

文字数 825文字


屏風の部屋



開門と同時に人々はやって来て
部屋はすぐに人で一杯になった
うす暗い部屋の中には四曲の屏風が三帖
描かれているのはそれぞれ春秋冬
しかし部屋を取り巻く庭は真夏で
蝉の声が天井へと響いていく
人々がかき回した空気が渦を巻いてその声の後を追っていくと
人々の魂が抜け出し
怖がった部屋がガタガタ揺れ出す
蝉の声が不意に高まり
やがてひっそり静まる
部屋は何とかもちこたえたようだ
どうしても思い出せない
死んでしまった何かがすぐ近くまでやって来ているのに
すかさず影たちがやって来て三帖の屏風を並べ変えた
再び人々の心は離れ離れになる
ばらばらの屏風が広げられる
そして再び人々がどこからか入ってきて
広げられた屏風の間を縫うようにして歩いていく
人々がすれ違っていく
横目でチラッと見合う目と目
あなたの歩く道と屏風の道とが絡み合ってくる
部屋は時間の通路を作り出しては消していく
人々を時間の奥へと送り出していく
部屋はあっさりと何ともあっさりと
それを成し遂げたようにみえる
人々は自分の順番を間違えない
なぜか皆知っている
この部屋は彼らの道の途中にある道標かもしれないと
私たちは想像する
しかし再び新たな影たちがやって来て
三帖の屏風を並べ変えていく
太陽は中天で輝き
大地を焼いていく
決して雨を降らせない
そんな夏がここになる
そして私たちはそこに降り立ち
畳の匂いを嗅ぐ
かぐわしいイグサの香りが
深い室内の暗さと混じり合う
障子は様々な影を映し出していく
異形のものたちを宿して熱風が天へと昇っていく
夏が夏を超え、何かが、いなくなる
実在となった空気を私たちに指し示して

大気は霞み、
皆、目を閉じて歩いていく
「指し示されたものを見よ」
部屋には土埃が溜まっていき
三帖の屏風は閉じられる
もうここには置けない
そうだ
しかし世界には二双の屏風が四帖残ったのだ
だから屏風は他にもある
人々も少しだけ安心する
しかし足を止め、部屋を見回す
私たちは気づく
そして庭を見る
鳴きつづける蝉の声を聴く
その叫びに唱和すて高まる時間の声を聴く


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