第16話

文字数 2,871文字

流刑の星



途轍もなく広い町だと思ったが、やがて城壁にぶちあたった
人々はこの中でまったく安心しきっている
しかし、まるで亡者のような暮らしだと思う
だが誰に聞いても城壁などないと言うばかり
この町の者たちはその城壁にぶちあたるということがないらしい
なぜか知らぬ
彼らが歩けばこの町は
それに合わせるように広がっていく?
まさか
もっともここは彼らの町であって、私たちの町ではない

私たちは相談して、この町に観測所を建てることにした
それは私たちの為の観測所であって
この町の住人には何の役にも立たないだろう
思うに、この小さな星にあの城壁という境界が存在するからこそ
ここに何事かが起こるのかもしれないのだ
そこで私たちは城壁を観測した

町の住人たちは彼らがそれを作ったことをいつも否定した
しかも、彼らは城壁で起こる事さえ何一つ認めようとしない
それなのに城壁を毎夜こっそり修復しているのを私たちは知っている
様々な工具や精密機械を積み込んだトラックが
技術者を大勢乗せて町を後にするのを見てきた
ここでは車は夜にだけ高速でそこを突っ走って行った
私の相棒は猛スピードでぶっ飛ばすトラックの前へ
飛び出したことがあった
そして道の真ん中で思い切り手を振り回した
しかし車もトラックも彼の身体を難なくすり抜けて行ってしまった
やはり彼らと私たちはどこかが根本的に違うのだ
彼らにとって私たちなど無いに等しいということだろうか

その代わりその時、一台のテレビが荷台から飛び上がった
彼の何かに興味を惹かれたのだろうか
それは彼の目の前に着地すると自分でスイッチを入れ
この町の放送を流し出したそうだ
それ以来彼はやたらと興奮している
そのテレビもあれからつきっぱなしで放送し続けているらしい
絶え間なく番組が送られてくるということだ
今も彼はあの道に座り込んで
その見きれない番組を見ているはずだ
「いや、そろそろ呼び戻しに行かなければ」

ところが次のトラックがまた大した落とし物をしそうだった
彼がそれを拾えば今度もまたそれに魅入られて
我を忘れてしまうだろう
何せ彼は大した情熱家なのだ、機械に対しても
そして城壁には他にも沢山の機械が埋め込まれている
そこに埋め込まれたテレビも様々なシーンを流し続けている
彼は言う「未来の人々に贈る番組だな」と

彼らは私たちの観測の塔を過去の遺物と呼ぶ
分かっている
一度観測されてしまったものが過去へと貶められていくのは
私たちは実にこの町をそうして絶え間なく貶めているのだろう
それに、ここではよそ者は皆流刑者だと言われる
しかし、私たちが見る所では彼らの半分は実はよそ者だ
ここの娘や息子たちが特に好んで流刑者たちを結婚相手に選んだからだ
私たちの仲間が次々と行方不明になったのは、
私たちの星で革命が起きたからではなく、
恐らくこの星が生まれたせいだろうと思う
彼は言う「彼らの記憶の塔は流刑者が立てている」
ああ、彼らは私たちのことを未来から来た人間だと思って
ひどく薄気味悪がっているらしい

ある日、私は彼に言った
「ここじゃ、結婚相手にしか本当のことを教えないそうじゃないか
お前もそろそろ誰か見つけたらどうだ
見て見ろよ、この町の様子を
どうも、おかしな具合だぞ
誰か見つけて聞いてみるのも手だぞ
しかしあの情熱的な娘たちには注意した方がいいかもしれないが」
ところでこの町の住人以外この星には他に住人がいない
だから彼らはここで孤立しているのではない
そしてあの壁は彼らの憎悪さえどこにも逃がさないようだ
それにしても彼らにはなぜ放送がいつも必要なのだろう
いつも絶え間なく流されてくる膨大な量のシーン
それを常に必要としているここの人々は
いったい何者なのだ
彼はあの番組をすべて添削してやろうと思っていたみたいだ
彼らが何かに捕まえられているのはほぼ間違いないと言う
彼に聞く「あれは過去の遺物かい?」
「いや、ちがうね
彼らは僕たちが建てた観測所を
放送アンテナと呼ぶんだよ
この観測所だってきっとすでに彼らとつるんでいるのさ」

私たちと彼らとがいまだに
しっくりとかみ合わないのはどうしてだろう
彼が番組を見て、番組を見た彼を私が観察した
彼がそれに耐えられなくなった時
彼はこの星で婚約者を作って彼女とその番組を見ることにする
あの壁が映し出す膨大なシーンの中には
彼女の共感もまた塗り込められている
それを彼は自分にも結び付ける
しかし愛は生まれない

「ごめんなさい」
私たちは小さな子供のようにこの町の人々によく謝った
それでも私たちもいつかは行方不明になるかもしれない
ここの人々に混じってしまって
仲間からは見えなくなるのかどうかは分からない
私たちはある日膝を突き合わせて相談した
私たちも何か作ってあの壁の中に埋めて見ようと
私たちにだって膨大な量のシーンが必要なのかもしれない
もしかして私たちが受刑者で
信じられないことではあるが、彼らが裁判官であったならば
そして私たちの訴えが失敗してある日突然処刑されてしまうとしても
考えてみれば、それまでに様々なシーンが必要だ
今彼は危険この上えない無邪気さでもって
彼らのテレビを見続けている
「ねえ、何か作ろうよ」私はもう一度彼を誘った
観測所からはついさっき語り合ったばかりの私たちのおしゃべりが
電波に乗って流れていった
私たちは今ではこの受刑者の星で
昼も夜も監視されているようだ
いつから逆転したのか
彼は言う
「受刑者たちはこの星で様々なことに取り組んでいる」と
では私たちの観測はテレビに流され皆を虜に出来るのだろうか
では私たちの架空の犯罪は
私たちが作り出したドラマの中にあったのだろうか
「ここは囚人たちの星かな?」と私は彼に聞く
少なくとも囚人たちは別の星から流されてくる
テレビ電波と同じように
どちらにしても私たちには明日もまた新しいシーンが必要だと思う

しかし私たちを皆の前に白日のもとに晒すなんてごめんだ
彼に言う「そうだ私たちは新しいスターを作り出そう
この星の心臓はあの壁だと思う
あれは様々に刺激的なガラクタを埋め込まれて
やっと今まで生き永らえてきた調子の狂った心臓に違いない
そこでは古くなったシーンがいつも何かを訴えて叫び声を上げているんだ
それを私たちのスターに叫ばせてやれ」
彼が言う
「君、ここでそれらシーンに何が答えるか
それを誰がどうするのか、知っているかい」
「いや、知らない」と私

私は時々お節介にも画面の中から彼らに呼び掛けてみる
彼らだってすっかり途方に暮れているかもしれないから
そして色々なチャンネルを盲滅法に回しているのかもしれないから
そして私はまだこだわっている
この星の人々が受刑者に残酷だとしても
スターを作れば違って来るだろうと
この星の娘たちが熱中するのも無論スターだと思う
この星の科学者たちが作り出してきたのも
多分そのような若者たちだったろうと思う
そう、それは決して私たちのような姿じゃない
聞くところによると彼らの理想的な身体は
電波に乗って他の星へまでも送られていくらしい
それを聞いて私は他の星の観測にも乗り出した
しかし彼はここの情熱的な娘の一人と婚約し
その娘と今にも結婚してしまうかもしれなかった










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