第34話 3……の……による……もしくは……による……の、は、もしくは

文字数 5,454文字

「あ? ノックしてる? もしかして刑事さん来たのかも?」

「僕が迎えに行くニイ」
暫くすると刑事が二人でやってきた。

「あー警視庁捜査一課の竜牙です。死体があるとの報告を受けここに来た訳ですが……皆さんどうしてそんな気まずい顔をしているんです?」
2人の刑事の内の大きい方が警察手帳を見せつつやってきた。しかし誰もそれに答えずうつむいている。アリリがそれに呆れ、声を上げる。

「みんな大人でしょ? 私が対応するの面倒臭……え? 竜牙って? あの竜牙さん?」

「あっ? アリサちゃんですか? こんな所でどうしたんですか?」

「その話はもう口にタコが出来る程言ったし、もう言いたくないから、今話のChapter2の Welcome to 五鳴館! を読んでくれないかしら?」

「はいっ! って何言ってるんですか? 何の話で、それはどこで読めるのですか?」

「PCとか携帯とか……」

「分かりません!」

「融通利かないなあ。じゃあ……かくかくしかじかって事で」

「なんと? お母さんとはぐれてしまったんですか? アリサちゃんがいるって事はお母さんもいると思っていたんですが……」

「そればっかりねえ。一応きったない旦那がいるからあんまり好きにならない方がいいと思うよ? あいつも確か警察官だしね」
汚くはない。

「そうですよね……悔しいです……汚い癖に……許せないです……」
汚くはない。

「私が言うのは良いけど、刑事さんが言うと問題ありじゃないかしら?」

「そんなの関係ありませんよ……って死体はどこですか?」

「あ……それなんだけど……」
どもってしまうアリリ。

「それが……さっきまであったんですが、急に無くなってしまったピカ……」

「え? 無くなってしまったピカですって? 悪戯なのか? ピカってなんだあ?」

「めんどくさい事になるから語尾は止めときなさいネズニ」

「分かったでチュ……分かった」

「おい! 大人をからかうのは止めてほしい! ……ん? ピカって言ったそこの君? 君は肩の所が破れているけど……そういうファッションなのか?」 
ぬ! ネズニの切れたローブを指摘する竜牙。

「これは……そう! 木の枝で切ってしまったのでチュウ」

「そ、そうなんだよ……っておい、語尾!」
ネズニは語尾を放ってしまう。どうやら逆にまずい事を聞かれた場合、つい数秒前の事すら忘れてしまうようだな。賢いネズニですら動揺している様だ。

「ふーん? じゃあ何故このままで着替えないんだあ? それに結構傷が長いようだけど……本当なのか? そんなに長い傷を木の枝だけで作れるのかあ? 実は何か事件にでも巻き込まれたんじゃないのかあ?」
何故かこう言う時だけ鋭い竜牙。

「本当にそうなんで、信じて欲しいピカ」
何故だ? やはり警察官に恐怖があるのだろうか? まあお陰でアリリが署に連行されずに済んだわけだが……

「しかしねえ、こんな夜中に呼ばれて死体がありませんじゃさ、怒られても仕方ないんだよ! 昨日も2時間位しか寝てないんだぞお? もう帰って眠りたいんだあああ?」

「ごめんリキ……でもみんな確かに見たんだリキ!」

「私は現場を撮影したの。これを合成とか加工したって疑われるかもしれないけどそんな事はしていないわ……そう、名探偵と言われたバッチャンの名に懸けて……」
そう言いつつ写真を見せる。11時30分頃に撮影された市田の死体の写った写真。

「ほう……確かにそれらしい物は映っているけど……本当に本物なんだね?」

「信じて……としか言えないわ。実際に触ってはいないし……でも、みんなも見たよね?」
そう言うと一同は同時に頷く。

「じゃあどうすればいいんでしょうか?」 

「それと、この死亡診断書も預かってたんで……読んで見て? 虎ちゃんが書いてくれたの。これが証拠にはならないの?」

「さあ……初めてのケースなので……え? 虎ちゃんって? まさか美薬さんの事かい?」

「確かそんな苗字だったかしら? でもこれで実際の死体を見た事を証明出来るかも? 何だったら虎ちゃんに電話で聞いてもいいし……」

「後日連絡してみます」

「うん」

「この書類……」(え? 何これ……)

「死亡診断書よ。詳しい事が分かると思う……読んで見てよ」

「分かりましたよ……」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
死亡診断書 作成者 美薬 虎音

死亡者氏名……市田理内 (いちたりない) 

性別……男性

生年月日……1973年12月31日 

死亡日時……2022年7月24日 10時~11時

場所……五鳴館3階自室、机の側面。

死亡の原因……満腹による死亡。もしくは老衰による自然死。

死因の種類……満腹の場合は窒息死、自殺もしくはその他。

外因死の追加事項……〇〇都ー〇〇市ー〇〇番地 五鳴館3階自室、机の側面にて仰向けで倒れていた。食事で異常に腹が膨らんでいる状況で死亡。外傷、絞殺痕、毒物検出無し。

その他特に付言すべきことがら……周りにはコーヒーや砂糖水、小麦粉を焼いた菓子、牛肉、蟹の身、レーズンと成分不明の赤い液体が散らばっていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ほほう、いちたりないさんって言うんですね? 1973、1231、2022、724、10~11? フム、3……の……による……もしくは……による……の、は、もしくはその、の、の、にて、けで、れていた。で、に、が、らんでいる、で、し、その、に、すべきことがら、りにはコーヒーや、を、いた、の、レーズンと、の、い、が、らばっていた。成程成程大体分かりました!」
わずか1分で読み終えたようだ。早くないか? しかし、独り言を聞く限りでは、何やら暗号のような言葉を放っているだけ。本当にこの男、内容を理解出来ているのだろうか?
「え? 本当?」

「勿論です」
 
「え? 早くない? 本当に分かったの? なんかブツブツとおかしな念仏でも唱えている様にしか聞こえなかったんだけど?」 

「いえいえわかってます。全て完全に」

「まさか漢字を飛ばして、平仮名だけ読んで、分かりましたって言ってない? まさか刑事さんなのに漢字が一切読めないって事は無いよねえ?」
成程、見事漢字部分を外して読んでいたと言う事だったか……この男4歳児か?

「そ、そんな訳ないじゃないですか!」

「じゃあ死因は?」

「そ、それはあ(えっと……どうしよう……全く分からない……この【死因の種類】の【死因】って言う★二つの記号★が、恐らくしいんって読むんだよね? ふうぅぅぅよおおおしイチかバチかだあああ! この刑事の直感を信じ、この記号の先のこの記号の、【満腹の場合は窒息死、自殺もしくはその他】を解読すればいい筈なんだ……ウーム習った筈なのだが……全く読めない……)ええとこれはですねえ……の……は……もしくはその……です!」

「満腹の場合は窒息死、自殺もしくはその他でしょ? まあこの書類もおかしな事を書いているとは思うよ? でもまさかこんな漢字も読めないなんて……どうやって採用試験パスしたのよ……」

「いやいや本当見えないんすよ……試験の時はマークシートでしたし……それに今眠気が異常で眠いですし……本当は読めるんです。でもここの部分が偶然読めなかっただけで、他は全部読めます」
竜牙は今限界まで眠い。故に実際の文字が二重に見えてしまうのだ。ひらがなや数字なら二重になっても何となく分かるが漢字は別。それだけでただの黒い塊にしか見えなくなってしまう訳だ。

「じゃあ一、外傷、絞殺痕、毒物の有無は? しっかり書いてあるよ? 読んで?」

「すいませんもういじめないでくださあい」
だが彼は今凄く眠いらしいのだ。それも原因の一つかもな。

「普通にここに書いてある事を質問したらいじめになるの? 変な人ねえ……まあいいわ。外傷、絞殺痕、毒物検出無し。覚えといてね?」

「はいー……でも本当に読めるんですからね?」

「何で今は読めないのよ!」

「漢字? の部分なんですよね? この真っ黒になってる部分!」

「え?」

「眠気のせいかこの記号が滲んで真っ黒に見えるんですよ」
絞殺痕の部分を指差し言う。

「絞殺痕って読めないの?」

「はい……私には■◆■にしか見えないんですよ」
成程、眠過ぎて焦点がさだまさし……おおっとさだまらずに漢字の部分のみが黒い塊に見えると言う事か……まあ分からないでもないが……私も極限まで眠い時に読書はしないから分からないなあ。

「そんなことあるのねー」
本当に眠気だけでこんな現象が起こり得るのだろうか? ウーム……まさか! これは多分別の原因があるのかもしれぬ……それは、前話の話で恐縮だが、彼は下顎の骨が口から外れ、くるっと180度回転してはまり直した過去がある。何を言ってるのと仰る方もいるかもしれぬが紛れもない事実。


これは竜牙の頭蓋骨。で、この状態から、一旦下顎のみが外れ、180度回転し、


はまり直したのだ。これはとある理由からこうなってしまったのだ。どうしてこんな事に……と感じたお優しい方。理由は2話に包み隠さず書いてある故に是非読んで頂きたい! で、この時に下顎が本来では在り得ない所に存在した為、下顎の歯が、喉の骨辺りに刺さってしまっているのが確認出来ないか? この時にもしかしたら視神経を歯で傷付けたのかもしれない。まあ推論の域を出ない話だが……

「ではこれからどうしましょう?」

「死体が無くなったのは事実だけど……どうしようかしら?」

「じゃあこれからその死体をみんなで探すと言う事ですか?」

「うーん今はみんな疲れているし、一泊して朝から探そうかなって思っているわ」

「確かにもう眠いリキ!」

「フンガーフフ! ツカレガーフフ」

「ワシも疲れがーリ」

「そうですか……じゃあ今日は応援を呼び、ここで一晩徹夜して皆さんを見張ります。おかしな事はしない方が賢明ですよ? それでいいですね?」

「本当? 助かるわ……でも無理しないでね?」

「本当は眠りたいですけどね。ですが目を離してしまえば、犯人も証拠隠滅を図ってもおかしくないですし」

「やれやれ私たちは完全に容疑者扱いドフ……まあ大人しくするドフ」

「私もーリ」

「リキ!!!!!」

「ピカチュウゆっくり眠るでチュウ」

「うるさい! ピカチュウに謝れ!」

「嫌でピカ! 僕こそが第二のピカチュウ元気でチュウ」

「死〇ね!」

「生きるピカ!! 永遠に」

「何で仲悪いんですか? この二人」

「アリリちゃんは彼に口喧嘩で負けたーリ」

「へえ……あのアリサちゃんを? 人は見かけによらないですねえ……って? アリリって何ですか?」

「ああ、この屋敷専用の私の名前みたいな物よ。ニックネームと考えてくれればいいわ」

「成程ねえ。しかし驚きました。昨日ホテルで起こった事件もほぼ一人でアリリちゃんが解決したんだよ」

「昔の話よ……本当はその犯人は気付きたくなかったし……」

「そうですよね。そういえば今日もボケ人間コンテスト準優勝もしたんですよね? そんな人に口げんかで勝つなんて驚きですよ」

「そうなんだチュウ? え? 準優勝ってどういう事ピカ?」

「ちょっと! 竜牙さん!!」

「あ、これ内緒でした?」 

「そうよ!」

「あっ、でもその後優勝したんですよ」

「意味が分からないでチュウ」

「その1位の人がアリリちゃんと口論になって、最終的に根負けして1位を譲渡したって形になりましてね」

「じゃあアリリちゃんのお笑いの実力は2位止まりって事なんでピカ?」

「そうだと思いますよ?」

「でも1位の景品を受け取ってそれがあんた達に渡っている筈よ? それに初出場で2位は快挙でしょ? あまり責めないでね?」

「それは感謝でピカ。でも1位と2位では雲泥の差でチュウ。やっぱりアリリは見栄っ張りでピカ。そして、僕のあの時の推理は当たっていたと言う事が知れて、ピカチュウ嬉しいでピカピカチュウ!!」

「殺〇したい……」

「アリリちゃん……刑事の前でその言葉は駄目ですよー? でもここの家の人、みんな言葉の後ろに変な言葉を付けているけどどうしてですか? カニとかリキとかピカピカチュウとか……なんか怖いんですけど……」

「ここでの決まりなの。意味も意図もない厳然たるルールなの。時間は掛かるかもしれないけど受け入れてね?」

「はい……では仲間を今から呼びます。ピップルルルル」

「アリリちゃん? あの刑事さん、電話する時の音を声帯模写してたけど……なんか怖いーリ」

「疲れていておかしくなっちゃったんじゃない? でも子供とかもやるじゃない? おもちゃの車を手で転がしてブーブーとか、飛行機を持っブーンブーンとか。あれと同じでしょ?」

「問題なのは大の大人がやってしまったって事ーリ」

「まあそういう少年の心をいつまでも持っている人は嫌いじゃないのよね。じゃあ私はリキュバスさんかメデューリさんの部屋で……ブル……メデュさんの部屋一択じゃない……」
リキュバスの部屋は黒い服を着たマネキンが一杯居て賑やかでとっても楽しいと思うからそっちに行けばよいのだ。だが、彼女にその気はないらしいな。

「分かったーリ。じゃあ一緒に行くーリ」

「あっ! 私もメデュさんの部屋で泊まるリキ!!!!!」

「え? リキュバスちゃん来たら賑やかで眠れなくなるーリ……」

「お願いリキ!!! 市田さんのあんな姿を見て怖くなってしまって……」

「しょうがないなあ……今回だけよ?」

「やったリキ!!!!」

「ちょっと! アリリちゃんが決める権利はないんだーリ……」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み