第32話 神施魔法

文字数 6,591文字

「お邪魔します!」
アリリが向かったのはメデューリのいる部屋だった。
何を考えているのだろう?

「また君かーリ。折角ゆるりと読書が出来ると思ったと言うのにーリ」

「待機する部屋が無くってさあ……廊下で棒立ちじゃヒロインとしておかしいし……ってか死体が出たのにすぐ読書?」

「警察に全て委ねるーリ」

「まあそうだよね……で、どうせ部屋が無いなら暇つぶし出来そうな沢山本のあるここにしようと思ったの。他の部屋は怖かったりうるさかったり気味悪かったりでさあ。で、ちょっとこれ借りるね? ……へえ死神の……」
部屋に入るなり一直線にネクロノミコンを目指す。そして、躊躇わずに広げ音読を開始する。解呪したてとは言え、再び取り付かれるかもしれないと言うのに……無鉄砲すぎるぞ! アリリ!!

「ちょっと! 声に出して読んでは駄目-リ。発動したらどうするんだーリ!」

「私そんな魔力ないよ? それにこの本に何か手掛かりがあるかもしれないーリ!!」

「うーん、そういえば確かにあれが無ければ発動しないから……今回だけは音読でなければ特別に許可するーリ」

「うんアリリがとうwなんちゃってwwじゃあ静かに読む! ……死神の……あっやべっ声に出ちゃったわwwまあいっかww……ほほう……なんかかっこいい響きねえ。私の隠されし厨二心が疼くわあ」
こんな時でもアリリがとうと言う自虐混じりの新ギャグを生み出してしまうオリジナルギャグアーティストアリリ。

「この、呪文の前に沢山書いてある言葉は、【詠唱】と、言うーリ」

「詠唱ねえ。確かに結構長いね……舌嚙みそう……ねえメデューリさん。これは飛ばして唱える事は出来ないのね?」

「勿論そうーリ。しかも相手に絶対に聞こえる様に唱える必要があるーリ。特に死の呪文はそれを省略したら発動すらしないーリ。とてもとても長いーリ」

「そうか、人の命を奪うのだからこれ位長くてもしょうがないよね?」

「ウム。そして詠唱の後、最後にスペルを唱えると発動ーリ。だから高位の術者は出来れば大声かつ早口である必要があるーリ」

「成程、相手に使う訳だからそうなるわねえ」

「いえ、違うーリ」

「え? 何が?」

「聞こえる様に言うのは相手もそうだけれど【聖霊】に届くようにする為ーリ。
人間一人ではいくら頑張っても聖霊魔法は使えないーリ。聖霊に呼びかけ、MPを使用して発動すると言う訳だーリ」

「そうか。だから小声でぼそぼそ唱えてこっそり発動ってのは駄目って事なのね? で、MPはそれに対する対価って事ね?」

「まあそうなるーリ。魔法は元々神秘学の中に含まれるーリ」

「え? 何それ?」

「まあオカルトって言えば分かるーリ? 正式にはオカルティズムだけどーリ」

「ああそれなら分かるわ……全く……私は日本人よ? 日本語で言っても分からないーリ!」
逆じゃないかあ?

「変な子ーリ。その中で精霊と会話出来るようになりたいと思った者が、ある日道端で咲く花に向かって1か月間休まず語りかけていたんだーリ」

「何でそれで通じると思ったのよ」

「知らんーリ。でもその結果どうなったと思うーリ?」

「どうせその思いが通じて花が心を開き、会話出来るようになったんでしょ?」

「いかにも。これでそうならなければ魔法は生まれていないーリ」

「その花から色々と他の聖霊との会話のやり方を教えてもらったそうーリ」

「成程、それで聖霊よって呪文の詠唱部分に組み込まれてるのね? その会話する方法が古文書に残されていたと」

「そうーリ」

「でも声に出さないとダメなのね? 頭の中で考えても通じないのね?」

「でも結構小声でも届くーリ。聖霊は地獄耳だからーリ」

「そうなの? じゃあ大きい声で言う必要性はあるの?」

「声が大きければそれだけより多くの聖霊に呼びかける事になるから、より少ないMPで同等の効果が得られるーリ」

「でも大声だと喉が疲れるよね……」

「そうーリ。その辺は術者のさじ加減で調整する必要があるーリ。更には物理的に妨害される危険性も高いーリ」

「あー喉をキューって締められたら最後だもんねwでもこの死の呪文は読んでもいいって言ったのは何故?」

「それは上位呪文ーリ」

「へえ。で、下位呪文との違いは?」

「触媒使用の有無。後は消費MPも高いーリ。聖霊よりも上位の【神クラス】の協力を必要とする呪文だと言う事-リ。聖霊魔法に対し神施(しんぜ)魔法と呼ばれる種類ーリ」

「神施魔法を唱えて☆しんぜ☆ようってか?」

「ガ、ガハハハw唐突に面白い事を言うなーリw」

「笑い方豪快ねえw」

「グフフフフw面白い娘ーリ……アリリをちょっと好きになって来たーリwまあ神施って言うのは神の施しみたいな感じの意味ーリ。だからアリリが冗談で言ったこの面白ワードも言い得て妙なのかもしれないーリ」

「そういえば触媒ってなあに?」

「うむ、色々な道具と言えば分かるかーリ? 神にも好みがあって、それに対応した道具を捧げながら唱えるーリ。もしそれが無ければいくら詠唱が正確でも出てきてくれないーリ」

「へえ。光みたいな物かあ」

「え?」

「触媒ってのは明るい所に虫が集まるみたいな事でしょ? あっ、あっちが明るい虫。ちょっと行って見る虫! って感じで」

「そうだけど例えが悪いーリ。神を虫扱いはいけないーリ」

「確かにね。分かりやすく言ったらこうなっちゃったのよ。って事は聖霊さんはMPさえあれば出てきてくれるけど、神クラスにもなるとMP+その触媒とやらが無いと出てきてくれないって事ね?」

「そうーリ。ワシも石化の呪文が使えるが、大地の聖霊のみの力で出来るーリ」

「あ、オオカニさんに使ってたアレね? わあ、怖ああい」

「そう怖がる必要はないーリ。ワシの石化呪文は戦闘終了後に回復してしまう優しいやつーリ」

「戦闘終了後ってなあに?」

「それは相手と敵意がぶつかり合っている間のみの時間ーリ。石化させても暫くしたら相手への敵対の意思が消滅するので勝手に解けるーリw油断して石化させることに成功してしまえば、いつまでもその敵を憎むって事は結構大変なんだーリ。まあ重くなってはいるけど運搬して活火山の火口に捨ててしまえばやっつける事も出来るーリ」
ひー

「残酷ー」

「実際は運搬中に解けると思うーリ。それほどに長続きしないーリ。それにワシでは運ぶには力が足りないーリ」

「憎しみの石の消失と共に意志状態が消失するって訳ね?」

「そうそう、って意志と石が逆ーリwしっかりするーリwでも、永遠に石化させる事の出来る高位術者もいるーリ」

「それは戦闘終了後も継続して専用の状態異常回復のアイテムとか呪文でないと治らないって事ね」

「そうーリ」

「へえ面白そう! アリリも呪文1つ位覚えたいわ」
これ以上厄介になるのは止めて欲しい物だ……

「話がそれたけど高位の術者は幾つもの触媒を持ち歩いて居るーリ。そういう人は聖霊魔法の上位ランクである神施魔法の使い手と思っていいーリ」

「今ここには触媒が無い。だから読んでもいいって事か……でもその触媒? って奴を見たら知ってる人なら相手がどんな呪文を使えるのかってのが大体予想出来ちゃうんだね」

「そうーリ。記憶力が多ければ多い程対処出来るーリ」

「じゃあその触媒が無ければ使えないんだけど、死の呪文って事で、警戒して一旦私を注意したんだね?」

「そうーリ」

「大体分かったわ。じゃあ黙読するね。……へえ、…………やっぱ長いねえ。実際これを詠唱しきれば相手は死ぬって事? 怖いわねえ」

「勿論相手が詠唱を終えるまで黙っていれば死ぬーリ。だけど」

「だけど?」

「対処法はあるーリ。それを黙って棒立ちで待つほど甘くはないーリ」

「知りたい知りたい!」

「まずは呪文が届かない程遠くに逃げちゃうって事ーリ」

「へえ、それだけ?」

「まだあるーリ。次は呪文を防御出来る呪文。すなわち防御呪文を唱えるって事-リ」

「トラクエで言う跳ね返すマホアカンデとか、無効にするマホステンベとか?」

「そうーリ。その防御系の呪文は聖霊魔法で、しかも詠唱も短いーリ。だから余程活舌が悪くない限り、死の呪文を詠唱している人物を見てからでも防御呪文が先に発動するーリ」

「でもなんか理不尽よね? 触媒を使って尚且つ消費MP量も多くてはっきりと大声で唱えないと発動しない死神の力を、その下位の聖霊呪文でも簡単に防げちゃうなんて……」

「そうーリ。でもその辺のバランスがあるからこそ迂闊に唱えられないし、悪意ある術師が乱発し大量の死人を出さないと言う事になるーリ。それに触媒を唱えている途中で落とせば唱え直しーリ」

「そうよね。人の命は重いもんね。楽に奪えればこの世は絶望しかないわね……でも触媒ってめちゃくちゃ重い奴とかあるの?」

「奇跡的に今の所人の持てる範疇の重さの物しか存在しない-リ」

「筋肉の神様とかはいないの? 鉄アレイが触媒とかw」

「筋肉の神は居ないーリ。炎の神が筋肉質だけど、どちらかと言うと筋肉と言うより炎の神ーリ。その神に好まれる触媒は炎に関する物ーリ」

「そっかあ。でも沢山持たないと神施呪文を沢山唱えられないって事よね? 荷物が多くて大変そうね」

「まあ持っているだけで様々な効果がある触媒もあるーリ」

「へえ、例えば?」

「そうじゃな……では、今話題の死の呪文に必要な触媒逆さ十字架は、持っていると精神を守ってくれる効果があるーリ」

「へえ、精神を守るって具体的には?」

「例えば敵味方関係無しに攻撃したり術者を好きになってしまう誘惑の魔法や、催眠術の様に術者に操られたりする魔法には耐性が付くーリ」

「そういう事かあ。かなり便利ね! 他にも!」

「そうじゃなあ……復活させる魔法にも触媒は必要で、それが聖杯ーリ。それを持っていると、1ターンに5パーセントの魔力回復効果があるーリ」

「へえ、じゃあ私なら30回復って訳ね」

「え? アリリちゃん600もあるーリ?」

「うんwしっかしこの話、科学者が聞いたら発狂するんじゃない?」

「そうーリ。恐らく目の前で呪文による不思議な出来事が起こったとしても、これは絶対にプラズマです。で、片づけそうーリw」

「www」

「それにその詠唱自体を封じ込める呪文もあるし、物理的に相手の詠唱を止める様な……そう、くすぐったり大声で相手の声を消してしまうとか色々出来るーリ。逆に言えばこんな長い詠唱、術師同士の戦いでは唱え切る事の方が奇跡ーリ」

「もしかして途中で言い間違えたらその神は出てきてくれないのかしら?」

「人それぞれ……じゃないーリ。神それぞれーリ。多少のミスを許してくれる寛大な神も居るーリ」

「その違いは分かるの?」

「ええ。聖霊は感情がほぼ無いーリ。決められた文字列をしっかりと聞き取れなければ応えてくれないーリ。まあ例外もあると思うーリ」

「でも神は感情があるから術者の気持ちさえ伝われば、多少間違えても熱意が伝われば聞き入れてくれるかも知れないって事ね?」

「そうーリ。術者がどうしてもあなたの力を必要なんだ! と言う必死さをアピールすればお情けで発動するかもしれないーリ。飲み込みが早いーリ!」

「まあ推理クラブの副部長やってるから当然ね」

「そう言えばそんなこと言ってたーリ。でも飲み込みのいい生徒ーリ」
嬉しそうなメデューリ。

「もっと教えて下さいメデュ先生!」

「フフフw久しぶりに可愛い生徒が出来たみたいで嬉しいーリ」
ポリポリ…… 
照れて頭を搔くメデューリ。すると?

「ヒャッハーww」
パクッ 

「ウルーン( ;∀;)」 
ぬ? 一体何だ?

「あっこれ! ヒャッハーww! ウルルンをいじめてはいけないーリ」

「わあ!! 髪の毛が動いたあ!! どうしたの? 教えて? 知りたいー」
アリリのリクエストもあったし皆さんも何が起こったか分からないであろう……むう、今の一連の流れは流石に説明せねばならぬな。
では行くぞ! アリリに褒められたメデューリが、頭を照れ隠しで掻いた瞬間に、髪の毛の先端の蛇のぬいぐるみの顔が付いているのだが、その目が開き、生物の様に動き出したのだ。そして悲しそうな表情をしたウルルンと言う蛇に、喜んだ表情のヒャッハーwwと言う名の蛇が嚙みついたのだ!! 嘘のような、それでいて紛れもない真実である。
しかし私が予想した通り、喜んでいる蛇はヒャッハーww、悲しそうな蛇の名はウルルンであったな。完全に的中してしまったな。私の勘も鋭いな……と、冗談はこの辺にしておこう。
実は既にその髪の毛の蛇の名前はこの右目に輝くスカウタアによりメデューリを見た瞬間に知っていたのだ。だが、私の悪戯心が発動し、あたかも予想し、それが偶然的中したという素振りをしてしまった。これも悪戯好きのリキュバスちゃんを見ている内に我が悪戯心に火が点き衝動的にやってしまったのだw申し訳ないw

「ウム……この子はちょっと元気が良すぎるーリ」

「その子、生きてるの?」

「企業秘密-リ」

「知りたいーリ……え? 久しブリブリの生徒?」

「ブリが一個多いーリ。ワシはこう見えても3年前までは小学校の先生をしていたーリ」

「なんですってえええええええゑ?」

「そこまで驚かないで欲しいーリ」

「だって3年前っつったら私が小2の頃の話じゃない!」

「そっちーリ?」

「でも先生と言えば公務員よね? 安定生活だったんでしょ? 何で辞めちゃったの?」

「どうしても聞きたいーリ?」

「ーリ!」

「そこまで聞きたいーリか……まったく強引ーリ……そこまで言うなら仕方がないーリ」
そこまで強引であったであろうかーリ?

「わくわく」

「実はな? ワシの弟がそこの生徒じゃったんだが、いじめにあってな……そのいじめっ子をついうっかり半殺しにしてしまったーリ」
ひー

「ひー」

「それで、懲戒免職になったーリ。でも後悔はしてないーリ」

「ち、因みにどういう殺し方をしたの???」
ええ? おちついて? ころしてはいないんだってば! アリリ! しっかりとはなしはきかなきゃだめだよ? きみはそういうところがあるんだ!! 

「まあ六法全書のかどっこで5、6……」

「なーんだそれだけなら大した事ないね。その子供も耐久低すぎクソワロスw」
そうであろうか? 分厚く重い本でのかどっこ攻撃は普通に痛いと思うが……

「千回殴っただけーリ」
ひー

「ひー」

「だから言いたくなかったんだーリ」
いいや? あっさり話した気がするぞ?

「それで生きてたの? 死なないのが奇跡じゃん」

「ワシの腕力は自慢ではないが1なのじゃ。故に奴へのダメージも1じゃ」
成程な。それならば納得出来る……まてよ? しかしこうも考えられるな……その子供は小学生にして1ダメージの攻撃を5~6000回食らって半殺しになった訳だ。故に最大HPは10000~12000。アリリの体力が32なので相当鍛え抜かれた小学生であるな。その若さにして体力限界突破を有しているのか? それに腕力1の人間が6000回も六法全書を振る事が? まあいい。

「あっ!」

「どうしたんだーリ?」

「もしかしてさっき本には別の使い方があるって言っていたけどまさか……」

「気づいてしまったーリ?」

「うん。そう、本は読む以外に【鈍器】として使う事も可能って事でしょ?」

「ご名答ーリ」

「だから食堂で過去の事を言いたくないって言っていたんだ」

「そうーリ」

「で、その凶器でしっかりといじめっ子の眼球の形は変わったんでしょ?」
アリリ? なんでそんなこときくの!? だめだよっ!! それに6000かいもがんきゅうをぴんぽいんとでなぐるなんてとってもむずかしいとおもうし、しゅうちゅうりょくがつづかないとおもうよ? アリリはきょうみをもつところがちょっとほかのひととはちがうとおもうんだ。

「そうーリ」
うえ? じゃあほんのかどっこをがんきゅうにぴんぽいんとでねらいすましていたんだあ……

「でもよっぽど憎かったんだね」

「そうーリ。半べそをかいていてすっきりーリ。ざまあーリ」
半べそ程度で済んだんすか?

「そいつの親にも怒られたでしょう?」

「まあねーリ。でも一つも謝ってやらなかったーリ」

「すごいね。一見おっとり読書系女子だとばかり思っていたけど、随分ヴァイオレンスな過去があったんだねえ」

「ファファファw女は秘密が多い程魅力的なんだーリ」

「へえ」(ファファファって……ファイナルファンタジア5のゑ久久死(エクスデス)じゃん)

「おっと、うっかり話過ぎてしまったーリ」
コンコン
誰か来たようだ。
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