第43話 動機 後編

文字数 8,211文字

「おご草と天草(てんぐさ)で作られた最高級寒天【白雪】だ」

「し、しらゆきぃ? な、何よそれ! 何でそんな物を? それが殺人に関係あるの? 寒天って凶器になるっけ?」

「それをアマゾンプライムアメリカで注文したのだが、直接この屋敷宛で届ける事は出来ない。市田に取られたらおしまいだからな。故に、最寄りのコンビニ宛で届けて置いたのだ。だが、2日前に届いていたのに、前日まで受け取るのを忘れていたのだ。人生初の殺人前。ピリピリしていて色々考えていた結果、そこだけすっぽり抜け落ちたのかもしれんな。もし3日を過ぎたら預かり期間を過ぎてしまう。危ない所だったがギリギリで間に合った。もしそれが無ければこの計画は成立しないしな。この殺人計画。準備する物が多すぎて困る。普通は凶器とアリバイトリックを考えるだけで何とかなりそうな物なのにな……」

「言っている意味が分からない。それに私の質問にも答えてないよ? 分かる様に答えなさい!」

「奴はグルメだからな。市販の寒天で作ったゼラレタ等食べてはくれぬだろう」

「だからさ! 分からないのよ! それにゼラレタじゃなくってレタゼラでしょ」
しかしアリサの言う事は無視して続けるフランケン。

「しかも、一度既に夕食を与えた。奴はほぼ満腹だった筈。そんな状態で食べてもらう必要があった。これ位の高級食材でなければ見向きもしないだろう。故に当日それをコンビニまで受け取りに行く必要があった。
偶然奴もこの屋敷の経営不安を感じていて、あろう事かこのワシに客引きのお使いを命じたからなw本当に抜けた男だw召使いとして生きてきて良かったと本気で思えた瞬間だ。無断で出ていく訳にもいかなかったし、タイミングぴったりで助かったよ。まあもしその言いつけが無かったとしても睡眠薬でも盛って眠っている間に抜け出していたがな」

「フンガー! あんた、ずっと訳が分からない事を言ってるんだよ? 分かる様に言いなさい!」

「まだ話し始めたばかりであろう? 最後まで聞きたまえ。そしてボケ人間コンテストを終え、君が喫茶店で寛いでいる間に、その寒天をコンビニに受け取りに行った。そして君と屋敷に戻ろうとした矢先に大雨が降りよった……よりによって最悪のタイミングだ……本来南アルプスの天然水と合わせ、最高のゼラチンになる筈が、その大雨で寒天に雨水が浸透し、ふにゃふにゃになってしまっては何もかもがおしまいだ。本来到着した直後に受け取っていさえすればこんな事にはならなかった……ワシ自身のミスとは言え、ここまで来て頓挫になっては立ち直れなかった」

「分からないよ……」

「更に最悪な事に、あの寒天は高級品で紙の箱に入っており、雨に逢えば簡単に湿気ってしまう。一応コンビニのビニール袋に入れてはいても、完全に密閉されている訳でもない。その白雪、完全手作業で梱包している故に、ビニールで覆うと言う手間を省き、直接紙の箱に入れる。その為、湿気にはめっぽう弱いのだ……そう、既に見た時には箱の表面は水分が付着しておった……平然を装っていたが、内心は気が気ではなかった。相当焦っていたと思う」

「だ、か、ら!! それでも分からない!! 何を言いたいのよ!!」

「だからアリサ。君がスケッチブックを頭に構え傘代わりにした時に咄嗟に閃いた。この子を、傘代わりにしよう……とな。何も無いよりはマシ。これで雨水を凌ぎ、一刻も早く白雪を無事な状態で屋敷まで届ける為に、君を連れて来たと言う事だ。大体分かったかね?」
成程。私は彼が一刻も早くアリサを雨に濡れない様に屋敷まで運ぶ為に急いでいたと勘違いしていた。だが、目的は全く別だった……その行動は殺人計画に必要な道具を守る為の行為だったと言う事か……

「え……そ、そんな事の為に私を殺人事件に巻き込んだって言うの? そういえばあの時あんたに水に弱い? って聞いた時、有耶無耶な返事の後、少し考えて軽くうなずいている様に見えたけど、その時咄嗟に話に合わせようって頷いたって事ね? 私を傘にする為に」

「そうだ。だがそれだけではない。そして、それこそが最も重要な事だ」

「え?」

「それはアリサ。君がボケ人間コンテストでの司会落としの犯人を断定出来なかった。と、言う事実だ」
な、なんだと? そうだ……あの時は語り部の私が全て解決してしまったのだった……主人公に花を持たせず語り部風情が出しゃばり、全てを……明かして……しまったのだ……結果、フランケンに目を付けられこの屋敷にくる結果に……すまぬアリサ……私の推理力が卓越しすぎている故に君にまで迷惑を掛けてしまった……許してほしい……そして、その時の雄姿は第2話の最終話の一つ前の

【☆語り部の真相解説☆】

と言うスッゲェナウいサブタイトルの話の中に、全てが記されてしまっている……あわわ……忌々しい……私の……華麗なる……黒歴史……出来ればそんな話は決して見ないで……頂きたい……何卒……頼んだぞ……

「く……!」

「君は探偵の真似事をし、事件に自ら首を突っ込む様な積極的な少女で、その基礎知識もしっかりと押さえていた筈。両親が刑事だったな? それに桜花ジャパンの壁を超える時に張り巡らせた智謀で大体分かった。ベースは良い。だが、何かが足りない。
故に、あんな簡単な事件を解決出来ずにまんまと警察の目の前で真犯人に逃げられた」

「な、何よそれ……あれが簡単? ふざけるんじゃない! 私も実の所見切り発車で指摘している内に……色々と思い出して行く内に白川さんが本当に犯人だったんだ。という事が徐々に、おぼろげにわかって来て……それで……それでも決定的な証拠は無かった……だから仕方なしに逃げられたって言うのに……あ、あんたは客席にいながら舞台の様子を見ただけで白川さんが犯人って分かっていたって言うのか? あんな遠くから?」

「いかにも。ワシは実際に暗闇になった時、白川が司会の後ろで何かの機械を操作している瞬間を見た。そう、あのサイズは恐らくMP3プレーヤーかボイスレコーダーだろう。そこから発生する音で驚かせたのだろうな。それに反応した司会は頭を抱えしゃがみ込み、そのまま落下して行った。その瞬間を間違いなく見た。故にこの犯行は暗闇の中で視界不明瞭の時を狙い、臆病者の司会の近くで何かしらの音声を発生させ驚かせて落とすと言うトリックを使ったと判断した。その上、その時に偶然起こったと思われる停電も白川が意図的に停電寸前までに電力を使用し、彼のタイミングで引き起こした事もその日2回起こっていた停電から推測した。そして犯行の瞬間、白川が笑っていたところまで見えたからな。ほぼ間違いないだろう。ワシは夜目が効くのだ。以外であろう?」

「嘘を突くな!!!!! そ、そんな筈ないだろ!! じゃ、じゃああの時点で警察に報告して白川さんを捕まえればよかったじゃない? 何でそれをしなかったの?」 

「警察の役に立ちたくなかったのでな。ワシは基本的に警察が嫌いだ。それにワシはなるべく喋れる事を隠しておきたかったからな」

「そ、そんな……じゃあ本当に私が中途半端な探偵だからここでの事件も解決出来ないと踏んで連れて来たって事なの?」

「その通り。ワシは客席で君の推理を聞いている内に、この実力なら、探偵役に選ぶ事で、ここで事件が起これば積極的にそれに首をつっこみ、見当違いの推理をするのではないかと感じた。例えば……そうだな……

『きっとこれは食べ過ぎで立ったまま眠くなってしまい寝落ちして、後頭部を打っちゃったのよー』

とかか?」

「……な? そんなポンコツ推理する訳ないわ!」

「そうか。証拠の残らぬ魔法で殺すにしても、ワシが疑われるのは困るのでな。これからもこの屋敷で皆と経営していくつもりであるからな。人を殺した人間と一緒に居たくなかろう。それに君を屋敷に招待する事で、みんな君に注目する事になるだろう。そうなれば動きやすいし、まあ念には念と言ったところだな。それに先日も事件に巻き込まれたのだろう? タイトル回収をしていたな? 今回で3回目。幼い君の事だ。それだけ立て続けに事件が起これば頭も回らないだろう」

「確かにそうだリキ」

「普通の人生で短期間にそんな立て続けには事件に遭わないカニ」

「まあどの道寒天を守る為に君を傘代わりにしなくてはならなかった訳だが……もしあの時雨が降っていなかったとしても、君を何とか屋敷に招待するつもりだった。それと後一つ、まあこれも小さな報復みたいな物だが、ワシを乗り捨てたお返しにこの事件に巻き込んだと言う部分もある。まあどの道君は絶対に連れてくる必要はあった訳だな。
だが意外や意外、結果失敗に終わってしまったがな。アリサ。君はあれだけの戦いを午前中に行っていたのに、同日に新たな事件に遭遇しても動揺せず臆する事無くここまで推理出来てしまうなんて……実は素晴らしい探偵だったのだな。見くびっていたよ」

「うるさい!」

「うるさくはないだろう? ワシの予想に反した結果を出した君を、本心から褒めているのだ。そこは素直に受け入れたまえ。そして無事最後のピース、白雪をはめ込み舞台は完成させた。全てにおいて最高級の食材で彩られた演者達は、見事満腹の市田の胃袋に入ってくれた。そして自らの命と引き換えに死の呪文の詠唱のピースを吐き出させてくれた。彼らは、正しく悪い魔法使いの老人を退治した【真の英雄】達だ」

「それでわざわざ最高級にしたって事ね……」

「ああ。我ながら子供の様な純粋な気持ちになっていた。そして、勇者の様に勇ましい気持ちだった。彼らと共に戦地(このへや)に赴いた時、神経が研ぎ澄まされていて、次にやる事がビジョンで目の前に浮かんで来る感覚だった。彼らと共に悪いお爺さんの息の根を止める未来をずっとずっと描き続けて来た。そのイメージをリアルタイムで実行する際、恐怖など消え去り脳の覚醒を実感した。手も、足も、目も、全身の筋肉も、最適の動きを最速で行い、今までの自分とは別人のような楽しい瞬間だった。まあ最後だけ奴に心を乱され失敗してしまったが……」

「何でボケ人間コンテストに来ていたの? それを受け取りに行くだけで屋敷には帰らなかったの?」

「探偵役を連れて来る為にワシの意思でそこに行った。そこで人材を調達してから荷物を受け取るつもりだった。それにしても君から声を掛けてくれたのは幸運だった」

「そうなのね」(そういえば喫茶店から出てきた時にビニール袋を提げていたわね。あの中に【白雪】が入っていたって事ね)

「だがまさか優勝賞金まで貰えるとは予想外だったがな。嬉しい誤算だ」

「本当にあなたが殺害したの?」

「無論。そして、それは簡単だった……いや……簡単ではないな。(一年以上策を練ったからな……)だが敢えて奴の得意とする呪文で奴を欺き見事殺害出来たよ」

「やっぱりその呪文って死の呪文なんでしょ? 今も詠唱のピースを演者がどうのこうのって言ってたし」

「そうだ。そして、もしそれをワシが事細かに君や警察に自白したとて、その犯行は絶対に解明出来ぬ。そこに刑事も居るが、それを今ここで全て聞いたとしてもだ! 恐らく科学捜査で奴の死体を調べるだろう。だが、何も分からぬだろう。何せ魔法とは、科学と全く真逆の存在。コインの表と裏だ。科学が表面で存在している限り、魔法はあってはならないと言う普遍不動の原理が刷り込まれている。それを使ったと言い出した瞬間、化学は魔法の存在を認めた事になってしまう。故にそれ以外考えられないと分かっていても言い出せぬであろう。この世界は捜査のベースは科学捜査しかないのだ。科捜研の人間が、

『これは科学では解明出来ません。魔法で殺したのです』

と、言えると思うか? 口が裂けても言えぬ筈。自身の存在を否定することになるからなwそういえば先程鑑識が来ていたが、検視結果はどうだった? 実際見てはいないが簡単に予想が付く。どうせ満腹による死亡とでも書いてあったんじゃないか? ん?」

「ぐぐぐ」(正にその通りだわ……魔法なんて立証出来ない。どうやっても……)

「その表情……図星であったか……フフフ……所詮どんなに知識があっても奴の死因を特定は不可能であったか。そうでなくては困るがな。これは刑事責任能力の無い者が犯罪を犯しても無罪になる。と、言ったルールとも似たような物だな」

「心神喪失者よね?」

「そう、実際罪人が犯罪を犯したのに、そいつの頭が何をやったか分からない。良い事なのか? 悪い事なのか? 法律や道徳が許す行為なのか? これらを判断出来ない状態で犯した罪は、どういう訳かこの国の法律では無罪になるのだ。これは一体どうした事か? 明らかに一人の命が失われたのに、それでも裁かれないと言う不思議な現象。こんな理不尽で意味不明のルール、正に魔法と何ら変わりがないな? こんな事が、法律で記されているのだからなw実際被害者の遺族は無念極まりないだろう。交通事故より遥かに質が悪い。もしそういう人間しかこの世に居なかったらどうなってしまうのだろう? 沢山の命が奪われてもお咎め無しの世界。みんな死んでしまうと思わないか? 無法地帯と化す。心神喪失者はベッドに縛り付け自由を奪うしかないのだ。もしくはもうあの世に行って貰うしかない」

「言いたい事は分かるけど……」

「そして数か月の精神科での入院、訓練後に社会復帰してしまう。そう、

【私は過去に人を殺しましたけど、これからこの会社の為に頑張ります】

と言ってどこかの企業の歯車になる……何とも言えない気分になるな。ただ、解明出来ぬ物は証明しようがない。魔法もこれと同じ。仮に術者がターゲットに強烈な殺意があったとしても、責任能力があったとしてもだ。故にワシは捕まる事はあり得ない。こうして高らかに白状していると言うのにwだからワシは警察など一切恐れていない。唯一恐いのは詠唱中に途中で気付かれ反射されてしまう事だけだ」
これがフンガーの真の姿だったのか……かつて共に戦い絆を深めたあのあどけない体力馬鹿だと思っていた大男。何故か恵まれている体格のわりにいつも不安そうでおどおどしていたが、いざとなると正義感は強く、そして優しい。そんな彼が、今アリサを言い負かそうとしているのである。

「確かに……私があなたのトリックを必死に解説していた時も楽しんでるみたいだったし……私の推理を聞いた後、言い訳する事もなく認めてた……部屋にはそのまま食べ物が散らかってた……それも片付ける必要がないって事か」

「まあ途中で気付かれて妨害されたりしては敵わぬから、事が終わるまではレンジでのアリバイトリックやら手袋等の使用で、ドアノブや室内に指紋は残さぬ様にしていたが……念の為な」

「じゃあ消えた死体はどこなの?」

「それがワシにも分からない。どうせ全てが終われば警察にも市田の死体を見てほしかったからな。ワシは警察にも恨みがあるからな。奴らがどういう殺害方法なのかと狼狽する様を見たかったのもあるしな。だから死体が消えるなど想定外だ……」

「そんな……」

「詠唱後半でアクシデントが発生して緊張した為、死んでくれたかどうかは確認はしていない。が、あれを食らって生き残れる筈はないからな。誰かが移動させた? そうではないか?」

「でも……あそこは鍵が掛かっていたのに……誰が? どうやって移動させたの?」

「何度も聞くな。分からぬ物は分からぬ。だが、もう奴の下らん思想を毎日の様に聞かされる苦痛を味わわず済む。それだけは間違いない訳だ。ああ、最高だ。さあもう終わった事だ。夜も深い、そろそろ就寝する事にしよう」

「何言ってんの? あんたは今すぐに警察に行くのよ!」

「君は今までの話を聞いていたのか? もし行ったとしてもとんぼ返りだ。さっき説明した通りの事で即釈放だろう。故に時間の無駄と言う物。更には偶然死体も無くなってしまったしな。まずは本当に殺人事件が起こったのかが争点となりかねないなw」

「くそう……どうして? こんなに変わっちゃったの? 喋り過ぎよ……何でこんな……」

「変わった? 元に戻っただけだろう? 君はワシが少しずつ言葉を取り戻していく演技をしていた時、喜んでいたではないか? 

【着実に……実っていく……】

とか恍惚とした表情で言いながらなww一体何目線での発言だったのだ? 保護者か? 師匠か? 笑いを堪えるのに必死だったぞwだが君は、ワシが実際饒舌に話す様になれば悲しそうな顔をする。一体どういう心理なのだ? 嬉しかったんじゃないのか? ワシが少々言葉を話せていた段階ではその成長。否、実際には

【成長しているふり】

を見て喜んでくれたではないか? 悲しくなるぞ? と言う事は? 君はまたフガフガと入れ歯が外れた老人の様な話し方に戻って、君に従順に隷属して欲しいと、あの頃に戻りたい。と、微かに思っているのではないか?」

「ち、違う」

「迷っているのだな? 突然の変化に……幼さ故にな。ならばこのままで良いであろう? もうワシもあの芝居には飽きた。君の迷いも時間が解決してくれる筈だ。まったり行こう。さて、奴の卓越した経営手腕のお陰でこの屋敷の財政は破綻寸前だ。これからはワシがこの屋敷の正統後継者として引っ張っていく。市田が募ったメンバーだとしても君達には罪は無い。追放するつもりは無い。これからもよろしく頼むぞ。お化け屋敷をアリサの提案を取り入れつつ継続していくつもりだが皆も付いて来てくれるな?」

「嫌リキ! 貴方はそんな事で人一人を殺す嫌な奴リキ! フフンケンさん酷いリキ!!!!」

「リキュバスさん……いいや、サキュバスさん! それにワシはフランケンだ。貴女もかなり奴に酷い目に遭わされて来たんじゃないか? だから自室のマネキンに市田の顔を逆さにしてくっ付けてその憂さ晴らしをしていた。そうじゃないか?」

「うう……それはリキ……」

「もうそんな事はする必要はない。そもそもこの屋敷では言論の自由が無い。名前を通常から一つ足りなくして呼んだり、語尾を付けろだの語尾略は駄目だのほざくし……少々の冗談でも突然『ヒヒヒィ』と言う奇妙な音を発し笑い出し、耳を、心を蝕む。更には耳障りの良くない口癖……一人でどれだけの迷惑を掛けてくるのだ……それを何の罪のない従業員全員に与えた。そうだ、苦痛を耐え続けながらやる仕事など仕事ではない。そうは思わないか? ワシはその騒音発生装置を然るべき所に移動させただけ。悪は滅びた」

「でも、それでも……命を奪うのは駄目だと思うリキ……」

「そしてもうこんな煩わしい語尾はいらないんだ。それに奴の決めた名前に縛られる理由も無い。考えても見てくれ。ワシは家に突然入り込んだ侵入者を1年かけてじっくり研究して癖を生かしつつ奴の得意分野である呪文、しかも詠唱時間の長い神施魔法の協術と言う前代未聞の方法で他の誰にも迷惑を掛けずに駆除しただけだ。貴女もうすうす感付いていないか? 奴は殺さない限りいかなる説得も応じない。生きている限り、屋敷の住人全員があの意味不明なルールを受け入れ続ける」

「それはリ……それは……」

「貴女はワシがその時にどれほどのリスクを背負ったのか分からないのか? 父を無慈悲に殺され、ワシにも精神攻撃をし、心疾患にまでした上に不運にも自分の考えにマッチした家。すなわち鹿鳴館から一足りない名前の五鳴館を乗っ取りに来た悪魔を払っただけ。何かおかしい事があるか?」

「な、何も無いリ……何もない!」

「そうだ。語尾はもういらない。理不尽だと思わないか? そんな悪党を警察は許してしまったが故にワシは自分を守る為に警察を欺かなくては……こっそりと駆除しないと平和な時間を取り戻せないなんて……ワシだって辛かった。でも逃げたらいけないと歯を食いしばってここまで来たのだ。君も同じ目に合えばきっとこうする筈だ。君は強いのだ。泣き寝入りなどしないだろ?」

「……」

「わ、私……どうしたら……分からない……このままフンガーの言う通りになっちゃうの? 誰か教えて……」

「待てええぃ!」
何者かの声がフンガーに向けられる。

「ぬ? そ、そなたは……」

「あ、あ……」

「嘘でしょ!? だって確かに……」
その声の方を振り向いたらとある人物の姿が……それを見た一同は驚きの表情になる。
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