第38話 アリサ VS ????

文字数 5,451文字

おはこんばんちわ。語り部だよーん。この先、犯人の名前が語られる。まだ見たくないと言う方はここで戻る事も可能だ。
見たいと言う方はお手数ではあるが下にスクロールして、その真実を確認してほしい。



























「……信じ……られなかったよ……フンガー!」
アリサは震える手を必死で抑え、フンガーに左手人差し指を向ける……

「え? アリリちゃん? この大男がですか? まさかそんな……」
突然予想だにしていない事を言うアリサに驚く竜牙。

「アリリちゃん? 突然何を言うんだカニ!?」

「ま、まさかそんな訳ないドフ」

「そんな……嘘だニイ」

「嘘でチュウ! そんな訳ないでピカ!」

「信じたくないリキ!!! 私、アリリは大好きだリキ! でもこんな事言うアリリは大嫌いリキ!!!」

「ワシもーリ。アリリちゃん? こんなバカげた事を言う為に皆を集めたーリ? こんな事ならもう帰って寝るーリ」

「フンガァー?」
キョロキョロ
アリサの涙の告発だったが、当のフンガーはマイペースにキョロキョロとどこかを見ている。まさか自分の事を言われていると気付いていないのか? それとも芝居なのか? 皆の視線も関係無しに辺りを見回す。

「え? き、聞こえてないリキ? フフンケン君? 今、君が犯人だって言われてるんだリキ! 早く違うと言うリキ!!!!」

「その通りドフ……ん? いや待て、リキュバスさん。そう言えば彼は言葉が分からなくはなかったか? だから今のアリリちゃんの言っている事を理解出来ていなんじゃないかドフ?」

「そう言われれば……じゃあ答えられないリキ? 仕方ないリキ……え? あれえ? でもいつも……あれ……? 何かおかしいリキ!?」

「何がおかしいんだドフ? あ……いや、そうだ! 本来そんな筈は無いような? ……ウム? だとすればこれは一体どういう事ドフ? いつもならこうではない筈ドフ? ウム? 分からぬドフ」
何故か二人は混乱している。皆さんにその理由が分かるであろうか? 実はこれには明確な理由があるのだ。そう、この混乱の理由は、恐らくこうだろう。フンガーは言葉は喋れない。それは皆の共通認識。
だが、言った事はしっかりと理解出来ている。と、言う事は、全員おぼろげで分かっている事。だがそれはフンガーから直接聞いた事ではなく、それぞれで、

【そうなんだろうなあ】

位で感じている事だ。そう、彼は喋れないけど人の指示は理解出来る人物。それが皆から見たフンガーの人物像。だから、その筈なのに、アリサの涙ながらの告発に何のリアクションもしないと言う不自然な行動を目の当たりにする。
先程の場面で、皆がイメージした映像は首を振り、自分じゃないよ! と、ジェスチャーやたどたどしい日本語で否定する場面が浮かんでいた筈。
ところが、突然とぼけ出して知らんぷりをしている彼を見た結果、違和感を覚え、混乱に至ったと言う事だ。
そう、今まで彼は、誰の言った事でも完全に理解出来ていた筈なのだ。それに自分で考える事も出来る。皆さんは覚えているであろうか? アリサをこの屋敷に運んだ後、道に置きっぱなしにしていたお米を自発的に運んで来た。そう、あれは誰かの指示でやった行為ではない。自身で考え、盗まれたらまずいと急いで取りに戻ったのだ。
それに、オオカニの部屋での事。よく見てもらえば分かるが、その時点で彼は居なくなっていた。それは、場所的に残り2部屋で自分の部屋を見回る事になる。だからそろそろ移動しておくか。と、これも自主的に自室に戻っている。と、言う事は? もしかしたら彼は、相当賢い人物なのではないか?

「もう……止めて……もう……とぼけるのは止めて! 本当は何もかも分かっているんでしょ? フンガー? いいえ? フランケン・アヒム・シュレイネーゼ!!」

「え? 誰ーリ? まさか彼の本名?」

「な、何故アリサが? どこでその名を?」
喋った? しかも今回は片言ではなく流暢な日本語で……

「!!!!」

「へ?」

「う、嘘だろ?」

「な……!?」

「え……」

「しゃ、べって……いる?」

「……」
それと同時に皆はフンガーに注目し驚嘆の言葉を発する。当然語尾など付ける余裕等は無い。誰が喋っているかもさっぱり分からぬ……そしてアリサは膝から崩れ落ち、両眼から涙が溢れる。

「アリリしっかりリキ!!」

「ぐすんぐすん」
こぼれる涙。それは、フンガーの変貌が彼女にとってそれ程までに大きいと言う証。今まで信頼していた人物からの裏切りでもあった。とぼけるのは止めてと彼女は言っていた。だが、それは半分半分であった。この告発を聞いてもずっととぼけ続けていてほしい。と、言う気持ちも少なからずあったであろう。だが、本名らしき名前を聞き、本性を表してしまった。そう、これこそが彼の真の姿。
今までずっと秘せられていた真実。それが自分の発言が原因で表面化された……黙っていれば今まで通りの関係を続けられたのに、それが正義の為とは言え、自身で崩壊させてしまう、終わってしまう。そんな悲しい瞬間でもあるからだ。拭っても新しい涙が流れる……だが、立ち上がり涙を拭う。そして、再びフンガー……いや、フランケン・アヒム・シュレイネーゼに左手人差し指を向け、言い放つ!

「あなたは……市田さんを……殺害した!」
震える声で絞り出す。

「ええええええええリキ?」

「まじかカニ? そんな訳ないカニ!!」

「アリリちゃん! 何でそんな嘘を突然言うんだドフ……だが……フフンケン? 貴様! こんな流暢に言葉を? ま、まさか……君の言う事は本当に? では今まで私達を欺いていたのかドフ?」

「嘘だと言えーリ! アリリーリ!」

「私だって……これが夢なら、嘘だったらどれほど良かったか……信じられな……」
するとフランケンがアリサの言葉を遮る様に語り始める。

「待って欲しい。これは夢でも嘘でもないのだ。確かにワシは喋れてはいる。だがそれは、少しずつ成長し、丁度このタイミングでここまで会話出来るまでに至っただけ。少しずつ、確実に経験を積んだ結果が偶然ここで実っただけだ。ワシも何の努力もせずに暮らすなんて出来ない。皆にいつまでも迷惑を掛けまいと言葉の練習を隠れてやっていただけ。何も不思議ではあるまい? そして、ついにここまで辿り着けたのだ……長かった。そして、アリサ! おめでとう。君はワシと意思疎通させたいと考えていたのではないか? そして少しずつ確実に成長し、新たな言葉を発するワシを見て、母親の様な喜びを感じていなかったか? そうであろう? ならばこれは何の問題もない事であろう?」

「は、話を逸らすなああああ!! 今はそんな事で泣いてる訳じゃないのよ。あんたが市田さんを殺したって事を言っているの! そんな事、もう、分かってるでしょ?」

「さあ? 全然分からないなあ。殺すとは? どういう意味なのだあ? なあアリサよ、生まれたてのワシに教えてくれないか? 喋れるようになって間もないのでな。色々と聞きたい。教えてくれるかね? アリサお母さん?」
両手を広げ、首を右に傾けつつ話す。

「くっ……そうやってしらばっくれるつもりね? いいわ……その余裕……少しずつ崩してあげる……!」

「フフンケン君? 本当にフフンケン君なのーリ? 信じられないーリ……」

「アリリちゃん? 彼が犯人って言いましたけど、本当なんですか? どう見てもそんな事する様には……それに確かボケ人間コンテストで一緒に戦った仲間って話を聞いていますが?」

「冗談でこんな事言わないよ!」

「信じられないリキ! フフンケン君の筈ないんだリキ!!! 取り消すリキ!!」

「もう無理よ。この時点で取り消す事は出来ない。これだけ大きな変化が起きてしまったんだからさ……リキュバスさん? それにみんなも! こんなに喋っている彼を一度でも見た事はあるの?」

「無い……リキ」

「同じくニイ……」

「そうよね? 私達に喋れない事を隠している時点で何か裏がある。だから私は黙らない。取り消さない。そしてみんなは最後までこの話を聞かなくては……いけない!」

「確かにそうだカニ。何でフフンケン君がこんな事を隠していたかだけは聞きたいカニ」

「でもどうして彼が喋れると気付いたんだドフ?」

「そうね、まずは疑うに至った……根拠よね?」

「そうだニイ! ずっと同じ家にいたのにそんな素振り一度も無かったニイ。こんなに喋っている所は見た事無いニイ」

「ワシもだーリ。位置が隣の部屋なんだーリ。で、普段ずっと静かに読書をしている時も『フンガー』以外の声は聞こえて来んかったーリ?」

「リキ!!!!!!」

「残念だけどあるの……ニイラさん……じゃあまず、みんなはフンガーってどういう存在だと思っている? じゃあネズニ君から私が回った部屋順に教えてくれる?」

「え? そ、それは……料理が得意な素直な青年で……みんなもそう思うでピカ?」

「僕もニイ。僕は力仕事が苦手だけど、重い物を一緒に運んでくれた事があるニイ。そんな彼が酷い事はしないと思うニイ」

「私もだ。あんな事をする人間には到底思えないドフ」

「そうだリキ! 天下一の料理人だリキ! でもあまり喋る事は出来ないリキ!! でもとっても優しくて力持ちリキ!」

「俺もそう思うカニ」

「ワシも同意ーリ」

「私も同じよ? だからその事に気付いた時、涙が止まらなかった……」

「アリリーリ……」

「でも、リキュバスさん? 今優しいって言っていたよね? 何でフンガーが優しいと思ったの? 優しさって色々表現方法があるけど、その中でも言葉による優しさの表現でそれを受け取れる事が多いと思うの。態度とか行動を黙ってやってもそれはじっくりその人を見ていれば伝わるかもしれないけど、それはごく少量しか伝わらないと思わない? 一番簡単に優しさを伝える手段って言ったらやっぱり言葉……だと思うの。だけど、彼、喋れないのよ? では、どういうところからその優しさを感じ取ったのか答えられる?」

「え? そ、それは……私の好物を覚えていてくれて、それを美味しく料理してくれるリキ!」

「ワシもそうじゃな。沢山のレシピを覚えているようで、料理本を読んで料理をしているのを見た事が無いーリ」

「そうドフ。彼に指示を出すと全く聞き返してこないドフ。一発で全てを理解して、私の望む結果をもたらしてくれるドフ。正に1を聞いて10を知ると言った感じドフ」

「そうだカニ。おもちゃの片づけを手伝って貰った時も、自分でいろいろ考えて俺の頭で描いた通りに並べてくれたカニ。まるで意思疎通出来ている感じがして、ちょっと気味悪かったカニ」

「みんなありがとう。そう、喋る事は出来ないのに、彼は言った事をしっかり把握し、記憶出来る力があるの。これってこうは言えない?」

「ど、どう言えるんだカニ?」

「分からないリキ!!」

「そんなの簡単よ……敢えて喋らないだけで、日本語は十分理解出来ているって事。喋れない振りをしているって事よ!」

「あ!」

「思い出して? 私が台本も一切使わずに200つっこみを終えた後、私以外の全員がその凄まじさに驚いていたよね?」

「確かにニイ……確かあの時アリリちゃん化け物だったニイ。ボケ人間コンテスト優勝者って言うのは伊達ではないと思ったニイ。
アリリちゃん以外の8名の人間が一人一文字ずつ、

【え?】 【な? 【り?】 【だ?】 【か?】 【ず?】 【き?】 【ち?】

と言う個性豊かな感嘆詞を放ち、偶然にも人名にありそうな言葉を完成させつつ驚いていましたニイ。因みに僕は【だ】パートを担当していたニイ」

「そうよね? まあ、その担当を一人一人誰が受け持っていたかなんて聞くつもりはないわ? 重要なのはフンガーもその、言葉を理解している人達同様に驚いていたって言う事実なの」

「そう言えば……」

「本当にフンガーが頭が悪かったとしたら、200つっこみを聞いたところで絶対に驚かない筈なの……本当に頭が悪ければ……ね! 聞いたとしても馬耳東風。ボケっとしている筈よ?」

「た、確かにドフ。では、喋れない振りをしていた彼も、突然行われたあの膨大なつっこみを目の当たりにし、演技を忘れ、素で驚いていたって言う事なのかドフ?」

「そうよ! 思い起こせば今朝のボケ人間コンテストで実際初めて会った時に、

「フンガー?」

としか言わなかったから、その瞬間自動的にフンガーしか喋れない奴とインプットされちゃったの。だって彼から

「私、日本語は完璧に理解出来ますが、フンガーとしか喋る事が出来ませんので宜しくお願い致します」

って断られた訳でもないし……でも、勝手にそう思い込んでしまった……で、それでも私どういう訳か彼に日本語で指示を出して見たのね? そうしたらしっかりと聞き入れ従ってくれた。
それだけじゃなく、予選の三問目で壁にぶち当たり、二人で作戦会議したの。まあ一方的に私が作戦を言っただけだけど……でもそれを一切聞き返す事無く完全に理解した上で実行出来ていた……リハーサル無しで……完璧に……グスッ、それを見た筈なのに……目の当たりにした筈なのに……一切疑問に持たず、それを良しとしてしまっていた……喋れないのに、聞いた事は完全に理解出来ている。と、言うおかしな矛盾を、

【文句も言わずに従ってくれる便利な奴】

だと当たり前に受け入れてしまったの……おかしいよね……バカだよ私……ずっと気付けなかったんだもん……真っ先に疑問に思わなきゃいけない筈の事なのにね……グスッ……」
微笑みながら涙を流す。
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