第4話 食事の時間

文字数 6,241文字

「じゃあ私はお風呂に行った後食事して、この屋敷を見回るって言う事でいいのね?」

「おうよ! まあ私達のノウハウは完璧だとは思うけど……だからすぐに終わっちゃうと思うけどね。
でもね? 第三者の、そしてこれだけ若いお客さんの貴重な意見はとってもありがたいし、お願いするよ!」

「フンガーフフ!!」
フンガーもその気持ちは同じようだ。気合が伝わってくる。

「そうね、私に任せなさい! 私も経営不振になって傾き掛かっている会社を立て直すのが趣味だから腕が鳴るわ。
隅々まで見て、いいアドバイスして見せる! 絶対に!」
ドン
胸を左手で叩く。
アリリ……そなたいつの間にそんな趣味を? 1話でも2話でもそんな素振りなんて無かったじゃないか? いつの間にそんなニッチな趣味を持ったのだろうか? そして、何時そんな勉強をする暇が? じゃあ

「アリリさん……実はうちの会社、経営不振になってしまって……あなた様の力が必要なんです。どうか良いアドバイスを下さいよ……何でもしますから!!」

と、普段生活している中で相談されると本気で思っておるのか? いつでもその相談に乗れるようにと日々研鑽(けんさん)を繰り返しているのか? 何故? 身長120cmの幼女にそんなスキルを求める人間はいない。それはそなたも分かるであろう? そなた位の年齢の女の子なら、若くて可愛らしい外見を武器に、周りに笑顔を振りまいて、諸手を挙げ、ぴょんぴょん跳ね回っていれば良いのだ。それだけで良い。上手い事を言う必要も無く、仕事に必要なスキルも、更には過酷な肉体労働も必要ない。それでも意図せずとも仕事として成立している。そう、見る人全てに癒しを与えると言う仕事がな。人の役に立つ時点で仕事として成立する。まあ給金は発生せぬが、そんな物はまだ早い訳で、そなたの年齢ならそれのみで生きていれば良い筈だ。それ以上をそなたに求める事はないのだ。そちらの方が遥かに楽な筈。それなのに何も考えずに、覚える事でどんな影響が及ぶかも知らない状態で敢えてその狭小な分野を勉強したのか? 無鉄砲とはこの事。何故その道に? これから知る分野の概要をある程度は押さえ、この先必須かそうでないか位は判断した上で勉強しようよ……そなたは取り入れる知識の種類が独特で、広範囲すぎるぞ!! そんな中途半端にあれやこれやに着手しすぎれば、器用貧乏になる未来が私ですら容易に分かるぞ? 知識を増やすのは人の自由。だが出来れば実用的な物から習得するべきだと思う。そこからこういう知識こそが生活に役に立つものなんだと言う事を知り、良い知識とそうでない知識を取捨選択する事も、限られた人生では必要となってくる。ノウハウコレクションはお勧め出来ない。履歴書に書ける物を片っ端から習得しても、必ず忘却するのだから……ある程度照準を絞って長所を伸ばす方が良いんだもん。それは絶対絶対なんだもん! それなのにそんなに沢山勉強しても、そなたの外見からでは誰もその道に精通している事等分からない。悲しい事だが人は外見で判断するのだ。故にある程度身長が伸び、身なりも仕事が出来そうな感じに整え、

【内包した知識に相応しき外見】

を完成させてからでなければ、そなたを頼りたい。と、思う人物なんて存在しないと思うのだが? そして万が一、どうしてもやむを得ずアリリに頼らざるを得ないような悲しい人間が居たとして、必死にアドバイスするアリリの言う事を心の底から信じてくれるのだろうか? そう、小さい小さいアリリが一生懸命説明してくれる姿を見ている内に、

『あれえ? おかしいな……こんな筈じゃ……』

と思い直し、半信半疑でのアドバイス視聴タイムとなってしまう。当然それではいけないな? アドバイスはアドバイスを与える側も受ける側も真剣でなければ真のアドバイスとは言えない。片方が適当であればしばらくすれば忘却される……そもそもアリリに頼った瞬間から、アドバイス終了に至るまでの時間全てが水泡と帰す訳となる。結局そなたの努力も無駄になってしまうのではないか? 私が仮に語りの事で絶望している時にそなたを見かけても、決して頼まないと思うのだが……私のプライドがそれを許さない。そんな事をする位なら、自分で道を切り開く筈だ。

「そうかい。頼もしいねえ助かるよ。この先の突き当りを左に曲がるとお風呂場がある。そこに洗濯機もあるから濡れた服はそこに入れておいてくれるかい? で、あがったら二階の食堂へ来てくれ。じゃあ私は一足先に……」
とことこ

「はい♡」
とことこ

「ここがお風呂場ね? 洗濯機もあるわ」
服を脱ぎ脱ぎ、ポイポーイ。
洗濯機へ放り込む。

「でも替えはあるのかしら? まあいいや。お風呂お風呂」
ガラガラガラ
♡10分後♡

「ああいいお湯でした♡ なんかすぐに上がっちゃったなw烏の行水ねえ……もっと入っていてもよかったんだけど、髪が短いとすぐに洗い終わるわね。なんだかんだで短いままでもいいかも♡若い頃は髪が長すぎて洗髪だけで30分は洗ってたもんね。髪が短いだけで時間短縮になるじゃん。いい事を知ったわ♡あっ? 新しい服ね? サイズぴったりだわ♡しかもいい匂い♡」
現在アリリは髪を短くしている。だが確か昨日まで長髪だった筈だが? 昨日のボケ人間コンテストの昼休みに切ったばかりであろう! それでも【若い頃】と言えてしまうのか? まあ確かにそうかも知れぬ。このセリフは一日一日を大切にしている者だからこそ言えるセリフなのかもしれない。危ない! 話が大きく脱線するところであった……まだそれ切ってない内にすぐさま戻すよ! 洗濯機の上に用意されていた服がたたんである。イチゴ模様の服だ。それを着て、二階の食堂を目指す。

「あった」
二階に上り、食堂を探してみると、Dining hallと書いてある看板を見つける。

「多分ここだ! ダイニングホール? うわあかっこいいフォント!」
看板のフォント【書体】の部分に注目するとは……アリリはふぉんと目の付けどころが違うなあ。まあ普段から字面字面と言っておる少女だから一番に見てしまう部分なのかも知れぬ。男性が初対面の女性の胸元をこっそりチェックしてしまう様に、本能的な物なので許していただきたい。
ギイイ

「お邪魔しまーす。あら♡広ーい♡ それにいい匂い♡」
部屋を開けるととても良い香りが漂っている。料理は既に出来上がっている様だな。

「お? さっぱりしたねえ! 食事の準備は出来ているよ。アリリちゃん時々くしゃみしていたみたいだけど治まったかい」

「はい♡温まったので大丈夫だと思いますう♡いいお湯でしたあ♡」
おやおや? ふむ、先程私は、もうあの媚びた感じのアリリは帰ってこないと予想を立てていたのだが……ちゃっかり戻っているぞ? 不思議である。
こんなの探偵に正体を見破られ、

『フハハハハww』

と言いつつ、変装していた一般人のマスクをビリビリっと破って投げ捨て正体を明かした怪人20面相が、いそいそとその破ったマスクを拾い、被り直している惨めな状態と変わりないと思うのだが……ああ、ほらほら、つなぎ目がビリビリで、唇の部分切れてるって……それじゃあ人の顔を成していないんよ……そんなの被り直すのはもはや違和感しかないって……そう、そんな状態を今アリリは現在進行形で行っている。
あれだけ豹変した事をケロッと忘れているのだ。まあ市田も元に戻った事をあまり気にしていないし、イケる! と踏んだのだろう。この豪胆さもアリリの特徴である。

「ならよかった。あ、先に頂いていたけど許してくれるか? ふうふう」
市田はアツアツのお茶を先に飲んでいた様だ。

「勿論ですぅ♡ そのお茶ダージリンですか? ウバ茶ですか? でも熱そうですねえ♡」

「おうよ! これはフルーツティーだよ。今淹れたてのほやほやだからねえ……めい!」
お茶を一口。直後に【めい】と言う。恐らく前の文脈から推測すれば、市田の口癖……そうだな、市田語とでも呼んでおこう。その市田語で美味しいという意味なのだろうな。

「言葉にしてふうふうって吹いていたので秒で分かりましたぁ♡♡」

「まあこれは私の癖だからね。気にしないでくれ。じゃあアリリちゃん、好きな所に座って!」

「はいっ!」(アリサだってのにィ! ……って良くしてくれているんだし、いちいち突っ込むの止めよっと)
夕飯はチキンステーキとリゾット。そして、ゼラチンに包まれているレタスもある。飲み物は市田も飲んでいるフルーツティーだった。
洋館らしく洋食でまとまっている。
そしてどれも出来立ての様で、湯気が立ち昇っている。ウム、旨そうであるな。

「いただきます♡」

「あっ、食べながらで聞いてくれるかい?」
トコトコ モグモグ
市田は何故か立ち上がり、歩きながら食事をしだす。

「もい」(え? お行儀悪いわねえ)
もぐもぐ

「さっきも言ったと思うけど、うちは住居兼お化け屋敷なんだ。私以外に7人の住人が居て、その人達が人を驚かすスタッフになってくれています」
トコトコ モグモグ ボトボト

「もん」(あら? 食べ歩いてるからこぼしてるこぼしてる!)
もぐもぐ

「この屋敷のルールはスタンプラリーの様に、各部屋の奥に設置されているスタンプ台があり、それを全て押した後、入口まで無事に戻る事が出来ればクリアなんですよ。しかも、59分以内に達成すれば、特別な景品も出るんです」

「もい」
もぐもぐ

「コツは、いかにこの屋敷に仕組まれたギミックを冷静に判断し驚かない事です。それが出来れば苦労しないんですけどね。ヒヒヒ……そして、巧妙に隠されたスタンプを早く見つける事でしょう。
当然時間が過ぎてもこの屋敷にとどまる事は可能ですし、途中退場も大丈夫だけど。59分以内を目指そうと頑張ってくれる人が多いんだよお。別に何にもペナルティはないんですけどね。時間制限があった方が楽しめますよね?」
何故59分なのだろうか? 中途半端である。

「もい」(え? 何これ? ただの前菜だと思っていたけど……旨い! いいえ? 私の短い人生の中ではあるけれど、その中でも一番旨いまであるわ!! だってさっきのチキンステーキよりも美味しいんだもん……これじゃ肉の立場ないじゃん……この野菜……この世に存在しているだけで全ての憎に肉まれるわよ……あら間違えたwまあ、書き直すのも面倒だしいっかwwwww)
プルンプルンシャキ! シャキ! 
ゼラチンに包まれたレタスを食べ感動するアリリ。

「な? どうしたんだい? 震えているけど?」

「何でもないですうぅ♡」
シャキシャキ

「そうかい? でね? 食べ終わったら七つの部屋を周ってもらうけど、ついでにそこで仕事している仲間も紹介するからね。その人となりもお化け屋敷の重要要素だと思うし」
モグモグ ボトボト
床が食べ物まみれだ。こぼし過ぎな気がする。

「はいっ! あっ食後のデザートもあるんですね? 甘い物はフルーツから摂るようにしているので助かりますう♡では、いただきまーす♡」
にゅう

「使わせよ!」
にゅう ぐいっ
アリリの短い腕がレーズンの入った皿を掴んだ直後に、手元に引き寄せる市田。
ゴン
市田に引っ張られ、別の食器に手をぶつけてしまう。

「いてっ! ちょ? 何で? 私のでしょ? 返しなさい!! で、突然引っ張られたせいで食器に指ぶつけちゃったのよ? ちょっと痛かった!」 

「ごめんごめん。いやいやこれは私のデザートのマイナス1ーズンだ! これだけは譲れないよ! 私は甘いものは別腹だしね。パクパク……めい……」
ボトボト……こぼしながら食べつつも、両手でほっぺたをさすりながら笑顔になる市田。
しかし、マイナス1-ズンとは一体?

「使わせよって何よおおおお怒!?」
 
「な? アリリちゃんは自分の所有アイテムが取られそうになった時とかに咄嗟に、【使わせよ】って言葉を使わないのか?」

「言わないわよ! それは私の! とかでしょ? 後、めいじゃなくてうめえでしょ? それじゃあひつじかやぎの鳴き声じゃない! 後、レーズンの事をマイナス1-ズンって? どういう意味よ! 滅茶苦茶長いし言いにくいし書きにくいわ!」

「そうか? しかし書きにくいとは一体? でも、そういう言い方もあるのか……だけど私はこれが普通なんだよね」

「異常だよ」

「なる! 勉強になるなあ。それにしても人の物を取ろうとまでしていたって事は、よっぽどお腹減ってたんだねえ。良い食べっぷりだったね」

「マイナス1-ズンの事、聞いていないよ? 全て教えて! 早く!」

「まあいいじゃないか。説明が大変だから勘弁してくれ。とにかくこの木の実の事は私はマイナス1-ズンと呼んでいるんだよお。じゃあ食事はこれ位でいいかい?」

「うん♡全部美味しかった♡特にあのプルプルした野菜? あれ食感が滅茶滅茶良かったわ。初めて食べたかも♡」

「ま? 初めて食べたの? あれはレタゼラだよ。酢醤油風味のゼラチンの中にレタスを包み込んだ優しい料理なんだよお。そんな珍しい物でもないと思うけど」

「♪レタスはなーるべーく赤ーくーてー固そうなのを選んでー♪」

「今ここでか……」

「気分が良いとつい歌っちゃうのよ♪」
アリリは歌が大好きだ。

「まあいいけどね。急に歌うとビックリするよ」

「一々びっくりしないでよwでもあのプルンとした野菜だけど、今朝食った牛丼の300倍は楽しかったわ」

「牛丼の299倍は楽しかった?」

「300倍だよ!」
いや、そこはどうでもよかろう。それにぴったり300倍と言う事ではないだろう? それってアリリの感想ですよね?

「美味しいじゃなくってかい?」

「ああ私の場合ね、美味しかったの上が楽しかったなの。食べるって何だかんだで楽しいじゃん?」

「なる! そう言う表現が……」(美味しい事は楽しい……か。この表現……私の作品にも取り入れてみようかな?)

「あの市田さん? 気になったんだけど、市田さんそのオウム返しって癖なの?」

「オウム返し?」

「そう。今もだけど言われた言葉をそのまま返すって意味」

「そう言う言葉もあるんだね。聞いた事の無い言葉は反射的にやっちゃうかもしれないね。今まで意識せずにやっていたけど、もしかして気に障ったかい? これも癖なのかもしれないけど、もしそうなら直さないといけないね」

「まあちょっと気になっただけだし……気に障るって程でもないよ。あ、ご馳走様でした。本当にありがとうごさいます! ふぁ~あ……あれ? 少し眠くなってきちゃったかも」

「ま? じゃあ零眠りしてからにするかい?」

「零眠り? 寝ないって事?ww それを言うなら一眠りでしょw ありがたい提案だけど先に見回る」
アリリは何事も後回しにする事を嫌う。今出来る事は出来るだけ後回しにせずに出来るだけ多く済ませて置きたいと言う気持ちがあるのだ。
当然夏休みの宿題も初日で済ませてある。提出する絵日記も、8月31日までびっしりと妄想の未来絵日記を既に書いてあるのだ!! このモチベの凄まじさが彼女の頭の良さの一因ともなっているのだろう。

「そう? 頑張り屋だね! まあこっちもプロだし、99%完璧だとは思うんだけど、お言葉に甘えて見て貰うね」

「はいっ!」(100%じゃないのぉ? 99%じゃ完璧じゃないよね? 変な人!)

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恐らくマイナス1―ズンと言う単語を使う小説家は私以外存在しないでしょう。
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