第41話 筈≒箸?

文字数 6,175文字

「これでは話が進まぬか……では教えてやるとしよう。アリサ。君は今までに何と7回目の筈べき行為……違ったなw 恥ずべき行為をしていた訳だなwまあ想像でここまで話せるスキルは素晴らしい。だが人はそれを【言いがかり】と言うのだ。さて……どこまで増えるかな?」

「くそ! そういう事ね? でもこんなのに負けない! で、あんたは

『牛!』

って言いながら牛肉をトッピングさせる筈」

「8」

「すると市田さんはその驚きから

『な?』

って言って、その後にあんたは

『割れるだろう?』

と言って、お菓子の上に乗った氷を半分になるようにずらし、牛肉を乗せる隙間を開けた後半分に割って、牛肉を乗せ、実食して見せた。これで、【全ての生命失われるだろう】が完成……でも、氷を乗せた状態でどうやって半分に割ったかは知らないけど器用な事するもんよね」

「ほほう、今回も上手い事繋がったな。順調だ。しかも言葉を選び、筈を外して見せたな。中々技術点が高いぞ?」

「そんな部分を評価するな! もっと私には褒めるべき箇所が数えきれない程あるんだ! で、あんたは割った後市田さんは、その様子を見ても何も気づかないの。でも美味しそうな牛肉を出されて思わず手掴みで多めに肉を取った後にお菓子に乗せようと奪った。それを確認したらすぐに……

『多い!』

って怒る。それで市田さんは

『なる!』

反省するわ。そして食べる。でも何でこんなおかしなルールなの? って考えたの。だってこんな事普通に考えておかしいでしょ? でもどうして市田さんがこのルールを自然に受け入れたかって考えたんだけど、もしかしたらあのお菓子の生まれ故郷を、アルゼンチンとかオーストリア産の菓子だと始めに説明したんだよ。そうすればこの異常なトッピングの順番も、その国では昔から伝わる伝統的な作法なんだ! と勘違いするのよ! そして当然美味しいから食べてしばらく待ったら「めい!」って言うけれど、それを言われたら成立しなくなるから口に運んだ瞬間に、

『めいかいの?』

と聞く。こうする事で「めい」っていう癖を封じつつ、本来の意味の「冥界の?」の意味を含んでいたとしてもそれに違和感を覚えないのよ。だから美味しいかと聞かれたんだと思い込んで、自然に

『おうよ!』

と返すのね? めいキャンセル成功ね! これで、【大いなる冥界の王よ】が完成したわ」

「ほう、想像でよくここまで話せるな。大した物だ」

「その言葉、そっくりそのままあんたにお返しするわ!! こういう結果に導く様に頭の中で何度も何度もシミュレートしたんでしょ? 恐ろしいわ! で次に、11時を過ぎた事を確認した後に

『何時?』

って突然聞いた。で、

『10時』

って言った瞬間に

『カニ!』

って叫んだ筈。その時11時を回っていたって思うんだ。数分だけどね。そのタイミングで10時では無いと確信している。これは、11時過ぎに行われた犯行よ。それだけは間違いない。市田さんに時間を聞けば1時間マイナスした時間を教えてくれるからね」

「確かにカニ。ややこしい人カニ」
だが今のオオカニのセリフもかなりややこしい。

「だから、11時になる数分前に市田さんの部屋に訪れたのよ。それで話している内に11時になる時間を何度もシミュレートした。そうでないと『何時?』って聞いた時に、「10時……」って返してもらえない。もしも10時に時間を聞いたら9時と教えてくれるからね……その時点で魔法として成立しないよね? あんたは

【十字架に】

って言う言葉を市田さんと協力して唱えたかったんだから、室内に入った時には必ず11時を回っていないといけない。でも時間が掛かり過ぎて12時を回ってもいけない。だから1時間以内に終わらせる必要があったのよ」

「フフンケン君……あの時君はそんな事をやっていたーリ? 信じられないーリ……」

「メデューリさん、もう間違いないの。この犯行、準備にも相当入念に積み上げて来たのに、こんな所で失敗に終わっちゃう何て間抜けすぎる。
だから、11時直前に部屋に入り、市田さんと話している内に11時になる様に一言一言に掛かる時間や、料理やコーヒーを振舞う時に要する時間をしっかりと頭の中で何度も何度も描いた上で練習したんだと思う。物凄いイマジネーションよ? それに、タイミングもそうだけど、

『割れるだろう?』

って言葉を言う為に、お菓子は割れる物を選んでいたってのも恐れ入ったわ。全てに於いて考え尽くされている……とんでもないわねあんた」

「H●●●●●●●●●9 O●●●3 T●●●3」
ぬ? 見事なアリサの推理を聞いている筈なのに、それに関しては一切驚嘆する事もなく、淡々とおかしなアルファベットと黒い丸と数を語り始める。

「えっ? 何それ? そしてあの●●●は何て読むの?」

「Hは筈の頭文字だ。Oは思うや恐らくの頭文字。Tは多分の頭文字だ。●は黒点とでも呼んでくれ。君は●の数だけ推測で物を言っているのだ。これでもし君の推理が間違っていたとして、これらを枕詞に語るだけで、

「だから多分って言ったと思う筈でしょ! 恐らくぅう」 

と言い訳が出来る筈だと思う、多分。いわゆる言葉の保険だ。断言して間違えたら恥ずかしいからな?」

「だってしょうがないじゃん。実際見た訳じゃないんだし。ここはもう妄想を爆発させて言いがかりの限りを尽くして見せるから覚悟しなさい! これからもこのスタイルは崩すつもりはないわ! ええと……恐らく例えば10時2分とかって言われたらおしまいだったから、かなりこの部分は集中していた筈」

「H●●●●●●●●●●10おお、10到達したな。もしかしたらアリサのこの功績はとっても素晴らしい筈。O●●●●4 T●●●3」

「ちょっと! さっきから止めてよ」

「君の推論をしっかり聞いている証拠であろう? 集中しなくては数え洩れが出てしまうので大変だよ。お! 閃いたぞ! これらの頭文字を取ってHOTカウンターとでも命名するかな?w だがHOT=熱いと言うよりはクッソ寒い内容なのだ。言い訳する気満々の、推論で推論を塗り固められた卑怯極わまりない最低の行為。こんな物、むしろHOTの逆で、TOHカウンターにでも改名するか?」

「好きになさい。で、これも多分だけど、カニはかなりの高温で保存していた筈なの。そうしないと市田さんの癖でもある、ふうふうって口で言いながら熱い物に息を吹き付ける行為が出来ない筈だから」

「ではお言葉に甘えてT●●●●4 O●●●●4 H●●●●●●●●●●●●12」

「で、ここで市田さんは当然2回

『ふう』

ふうってやる予定だったんだけど、それをやられたら今までの苦労が水の泡だから一回やったのを見てすぐに、

『ゼラレタ!』

って叫んだの」

「ほうこれで、【十字架に封ぜられた】が完成するな」

「ここの閃きは、あんたが食堂でみんなにレタゼラを出した時に、ゼラレ……まで言ってからレタゼラに言い直した所よ。
ただ言葉を言い間違えただけかなと思ったけど、ネクロノミコンであの呪文の詠唱部分を見た時、封ぜられたって部分がある事を知って、その奇妙な一致に引っかかっていたのね? もし市田さんに本来のレタゼラ! って言って渡しても呪文として成立しない。
だって封レタゼラになっちゃうからね。だから市田さんにレタゼラを出した時はゼラレタ! と大きい声で叫んだ箸」
ほほう、いちいちフランケンにカウントされる事を嫌ったアリサ、機転を利かせ、筈と言うべき部分を、箸と言う漢字に変換して言ってみる。
確かにこれは一見似ている感じの漢字なので注意深く聞いていないと見落とす危険性もあるが、果たしてフランケンは気付けるのだろうか?

「T●●●●4 O●●●●4 H●●●●●●●●●●●●●13……箸? おい! 筈と言う筈だろうが! 筈と漢字が似ているからと言って、紛らわしい事をするでない! この箸は、13個目の筈としてカウントして置くからな!」
な、何だこの男は? まるでアリサとの会話を楽しんでいる様にしか見えない。仮にも自分が殺人犯として告発されている真っただ中でだ……

「駄目! 箸と筈は全く違うよ?」
しかし、何故こんな機転を突然効かせる事が出来たのか? そう思われる方もいらっしゃるだろう。私も少々考えた。
すると、実はその根拠があったのだ。それは、オオカニの部屋でラジコンの飛行機を飛ばしていた時に口ずさんだ【スパッツ】の【空も跳べる箸】と言う曲を歌った過去がある。故にその記憶から思い付いた事と勝手に推測する。

「だが、本来筈と言う筈だった部分で使った箸だろう? ……じゃあ今言った「箸と筈は……」の部分で今度こそ間違いなく13だ。これは意図も意味もない厳然たるルールなんだよ!」
子供の様なフランケン。

「こら! 市田さんの真似をするな! それに、今の筈は、例え話の筈であって、本来の用途、推理中に使った物とは違う筈だからノーカウントにして欲しいわ!」

「T●●●●4 O●●●●4 H●●●●●●●●●●●●●●●●16wここにきてHを稼ぐではないかw20に行ったら又褒めてやるからな? 楽しみに待っておれ」

「くー、何かムカつく……で、ゼラレタを出した時に、目の前、顔に当たる寸前の所まで持って行った筈なの。そうしないと

『近!』

とは言わないから。一旦目の前に持って行った後にお菓子の上に乗せる。そう、カニの隣にレタゼラを置いたわ」

「T●●●●4 O●●●●4 H●●●●●●●●●●●●●●●●●17」

「で、この後歌うの。

『らーーーーー』

ってね」

「ほほう、中々上手いじゃないか」

「推理クラブに入っているんだから当然よ!」
それは関係ないが、色々な部屋で沢山の歌を歌っている。それも理由であろう。

「関係ないだろう? 推理クラブなら推理をしたまえ推理を」

「推理クラブでは推理もするけど、歌も歌うのよ。部長も歌が好きだからね。で、歌を突然歌われた市田さんは当然、

『今、ここでか……』

と返す筈。私も歌う度に何度も言われたわ。あれ言われると歌を楽しく歌っている時に訪れるハイテンション状態が、その一言で一気に虚無状態にさせられるから勘弁してほしいわ」

「T●●●●4 O●●●●4 H●●●●●●●●●●●●●●●●●●18」

「そこであんたはお菓子を市田さんが再び口にしたのを確認してから

『違法した?』

って返すの。でも、ここは市田さんが食べ始めるまで絶対に待たないといけない筈。だから少し間が空いたと思うの。でも待たないといけない。相当焦ったんじゃない? 何も言わずに市田さんが自動的に口に運ぶまで待たなくてはいけない状況。相当プレッシャーがあったよね? で、何とか食べてくれたから、【違法した?】を言えた訳だけど、もしそれをしなければ市田さんは【NO】って言う可能性もありえるの。
まあ、何回か私との会話でもNOって言っていた場面があったけど、それを使う場合って、強い否定の時のみなの。でも例外もあるから、突然言ってしまう可能性だってある。その確率を下げる為に確実に食べるまで待ったのよ。そうすれば、お菓子は口の中。返事は出来ず、首を振るしかない。これってこういう事よね? あんたは市田さんが食べている瞬間と食べてない瞬間までをも見極めながら犯行を行っていたのよ! どれだけ脳を使えば気が済むのよ!」

「T●●●●4 O●●●●●5 H●●●●●●●●●●●●●●●●●●●19」

「そしてここからは物凄く複雑なの。ええと……まず血のりの入ったタッパーを取り出し蓋を開け、

『これを……汁!』

って言いつつ出すの。これだけじゃ具体的な名前は分からないよね? ただの汁じゃなさそうだし……今まで簡単ではあるけど名詞を言いつつ出していたから、この次に食べる物がそれだけでもイメージ出来ていたけど、今回初めて汁とだけ言って内容は全く未知の液体。そして真っ赤でベトベト。それを見た市田さんは、べとべとしてるって言おうとしたんだけれど、

『べと』

の時点で

『しー』

って言って遮った筈よ。
で、得体の知れない赤い液体を今まで通りお菓子に乗せるのは気持ち悪いと感じた市田さんは、今食べているお菓子を飲み込んででも、

この血みたいなのは何だ? と聞こうとした筈。だけど、

『この血』

の時点で

『ニカ!』

と大声で言って、途中で止めた筈」

「T●●●●4 O●●●●●5 H●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●22……おいおいアリサ、3連続で使って20アニバーサリーを飛び越すでない。本来褒めて欲しかった筈だろう? それとTとOが余り伸びていない。ぜんっぜん伸びていないぞ。バランス良く使いたまえw」

「うるさい! こっちも思い出すので必死なんだ。そんなカウントせず黙って聞いてろ! で、今度はこんな血みたいな物をお菓子に乗せたいとは思わなかった市田さんは、彼の中で最上の否定の言葉である

『NO』

を言うしかないよね? そして、NOを聞いた直後に

『か、実』

って言うのよ。
その時出した実はレーズン。それを見た市田さんは当然

『使わせよ』

って言って、強引に奪い取りに来る筈。
市田さん視点で、得体の知れない赤い液体か、レーズンをどちらかお菓子に乗せるんだ? と、聞かれたのよ。なら当然大好物のレーズンを選ぶでしょ? で、当然、赤い液体が床に落ちていたのは、市田さんがお菓子に乗せてこぼした訳じゃなくって、レーズンを奪い取った時にそれを入れている容器にレーズンを奪い取る目的で伸ばされた手がぶつかってバランスを崩してこぼれただけなのね? ここまでで【この地に彼の神遣わせよ】となるわね。どう? もうゴールは見えて来たんじゃない? しっかしここまでよく考えたもんだわ。物凄い執念ね」

「T●●●●4 O●●●●●5 H●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●23」

「あくまでカウントアップを繰り返すからくり人形に徹するのね? で、

『我は此処に』

と、突然細工無しで本物の詠唱部分を唱える。
すると市田さんは、

『我は此処に?』

と、オウム返しをする。オウム返しをする条件って、市田さんが全く知らない言葉を突然言われた時に発動する事が多いからまず間違いなくオウム返しして来た筈よ。でもこれってもしかしてあんた、焦ったのかな? 市田さんに容器に入った赤い液体をこぼされた時に、記憶が飛んじゃって、本来用意していた事が出来なかったから素材のままお届けしたのかしら? この辺はあんたに教えて貰わないと駄目ね」

「T●●●●4 O●●●●●5 H●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●24」

「で、この先がちょっと分からなくて……と言うのも床に落ちていた食材を並べて推理したんだけど、ここまでなのよ。
他の食材は見当たらないし……だから、あんたはここからは小細工無しで詠唱をそのまま唱えた筈。だってここまで唱えてしまえば市田さんが如何に呪文の使い手だとしても防御呪文の発動に間に合わないと判断したわ。それで市田さんは気付く事なく……否? 最後の辺りで気付いたのかな? でも間に合わなかったと言う訳。どう? T、O、Hのカウントは順調に伸びた?」
恐らく論点は多分だがそこではない筈であると思う筈の筈である筈である筈なの多分だが? 
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