第3話 ま?【疑問】 ブル【恐怖】 おうよ【了承】 なる【納得】

文字数 6,808文字

ガチャ
「フンガーフフ」
先程出ていったフンガーが戻って来た。何か持って来ている。

「あっ! フンガー!! どこ行っていたのよ!! べっ、別にあんたの心配なんか……全然全くこれっぽちもしてないんだからねっっ!」
両手を腰に当て前かがみになり、顔をフンガーに向けつつ怒るアリリ。

「ん? 米俵付き? どういう事だあ?」
フンガーが持って来た物は大きな台車だった。その上にはボケ人間コンテストの優勝賞品のお米一年分があった。それを一人で運ぶ為に突然出て行ったのだろう。恐らくアリリですらその事は忘れていた筈だが、しっかりと記憶していて、運んで来たのか。中々賢い男だな。
前回、一旦雨に遭わない場所に避難させて置きっぱなしにしていたが、晴れたから取りに行ったのだ。
恐らくこれはアリリが雨に濡れてしまう事をあまりよく思っていなかったのか? まずは屋敷にアリリを運ぶ事を最優先にしたのだな? 相変わらず優しい男だな。しかし良く盗まれなかったな。幸運である。

「フンガーフフ!」
そして、市田に賞金の100万円と米を見せる。しかし、相変わらずおかしな語尾を付けている。皆さんは一見、フフと笑っているのではないのか? とお思いだろう。だが違うのだ。彼は一切笑っていない。それどころかその語尾を言う瞬間だけ、無表情に変わるのだ。そう、ただ事務的な感じで付けている。そういう感じに見えるのだ。そこまで嫌なら止めればいい物を……どういう心境なのだ? そういえば前回アリリにも語尾を付けるんだ! 等と言っていた気がするな。彼女は断ったが、屋敷の住人はそう言う訳にもいかないと言う事なのか? まあそれもいずれ市田の口から聞く機会もあるかも知れない。

「ん? 帯付き? どうしたんだこの大金は!? それにあの俵の中身は」
ごそごそ
市田は米俵の中を確認してみる。

「やっぱり……これはお米? しかも! うわあ! これ花咲(はなさき)米じゃないか!? 大好物なんだよお! すごい!」 

「そうよ。

【その炊き上がりの香ばしさと歯ごたえは筆舌しがたい】

のキャッチコピーで有名な最高級米よ。1粒1000円らしいねw紀元前400年頃のヨーロッパの胡椒一粒の値段か!! でもこれで1年分らしいわ。ちょっと少ない気がしない? これさ、お茶碗一杯で、1日1食での1年分って感じよねww」

「な? 1年分? 少ないって……そんな事無いよ! 九分(きゅうぶん)多いよ! す、凄いじゃないか! これで暫くは命を長らえる事が出来る! 助かるよお!」

「あ……これね……約束で私がフンガーあげたの。100万円とお米」(ん? 九分? 何それ? もしかして十分って言いたかったの? 1つ足りないじゃない? あっ! もしかしてこれ、遠回しに少ないって言っているって事? この人さっきから発言がちょっとおかしくない? どうしてこんな喋り方なのか2時間くらい問いただしてみたいなあ)

「ま? ど、どういう事だい? どうして100万円なんて大金を君が? 本当に君の物だって事なのかあ? で、何でフフンケンにあげたんだい? 意味が分からないよお」

「かくかくしかじか」
ボケ人間コンテストでの事を、軽いウソを交えながら市田に報告するアリリ。

「ま? それは凄い!」(この子……あのボケ人間コンテストの優勝者? 2位と圧倒的な差で優勝? 本当かい? で、でもこの100万円が真実を物語っている……すごいじゃないか! 通りで口が達者だと思ったよ)

「コンテスト会場で出場者の中にフンガーが迷ってたのよね。どうしてかしら?」

「いやね、こいつには客引きに行って貰っていたんだ」

「客引き?」

「そうだよ。実はここは私が経営するお化け屋敷だ。この洋館自体を改装して生まれ変わったアパート兼お化け屋敷なんだよ? で、こいつはフンガーって名前ではないんだよ? ここの住民でもあり、私の仲間だ」

「え? そうなんだ。ま、フンガーってのは私が名付けただけで自己紹介とかされてないからね。そういえば市田さんさっきからフフンケンフフンケン言ってるけど、それが本名なのね?」

「おうよ!」

「おうよ?」

「あ、もちろんそうだよって意味だよお」(いちいち言い直すのは面倒だなあ。私がおかしいだけなのか?)

「なんだ、なら始めからそういえばいいのにwwでもフンガーのが呼び慣れてるからこれからもそれでいくわ。で、〇×クイズの競技の途中でフンガーを裏切っちゃって……でもお陰で勝ち抜ける事が出来た。それが無ければ優勝なんて出来なかったの。だから私の賞金を全部あげたの……あの勝利は2人で勝ち取った物だから……この辺は詳しく喋ると2000文字以上掛かるのね? そうすると喉がヤバくなっちゃうね? なので、2話に詳しい事がしっかりと書いてあるから、気が向いたら読んで欲しい」(修ちゃんとのテレビ出演権だけは頂いちゃったけどね……まあフンガーは要らないでしょ多分……)
フンガーは本当に優しい男なのだ。裏切られた直後、本来怒らなくてはいけない場面で、恐る恐る振り返るアリリに満面の笑顔で声を掛け、更には初めて【フンガー】以外の言葉をしゃべって激励し、勇気付けた。どんな言葉をしゃべったのかはここでは語らないがもし、その言葉が無ければ、優勝の道は途絶えていた事は想像に難くない。

「なる……君はフフンケンに100万円を渡さなくてはいけない程の酷い裏切り行為をしたんだろう? だから、詳しくは聞かないし、2話なんて訳の分からない物も絶対に読まないよ。どんな事があっても……絶対に……ね……」(もしかしたらこれでここは救われるかも……)

「ありがとう。それは思い出したくないもん……? でももし気が向いたら私に遠慮せず読んでもいいんだからね? 私そんな程度ならへこたれへんし……辛い過去だと思う。けど、忘れてはいけない罪だと思うの……だから定期的に2話を読み返してはその罪を再確認する時間もひつよ……え? なるって何?」

「え? ああ、成、程の略だよ」

「成程じゃダメなの?」(あれえ? 成と程の間に読点が入っていた? 何でえ?)

「うーん……これは、私の口癖だからねえ。それに、【る】の後に【ほ】を続けて言う作業って相当大変じゃない? これぞ言葉のトリック? ……うーんこれだとちょっと違うなあ……そうそう、トラップだよね?  ると、ほを続けて言う場合だけ、舌を噛みそうにな()()どなんだ」(一々聞いてくるなあこの子。何でそんな事知りたいんだろう? 私の口癖、まさか一般人とは少し違うのかあ?)
アリリは知的好奇心の塊である。ちょっとでもおかしいな? と思えば、脳が正常でない場合以外は必ず質問してくる。そう、必ず。そしてそれは解決するまで容赦なく続く。
そして、万が一彼女がその返答におかしいな? とか嘘なんじゃね? と思おうものなら【誤情報提供者滅せよ】の信念に基づき、必ず相手の心をへし折るまで、耳障りのよくない言葉と、ひっかきと噛みつきと全体重を乗せた踏み付けで攻撃を続ける。そういう女の子なのだ。
小さくてそこそこ可愛らしい外見にふらっと近寄ってうっかり話しかけてしまっては、下手したら心の病にかかる危険性も孕んでいる。故に厳重に注意してほしい。

「へえー……でも今、舌を噛みそうにな【るほ】どなんだって言ったじゃん。これって、るとほを続けて言えなくちゃ発音出来ない言葉よ? そうじゃない? 何で嘘つくの? 成程は言えないのに、このようになるほどの場合はすんなり言えるって事になるけど? 同音異義語なのに成程は言えなくてなるほどは言えるって事になる訳よ? どうして? その後の【なんだ】もしっかりと喋れてたし……どこで舌をかみ切ったの? 当然嚙み切ってないよね? これじゃいけないと思うの。だから、今すぐ舌を出しなさい。はさみで縦に半分に切って、蛇みたいにアルファベットのYの様に先が分かれた舌に変えてあげるから! しかも、切られた事で2つになったって事になるから、噓つきの象徴の【2枚舌】と言う意味にもなって、しっかりと

【お仕置き】

出来るわ! 一石二鳥ね」

「ブル」

「冗談冗談w」

「ブル」
その、冗談wと言って、てへぺろをしたアリリの顔にまで恐怖を覚える市田。

「2連ブルw ビビリじゃんw 恥ずかしい……」

「だ、だってそんな恐ろしい事を平気で言うからじゃないか! もう、止めておくれよお。さっきの目玉食材事件と言い……君は人体を平気で弄ぶイメージをしてくれる!! そんなの聞きたくないよ! アリリちゃんはもしかしてサイコパスじゃないのか? この食人鬼! よし! じゃあこれからは〇〇だサイコって語尾を付けなさい!!」

「面倒くさいわ」

「やっぱりか……だけど、【なる】だけでも何を言ってるか位伝わるだろおお?」

「分かったわよ! でも、喋れないフンガーに客引きって……出来ると思ったの? ずっとオロオロしてたよ? その様子に情けで声を掛けたのがファーストコンタクトだったわ? どう考えても、人選ミスじゃ無い? それともフンガーとあなたしかこの家には居なかったって事なの?」

「ええと……他にも6人いたんだけど……みんな仕事中で、フフンケンだけが手が空いていたからね」

「7人も居て敢えてフンガーなの? 何故? あの子喋れないんだよ? どうやってお客さんを連れてくるのよ! その逞しい肉体で強引に拉致でもさせようって魂胆なの?」

「ち、違うよお。で、でも結果的に、君と言うお客さんは来てくれたよお」

「それはそうだけど……でもそれはその腕力でほぼ無理やり道具の傘として持って来られただけで、私は納得していなかったのよ? そう、フンガーの説得でここに来た訳じゃないのよ。だってあの時私はフガフガ言う人についていくよりも、ふかふかの布団で寝たかったんだし……その辺の所を分かってね?」

「ヒヒヒヒヒ」
どうした? 

「え? もしかしてふかふかとフガフガ?」

「ヒヒヒヒヒヒィヒィ苦ヒィ……」


「き、気持ち悪いよお……オエー」

「と、突然そんな面白い事言う方が悪いんだよお」(吐かないでおくれ……傷付くから……)

「ママにも同じ事言ったけどクスリともしなかったけどね」

「君のお母さんは心が無いんだよ。こんなに面白いのに!!」

「あるよ! 他の6人もフンガーみたいに喋れないの?」

「喋れないのはフフンケンだけだよ?」

「じゃあその6人の内の誰かに行かせれば良かったんじゃないのぉ? 仕事中断させて悪いけどって言ってさあ」

「なる! そう言われてみればそうだった。うっかりしていたなあ……でもね? この、私の一つ足りない所が、私の欠点でもあり、そして、魅力でもあるんだ」

「しっかりしてよ」(そっかあ……それでフンガーを……でも……その彼のうっかりのお陰で私、優勝出来たのかもしれない……フンガーと組んでいなかったら間違いなく予選敗退してた……)

「とりあえずここ数か月の支払いは何とかなるよ。ありがとう!」

「ちなみにお幾らなのお?」

「全部で30万位だね」

「へえー、維持するのも大変ねー。結構大きいお屋敷だもんね。ちなみに内訳は?」

「光熱費がほとんどで、後は香水とか?」

「香水ね。確かにいい香りがするけど、必要?」(家賃は掛かっていないのよね……持ち家なのね? すごいじゃん)

「おうよ! これだけは外せないよ」

「食費とかは大丈夫なの?」

「それは今回のお米で大分助かったし当分大丈夫だよ。まあそうでなくても食費は何とか大丈夫だったね」

「食費は良いんだ。で、どうやって今までやってこれたの? お客さん来ないんでしょ? 時を過ごすほど貯金が切り崩されていずれ無くなって行くんでしょ?」

「印税だよ」

「え? あの本とかの? 原作者にも何割かが入ってくるっていう?」

「そうそう。前は頗る好調だったんだが、最近は余りにネガティブな内容で、そういう話が好きな人には売れてはいたけど、少しずつ落ち込んでしまってね。
いっその事全く別の話も書こうかとも思っているけど、もうその意欲も枯れちゃったしなあ。でも」

「でも?」

「ううん? 何でもないよ」

「へえ……(どういう事だろう? 聞き出したいなあ。言わせたいなあ。吐かせたいなあ。よし、聞き出そう)教えなさい!!」
彼女は知的好奇心旺盛。

「ブル」

「こら! 怯えて誤魔化そうとしないで早く!」

「分かったよ……お客さんの君が来て、それが切っ掛けで何かアイディアが浮かぶかな? なんて思っただけだよ。ここ最近は全く平凡な日々が続いていたもんだからねえ」

「ホントにい?」

「おうよ!」

「今回は特別に信じてあげるわ。でも、この館を経営しつつ小説も書いているの? 頑張り屋さんねえ」

「今はもうほとんど……まあ今日も夕食後書斎へ行くには行くつもりだけどさ、必ず夜の10時位にはそこで座ってアイディアを捻っては見るんだ。でもいつの間にか終了って事がほとんどだよ……情けない……ほんと時間だけ掛かった割に、全くお金にならない最悪の仕事だよ。小説家って言う職業はさあ。私がこれで収入を得ているのは奇跡みたいなものだよ」
分かる分かるー

「分かる分かる! ところでお客さんが来ない原因は分かるの? 例えば市田さんの顔が気持ち悪いとかさ」

「NO!」(酷い事言うなあこの子……そんなに気持ち悪いかなあ?)


「へえ、そうなんだ。じゃあそのお化け屋敷の内容をちょっと見せて? 入場料は払うから」(ちょっと興味出てきちゃったw)

「な? いいけど雨にでも遭ったの? 酷く濡れているよ?」

「あ、そうだった。くしゅん……ブル……にわか雨が降ってきてね。フンガーが水に弱いって言ってたから、傘の代りになってあげてたからね。このスケッチブックも大分萎びちゃったわ」

「ま? フンガーって? 確か君が名付けたんだっけ? フフンケンの事だよね? そいつが水に弱いって言っていたのか? で、地面タイプなのかい? それとも岩タイプ? まさかの炎タイプかあ?」

「フンガーフフ!!」

「いえ? 実際はタイプは聞き出せなかった。残念だけど……でもね、言っていないけど、水に弱いの? って言う私の問いかけに頷いたんだ」

「なる! フフンケンは水に弱いんだ。初めて知ったなあ」

「いやいや、それは断定出来ないよ? そんな気がしただけで、もし間違ってたらごめんねって感じよ? で、私が傘となり、全身に雨を浴びて疲れちゃったわ……スケッチブックは雨を簡単に通すのよね……だってあれはそんな目的で生まれた物じゃないんだからね……でも急にこの屋敷の前に来たら止んだのよね……で、ここに来たのはフンガーが御馳走してくれるって言うから傘としてついてきたの……」

「分かったよ。フフンケンがアリリちゃんに弱点の水から守って頂いたお礼もあるし、このお米を使ってご馳走を作ってあげよう。それに2999円も要らないよ! 無料で良い」

「本当? 嬉しいいいいい♪」

「100万円とあれだけのお米も頂いた上で入場料まで取るなんてそんな厚かましい事出来ないよ」

「助かります♡え? なんか市田さんの物にしようとしてない? 100万円もお米もフンガーの物だよ?」

「な? 確かにそうだけど、フフンケンならこの屋敷の事をしっかり考えてくれている。だから何にお金を使うかしっかり分かってくれる筈だよ? フフンケン? 100万は預かっておいてもいいよね?」

「フガフフ」
ポン
フンガーは市田にお金を渡してしまう。屋敷に戻った時にも金は見せず、米だけをにしておけば良い物を……正直すぎるぞ……これも優しさ故なのか?

「あらあら……何か、親戚のおうちでお年玉貰った子供に、親が『預かっておきますねw』って言って、永久に返さないあの謎のシステムみたいで嫌ーねー。ねえ市田さん? あの現象って何て言うの? 知ってる? 知らないなら1分以内に調べて私に教えなさい!」

「いやいや調べても出てこないと思うよお……大丈夫だって、この家の為にしか使わないよ! それは約束する!」

「口約束だけじゃねえ……一応それ、私の物だったんだからね? それを見ず知らずのおっさんが勝手に使っていい物なのかは謎よ?」

「フガフフ」
おや? 何故か市田をかばうフンガー。

「え? 別にいいって言ってるの? 何でよ? 正気?」
半日とは言え、傍にいた事から、彼の意味不明の言葉も、表情と合わせる事で、何となくだが理解出来ているようだ。

「フーンガフフ!!」
彼の意志は固い様子だ。

「そう? そこまで言うなら……」

「そうだよ! 本人が言っているんだしいいじゃないか」

「でもさあ……くしゅん……」

「あ、ほら! 夏とは言え、このままでは風邪を引く。よし、一階に風呂場がある。
入ってもらってから夕食をご馳走しよう。その後、一通り見回って貰おうかな?」 

「そう? そうよね……なんかはぐらかされた感じで釈然としないなあ……くしゅん」
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