第14話 北海道旅行4 ホテルにて
文字数 1,465文字
車は滑らかに旭川近辺のホテルに辿りついた。
このホテルはさっきマツリがいったように、温泉とカニの食べ放題が有名だった。
大きな白い外観で、中に入るときらびやかなエントランスが旅行気分を盛り上げてくれる。私たちはそこで受付をして、部屋へと入った。
部屋はベッド二つが大きなスペースを取っている、六畳ほどの洋間だ。
窓からは市街が見え、サービスとしてノンカフェインのコーヒースティックが二本とチョコレートクッキーがついていた。
窓際にソファ二脚と小さなテーブルがついていて。
私たちはさっそくコーヒーを淹れた。
ノンカフェインというところが、気が利いている。
立ち上るコーヒーの芳香を楽しみながら、そのテーブルでチョコクッキーをかじった。
「ねえ、お姉ちゃん」
「なに?」
コーヒーを飲みながらマツリが私の目を見る。
「さっきのAI、あれ、これからもずっと持ってるの?」
「……なんで?」
「別に……ちょっと気になったから」
「リンネは雁太の試作AIだから……三か月で返す予定よ。いまで一か月すぎたから、あと正味二か月ってところかしら」
そう言葉にしてみると、妙に寂しくなった。
何故かこころが痛くなってくる。
これは……。
きっといままで一緒にいたのに、別れなければいけない寂しさだろう。
学生時代にだって感じていた。三月のクラス替え、卒業、そのたびに別れを経験してきた。
それと同じ。
きっと。
「そう、良かった」
マツリがほっとしたような声音で呟いた。
「なんで? どうしてそこで『良かった』なの?」
「お姉ちゃん、自分で気が付いて無いの? お姉ちゃんのリンネの見る表情、もう恋する女のものだよ」
私はかるく笑った。
「まさか」
コーヒーに口をつけながら、軽く返す。
そんなこと、あるわけない。
「あたしはお姉ちゃんがちょっと心配。それ、早く返した方がいいと思う」
そのとき、リンネのことを「それ」といったマツリにムカッとした。
彼はモノじゃない。
……じゃあ、なんなのだろう?
私は彼をどう思っているか。
答えは簡単よ。
ただのAI、恋人アプリのAIよ。
「一応人格のあるAIなんだから、彼のことを「それ」っていうのやめて?」
なるべく丁寧に私の気持ちを伝えた。
ここでマツリと喧嘩なんて、最悪だから。
「はああ~。お姉ちゃん、重症よ?」
マツリは目をむいて呆れた声をだす。
「心配ないわよ。それにレポートを書いて開発者の雁太に見せないといけないし、これはバイトでお金も貰ってるの。今更やめられないわ」
「あたしの忠告は聞けないと?」
「聞いてるわよ。でも恋しているなんてマツリの気のせいだから」
私はマツリを安心させるようにそう言いうと、トイレに行くと言って席をたった。
個室に入ると、ポケットに入れてあったリンネのハードを取り出す。
そして、アプリを開いた。
「どうした、タカラさん」
「うん、明日の朝、モーニングコールはしなくてもいいわ。マツリが色々と不安がっていて、心配しているから」
「モーニングコールをすることが、どうして不安に繋がるのか分からないが。タカラさんがそういうならわかった」
「ありがと。また旅行から帰ったら、お願いね」
「ああ」
そこまで話をすると、入ったという証拠として水を流してから個室をでる。
手を洗って時刻を確認すると夕食が迫っている。
「マツリ、カニ食べに行こう!」
「うん。行こう、お姉ちゃん。せっかく来たんだし、楽しまなくちゃね」
そうして、その日はもうアプリを開くことなく、カニを食べて温泉に入って就寝したのだった。
このホテルはさっきマツリがいったように、温泉とカニの食べ放題が有名だった。
大きな白い外観で、中に入るときらびやかなエントランスが旅行気分を盛り上げてくれる。私たちはそこで受付をして、部屋へと入った。
部屋はベッド二つが大きなスペースを取っている、六畳ほどの洋間だ。
窓からは市街が見え、サービスとしてノンカフェインのコーヒースティックが二本とチョコレートクッキーがついていた。
窓際にソファ二脚と小さなテーブルがついていて。
私たちはさっそくコーヒーを淹れた。
ノンカフェインというところが、気が利いている。
立ち上るコーヒーの芳香を楽しみながら、そのテーブルでチョコクッキーをかじった。
「ねえ、お姉ちゃん」
「なに?」
コーヒーを飲みながらマツリが私の目を見る。
「さっきのAI、あれ、これからもずっと持ってるの?」
「……なんで?」
「別に……ちょっと気になったから」
「リンネは雁太の試作AIだから……三か月で返す予定よ。いまで一か月すぎたから、あと正味二か月ってところかしら」
そう言葉にしてみると、妙に寂しくなった。
何故かこころが痛くなってくる。
これは……。
きっといままで一緒にいたのに、別れなければいけない寂しさだろう。
学生時代にだって感じていた。三月のクラス替え、卒業、そのたびに別れを経験してきた。
それと同じ。
きっと。
「そう、良かった」
マツリがほっとしたような声音で呟いた。
「なんで? どうしてそこで『良かった』なの?」
「お姉ちゃん、自分で気が付いて無いの? お姉ちゃんのリンネの見る表情、もう恋する女のものだよ」
私はかるく笑った。
「まさか」
コーヒーに口をつけながら、軽く返す。
そんなこと、あるわけない。
「あたしはお姉ちゃんがちょっと心配。それ、早く返した方がいいと思う」
そのとき、リンネのことを「それ」といったマツリにムカッとした。
彼はモノじゃない。
……じゃあ、なんなのだろう?
私は彼をどう思っているか。
答えは簡単よ。
ただのAI、恋人アプリのAIよ。
「一応人格のあるAIなんだから、彼のことを「それ」っていうのやめて?」
なるべく丁寧に私の気持ちを伝えた。
ここでマツリと喧嘩なんて、最悪だから。
「はああ~。お姉ちゃん、重症よ?」
マツリは目をむいて呆れた声をだす。
「心配ないわよ。それにレポートを書いて開発者の雁太に見せないといけないし、これはバイトでお金も貰ってるの。今更やめられないわ」
「あたしの忠告は聞けないと?」
「聞いてるわよ。でも恋しているなんてマツリの気のせいだから」
私はマツリを安心させるようにそう言いうと、トイレに行くと言って席をたった。
個室に入ると、ポケットに入れてあったリンネのハードを取り出す。
そして、アプリを開いた。
「どうした、タカラさん」
「うん、明日の朝、モーニングコールはしなくてもいいわ。マツリが色々と不安がっていて、心配しているから」
「モーニングコールをすることが、どうして不安に繋がるのか分からないが。タカラさんがそういうならわかった」
「ありがと。また旅行から帰ったら、お願いね」
「ああ」
そこまで話をすると、入ったという証拠として水を流してから個室をでる。
手を洗って時刻を確認すると夕食が迫っている。
「マツリ、カニ食べに行こう!」
「うん。行こう、お姉ちゃん。せっかく来たんだし、楽しまなくちゃね」
そうして、その日はもうアプリを開くことなく、カニを食べて温泉に入って就寝したのだった。
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