第24話 タカラのひみつ

文字数 1,550文字

 雁太はその日にAI開発の仕事を辞めた。

 人を狂わすAIを造ってしまった

 そう言うから、責任を取って、と私が言った。
 雁太は私のこころが回復するまで一緒にいると言ったけれど、私が望む責任の取り方はそうじゃない。

「責任を感じているのなら、私の前から消えて」

 リンネを消した相手の慈悲など欲しくない。
 顔もみたくなかった。


 その日から、雁太は研究室を去ってしまった。
 研究室には私一人になってしまい、アンドロイドを作るという計画も頓挫しそうになった。
 けれど、私は一人でもやらせてくれと頼み込んだ。

 人型アンドロイド――それはまだまだ未知の代物で、でも私には作る自信があった。

 足も顔も大体のひな型が今時点の技術である。
 でも、手だけはいまだに人間のようには再現できなかった。
 それも、私は最近の研究で見通しがついていた。

 雁太は中身(AI)のエキスパートだとしたら、私は外側(機械構造)のエキスパートだ。
 だから、中身さえあれば――



 一日の仕事が終わってアパートへと戻る。
 私は研究室でも一人、アパートでも一人になってしまった。

 自宅は今もリンネの贈ってくれた花でいっぱいだ。
 それも一週間もすればみんな枯れてしまうだろう。
 リンネの贈ってくれた花はみんな切り花の花束だったから。

 花の芳香に包まれながら、居間の壁際にある机について、目の前のものを見る。

「ふ、ふふふっ。ふふ」

 私は心の底から湧き上がる笑いをとめられなかった。

 

 そこには、2テラバイトという大容量のメモリーカードが二枚、透明なプラスチックのケースの中に入って、飾ってある。

 これは、リンネの(ブレイン)のコピーだ。



 雁太にリンネを壊されてしまった日の前日。
 夜中に大学へ行ったときのことだ。
 あの日、どうしてそんなことを思いついたのか、未だに私にもわからない。
 
 私はあの日の夜、何時間もかけて、リンネの中身(AI)を、仕事場の高性能コンピューターでメモリーカード二枚にコピーした。

 一番初めに雁太は言っていた。
 
 ――新しく覚えた知識を蓄積する場所も確保しないといけなかった

 そして、こうも言っていた。

 ――リンネのメモリーカードを見れば、すべてわかる
 

 蓄積したデータを、雁太は分析しなければいけなかった。リンネが恋人アプリとしてどういう働きをしたか、確かめるために。

 データを蓄積できて、すぐに取り出せる場所にしまう。それにはメモリーカードが簡単で、雁太自身がそう言っていた。

 だから、リンネのハードの中に、私達の思い出が刻まれたメモリーカードが入っているはず。

 あの日、リンネに断って電源を切り、少しハードを調べたら、メモリーカードはすぐに取り出せた。
 2テラバイトという大容量のメモリーカードだ。
 ここに私とリンネの思い出が詰まっている。
 
 そして、もう一枚は、ハードのシステムをコピーした。
 リンネという人格をもう一枚のメモリーカードへコピーしたのだ。

 私は外側(ハード)をつくる機械構造のエキスパートなのよ。
 中身(AI)があれば、外側(からだ)を作る自信がある。
 国からのアンドロイド計画は、都合が良かった。
 外側をつくっているうちは、中身がどんなものか、分からないから。
 起動しないと、どんなAIを使っているかなんてバレないから。

 だから、雁太が邪魔だったから辞めてもらったのよ。

 この、メモリーカードに詰まった(リンネ)の記憶を、製作するアンドロイドへ植え付けよう。
 


「まっていて、リンネ」

 私はメモリーカードが入っているプラスチックケースを、よくリンネのハードにしたように、指でなでて話しかけた。

「私が必ずあなたを蘇らせてあげる」

 この部屋でまた料理を作って、一緒にたべて。 
 そして、二人でまた旅行に行きましょう。
 
 かならず私があなたの身体を造ってあげるから――
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