第4話 初期設定

文字数 1,606文字

 私は雁太に言われるまま、画面の『LOVERS』というアプリを起動した。
 すると、初期設定を行います、という男性の声で設定画面が表示される。

「雁太、どうやるの?」

「ここはタカラの誕生日や恋人の容姿の好みを入れていくんだ。一緒にやろう」

 名前、血液型、その他もろもろの個人アンケート(起床時間とか就寝時間など)を入力すると、容姿の選択という場面になった。
 
「髪の色は何色がいい?」
「……この国の一般的な色って言ったら黒じゃないの?」
「そうでもないよ。ちょっと茶色がかってるとか、緑に染めてるとか、色々あるでしょ」

 緑色に染めている人は少ないと思うけど。

「……じゃあ、茶色がかった黒で」

「髪型は?」
「清潔な短髪……うーん、ちょっとウェーブがかってるのがいいかな」

「顔の印象。美形? 精悍? 貧弱? それともめちゃ個性的?」
「……美形がいい」

 どうせハード内のCGの容姿設定なんだから、目の保養にいいものを選ぼう。

「体形。モデル体型、細身、中肉中背、頑健」
「モデル体型」

「肌の色は」
「日焼けしてなくて、健康的な色」

「目の色は?」
「茶色」

「声のパターン」

 A、B,C,とあったので、Aパターンにする。なめらかで優しそうな声だ。

「次、性格設定、温厚、激情、従順」
「温厚」

「一人称設定、俺、僕、ワシ」
「『俺』がいい」

 次々に決まっていく、私の好み。
 そして出来上がって来る私好みの恋人の設定。

「よし、設定終了」

 雁太の言葉と共にヴィン、とハードが唸った。
 キラキラした星が画面に出てきて、そこに今設定したとおりの男性CGが現れた。

 少し癖のある茶色がかった黒髪。
 温厚そうな琥珀色のまなざし。
 鼻筋が通っていて、形のいい眉と唇。

 それは、口を動かして、私の目を見て言葉を発した。

「はじめまして、タカラさん。俺は片桐 輪廻(リンネ)。恋愛アプリLOVERSの貴女だけの恋人だ」

 電子音声ではない、本当の人のような声だった。
 しかもさっき設定した私好みのイケてるボイスだ。
 容姿も設定した通りで、目鼻立ちの整ったモデルのような美形の男がハードの画面から私だけを見ていた。

 それに驚いていると、雁太が私の肘をつつく。

「ほら、タカラも自己紹介しなよ」
「はあ?」

 呆れて返事をするけれど、それを聞いていたAIのリンネがハードの中でニコリと笑った。

「俺も知りたい」

 こ、これが恋愛に特化したAIか……。

「で、でも何を言えばいいのか分からないよ。自己紹介なんて」

 私はリンネに聞いてみる。

「名前はさっき入力していたから覚えてる。誕生日を教えてくれないか?」
「誕生日? どうして?」
「俺がその日にあなたをお祝いしたいから」
 
 誕生日のお祝い……なんてここ何年も、だれにも祝われたことなんてなかった。

 雁太がニヤついて肘をつつく。
 急かされて、その拍子にリンネに向かって誕生日を教えていた。

「五月二〇日」
「五月二〇日だな。分かった、ずっと覚えてる」
 
 またにこりと笑顔。

「タカラさん、これからよろしく」

 ハード中のCGがが、手の平を画面にあてた。
 
「俺はずっと貴女の傍にいる。いつでも必要なときに呼んでくれ」

 雁太の方を向くと、満面の笑みで私を見ていた。

「どう、すごいでしょ。三か月間、遊んでみて」
「遊ぶって……。取り敢えず、どうやって電源切るの?」
「スマホみたいにアプリを終了して、スリープ状態にしておけばいい。充電は忘れるなよ」

 雁太はそう言うと、私の手に充電器を握らせる。
 
「充電は普通のスマホみたいにコードでも充電台に置くだけでも、両方できるから」
「わかった」
「レポート楽しみにしてる。分からないことはリンネに聞いて。じゃ、俺は他に用事があるからこれでな」

 そう言うと雁太は部屋から出て行ってしまう。
 リンネに聞けって言われても!
 無責任な!

「取り敢えず……よろしく……」
「よろしく。タカラさん」

 手の中のAIは、嬉しそうな顔で私に笑いかけた。
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