第3話 恋愛アプリ 『LOVERS』

文字数 1,174文字

 食事が終わって研究室へもどると、雁太は一台のスマートフォンを私に見せた。

「これが、恋愛アプリ『LOVERS』の入ってるハードだ。スマホの機能がベースだ」

 そう言って私にそれを手渡す。

「充電済みだから起動してみて」

 そう言われて、下中央にある起動ボタンを押す。
 すると、ピンクの壁紙の中央に『LOVERS』と書かれたアプリが一つと、下にカメラとメールとネットと電話のアプリの表示が現れた。

「普通のスマホにアプリを入れたの?」

 私が聞くと、雁太はちょっと違う、と嬉々としてこのアプリのことを説明してくれた。

「このスマホはこのアプリだけの為のハードだ。だから余計なアプリは入ってないし、入れられなかった。容量の問題でね。人工知能はたくさんのメモリを使うし、新しく覚えた知識を蓄積する場所も確保しないといけなかった。だから余計なアプリは入ってない。しいて言えば動画と音楽の再生アプリくらいは入っているかな」

「へえ……」

 私は物珍しく、そのスマホもどきを眺める。

「電話やメールやネットは使えるんだ?」
「それはこのアプリの基本機能に必要だから入っているんだ。もちろん、普通にネットはできるし、電話もメールもできる。でも、それをこのハードでやる相手は、きっと一人だろうね」
「どうして?」
「この中に、君のこれからの恋人がいるからさ」

 雁太は嬉しそうにハードを指でたたいた。

 恋人……ね。
 雁太も面倒くさいものを考えたものだわ。
 携帯彼氏なんて、よく思いついたと思う。

「さっき、人工知能が新しく覚えた知識がどうのって言ってたけど……それってどういうこと?」

 すると雁太は「よくぞ聞いてくれました」という顔で、また私に説明した。

「それは、AIがタカラとの会話で学習して、『記憶』として知識を保存していくんだ。恋愛に思い出は必須。二人だけの思い出を作れるってわけさ。カメラ機能もあるから思い出の場所だって記録できる。会話も記憶する」
「へえ……」

 なんだかすごいアプリらしい。

「もう一つ聞いていい?」
「ああ、なんでも」

 ちょっと気になったことを私は雁太に聞いた。
 これは見過ごせないことなのだ。

「どうして恋愛AIを男性型にしたの? 女性型にすれば雁太が自分で試せたじゃない」
「それはなあ……俺が男だからだよ。恋愛における女性の思考パターンなんてさっぱり分からんからな。あ、もちろん男性型もたくさんの男の行動データからの思考パターンだから、俺の思考パターンってわけじゃない」

 そう言って雁太は笑った。

 私も苦笑する。

 実際、雁太モデルのAIだったら、アプリの被験者になるバイトは考え直そうと思ったから。
 だって、そうなら雁太と付き合ってるってことじゃない。
 雁太は良いヤツだけど、恋人として付き合いたいわけじゃない。

 「よし、じゃあ質問はもういい? アプリを起動しようか」
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