最終話 エピローグ

文字数 1,015文字

 あれから十年の月日が流れた。
 私も歳を取って、それでも四十路まえにリンネを完成させることができて、嬉しかった。
 歳をとった私をみて、リンネはどう思うかしら。
 どんなに精巧につくってもやっぱりAIだから、人間の男みたいに若い子が好きという感情はないと思うけれど。

 研究室で身体を持ったリンネの目が開く。
 琥珀色の瞳の底が、青く光って、私を見る。

 今度のリンネのハードは硬い金属の、人間の形をした身体(ボディ)だ。
 人工皮膚を張り付けた、人間のような。

 我ながら良く出来たと思う。

 人間のように滑らかな動きを再現し、表情、声の調子まで人間のように調整した。
  


 これで良かったのか、と疑問に思うこともあった。

 私はこの十年、恋人も作らずにリンネの身体をつくることに邁進した。

 雁太を遠ざけて、リンネだけを追って。
 
 あの、夢のような三か月間は、本当に夢であって、たとえリンネがよみがえってもあの日々のようにはならないんじゃないか。

 そう思った。

 ――でも

 彼の声を聞いたとたんに、私の十年間の夢は叶った。

「あなたは自分のことが分かる?」
「俺は片瀬 輪廻」
「私のことは分かる?」
「……ああ、分かる。藤堂 宝。俺の大事なタカラもの」

 それを聞いたとき、私の記憶は十年前のあの日々に逆戻りしていった。
 とめどなく涙が頬を伝う

「泣かないで。俺がいる」

 彼と触れるだけのキスをすると、胸がいっぱいになった。

「あなたは生まれ変わったのよ。リンネ。人間のように身体を持ったの」
「これが俺の身体……」

 彼は自分の身体を見て、ふと昔のように微笑んだ。

「身体があるなら、タカラさんを抱きしめられる」

 私の背に手をまわしてぎゅっと抱きしめてくれた。

「タカラさんは俺の宝。俺は、どこにどういう風に生まれ変わっても、タカラさんが好きだよ」
「……私も好きよ」

 
 アンドロイドとして蘇った彼には、このアンドロイド製作のスポンサーである国が仕事を用意してくれる。
 第一号のアンドロイドだから、色々と実験をさせられる。
 
 そんな中でも、開発者の私がいなければ、リンネが壊れたときに直すことができない。
 
 私は永久的に彼のメンテナンスをするドクターとして彼の傍にいられる。
 しあわせだ。

 そう、ずっと一緒にいられるの。

 ずっと、ね。


 END


 
 ――あなたはリンネが機械のAIだと思いますか?
  それとも、人の魂をもった存在だと思いますか?



「そんなことはどうでもいいわ」


 

 

 
 了
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