袋小路の先には木洩れ日が続いていること~⑦

文字数 1,221文字

 中へ招かれた我々を、カジ谷君が迎え入れた。
 西川

と吉田君――今は副代表だ、それに、木島元副代表まで、総員勢ぞろいであった。部屋の中央に、四畳半には大きすぎる座卓があり、この人数が入ると部屋は満員状態である。壁に作りつけられた小さな棚には「器」の火焔式土器と「埴輪」の馬のジオラマがディスプレイされていた。そして、あの鏡もある。部屋の奥の角には、はしごのような簡易な階段が取り付けられており、天井に開けられた半畳分の穴から二階へ通じているらしい。あの朝の騒音はこれだったのか。
「荷物が多すぎて」と言って、苦笑いの西川元代表である。当初、二階も居住空間にしようと目論んでの工作だったそうだが、今は完全に物置状態になっているとのことである。
「無笑会は方針を変えましてな。『面白くないやつ』という会員条項は、抹消したのですよ」
 西川元代表が言うところによると、会員はスカウト制に加えて広く一般公募も行い、秘密裏の活動も改める、とのことなのである。
「そこでどうですかな、真堂さん――はもうすでにあれですが、そこのお方、あなたは全身から笑いのオーラを発散しているように見受けられるが」
 僕が「遠慮します」と言い出す前に、桑原は「面白そうだ。やぶさかではないぞ」と、乗り気である。どうやら僕の方はもう、勝手に「会の関係者」の位置付けらしいのである。奈緒さんが笑いをこらえている。誰が暗躍したのか、首根っこを捕まえて問い正したい気分であった。
 それから――
 カジ谷君が「ギターを教えてください」と、僕の部屋に来るのはいい。しかし、会の用事がある度に、奈緒さんまで僕の部屋を覗いて行くのはどうなのであろう。いや、一度は桑原の魔窟にまでも踏み込もうとしたが、玄関から先は一歩上がっただけで、それ以上は物理的に無理だったらしい。それでも桑原はその夜「女子が俺の部屋に上陸した。あり得ない。記念すべき日だ!」と言って、盛大に酔っ払ったのであった。
 今日も、当然のように上がり込んで座卓に座っている奈緒さんに、秘蔵の「白い恋人」とコーヒーを振舞いつつ「仮にも、男の一人暮らしの部屋に!」と、恐い顔をすると「だって、声筒抜けですよ、ここ。あ、コーヒー美味しいです!」と意に介していない様子なのが困りものだ。更には「なんか落ち着きますね。真堂さんも、この部屋も磁場がいい感じです」と言ってすっかり根が生えそうな気配に、慌てて追い出したばかりだった。磁場って、アンドロイドか何かなのか? 
 こうした事態もあって、西川元代表の「わかさいも」は、なんとなくまだ口をつける気にならないのであった。この調子では何かそのうちに、不可抗力も含めて、とんでもない弱みでも握られかねない――と言うのも、ちょっと不安なのが、奈緒さんは深川先輩ともずいぶん仲良くなっているらしいのである。
 紗枝さんの言った通り、まだ終わっていない、というか始まっている。
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