袋小路の先には木洩れ日が続いていること~⑨

文字数 761文字

 MoonBeamsの開店時間にはまだ早い。
 ギターショップでの用事が早く済んで、久しぶりに回り道をした。何となく気になっていた、あの木洩れ日の袋小路である。夢の中では現れなかった曲がり角は、当たり前だがちゃんとあって、当然ながら深い谷もなく、そこは小さな小川である。そして、夢の中の行き止まりの壁の扉は開いたが――なんと、この日は本物の扉も開いていて、中の様子が見えたのである。中は想像した通り、庭があって、趣のある和風の庭園のようだった。そして、庭にもその先にまでも、午後の木洩れ日が続いているのである。
 僕はしばらく、黙ってその景色を見ていた。月の光も神秘的だけれど、陽の光は何だか穏やかに背中を後押ししてくれるような感じがした。
 今夜は、お礼と称して初めて深川先輩を誘った。コンサートの鑑賞である。ここ何年か、目立った活動がほとんど聞こえてこなかった「木洩れ日」が、久しぶりにコンサート・ツアーを再開したのであった。その待ち合わせ場所はもちろん、MoonBeamsである。
「感謝の気持ち、って、なんだか危ない企みとかあったりする?」と深川先輩は開口一番、そう言って僕の目を覗き込もうとする。
「いいえ! そんなの、全然ないですよ!」
「お、何だか知らないけど、めでたい話かい?」と言って、マスターもこちらに寄って来た。
「違いますよぉ」と、僕は否定する。マスターは機嫌がいい。
「せっかくなんで、このギター弾いてみて下さい」
 楽器屋でメンテナンスをしてもらったこのギター。今夜はここで預かってもらうのである。これはマスターの仲介ではあるのだが、実はマスター自身が弾いているのを見たことがない、ということに気が付いたのだ。このギターは魔女だとか言っていたが、はたしてマスターはどんな音を奏でるのだろうか。
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