袋小路の先には木洩れ日が続いていること~④

文字数 457文字

 そして、夏――
 いくつかの新しいことがあった。
 市街中心部の時計台二階のホールで、フォークソング同好会主催の定期ライブが開催された。秋の学園祭の、十組だけが上がれるメインステージへ向けて夏休み前の実力確認の場、という位置付けである。新しいユニットのお披露目も多数あった。
 そんな中、なんとカジ谷君がフォークソング同好会に入って、いきなり弾き語りデビューを飾ったのである。プログラムを見ると「梶谷トオル」と名乗っていた。
「カジ谷君の『カジ』って、芸名だったんだ」
 全く疑いなく本名だと思っていた自分に驚きである。奈緒さんのマル秘情報によると、密かに役者志望なんだとか。なるほど。今までの出来事に色々と納得した次第である。その梶谷トオル君、ギターはかじった程度の腕だが、例の電車アナウンスではなく、落ち着いた素の声で渋くブルースを歌う。しかもなかなか上手い。あなどれない。無笑会は続けているらしいが、こちらは人前での度胸をつけるため、と入会の動機を語っていたのだが、実のところの目的は――むむむ、である。
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