部屋の真ん中に寝転がって、悶々としていたこと~③

文字数 1,083文字

「それにしても、相変わらず女っ気がない部屋だなあ」と、桑原がしみじみと言い放つ。
「お前が、それを言うか!」
「俺は、そのうち特許を取って金持ちになる。その時までは、まあ修行期間だな」
 もっともらしいことを言うが、つまり女っ気は、ないのである。
「だいたい、工学部は、絶対生息数が少ないからな。日常風景が男砂漠だ」
「こっちは1/3は女子だけど――聞くともなく聞こえてくる話題は、コンパとかドライブとか、イベントとか。完全に別世界だよ。そういう伝手のある一部の男連中は、しっかり学生生活を謳歌しているようだが、それだけが目的のような様子が、見ていてどうにも気恥ずかしくてなあ。向こうからすると、こっちは眼中にない感じだけどね」
「俺からすると、日常の視界に女子が存在するだけで、何だかうらやましい気がするぞ」
「とは言っても、金がない所にあの女子達は寄ってこないぞ? 容姿に特別な優位性でもない限りはな」
 普段の学内の風景を見るにつけ、世間はそういう厳然たる見えない法則に従って動いているものなのだと思ってしまう。それを誰もが理解しているのだが、僕ら一部の者だけがわかっていないのである。
「むむ、外観も実態も貧者の我々に、その正論を覆す術を与えたまえ!」と、桑原は大げさに両手を広げて言う。
「とはいえ、ふと現実に帰ると、だいたい、今の俺らのどこに昨今の一般的同年代女子達の興味を引くような要素があるというのか。彼女らが喜びそうな物事を何一つ提供できない貧乏学生に、興味を持つ者は残念ながらおらん」と言って、桑原が今度はうなだれる。
「確かに。一般的にはいないだろうな。でも、女子の中にも色々な種族がいるだろう? 中には、我々と相性の良い特別な種族がどこかにいるかもしれないのだぞ」
「居たとしても、互いに出会えなければ、居ないのと一緒だろうが! ああ、俺の心の扉は常に、開いているのに――世の中の女子達には気付いてもらえないのか」
「でも、『女子』はちゃんと、開いた扉から入ってきたじゃないか。野良猫だが」
 桑原の部屋がジャングルだった夏の頃、何が気に入ったか、開いていた扉からいつの間にか白い猫が入り込んで、住み着いたのである。僕らは室内を我が物顔に闊歩する姿から、ジャングル大帝の「レオ」と呼んでいた。実は雌だったので後に「レオ子」と改名したのであるが。部屋が本の魔窟と化した後も居心地の良さは変わらなかったようで、本の山の上を、ちょうどよい運動場のようにすいすい歩き回っていた。桑原もエサなどをやって、情が移ってきたある日、ちょっとした事件が起きた。
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