廃屋の集会に参加したこと~②

文字数 1,074文字

 座卓を囲んでいるのは四人だった。
 正面の、体格のがっしりした、大きな黒縁眼鏡の四角い顔の男が名乗った。
「ようこそ。私が当お笑い研究サークル『無笑者(ぶしょうもの)の会』、略して『無笑会(ぶしょうかい)』代表の西川です」
 右隣には、副代表の木島と名乗る骨ばった顔の男。こちらは銀縁の眼鏡である。
「あとは全員、今年の新入りの一年生で」
 三人目の、線の細い男はボソボソとつぶやいた。辛うじて「吉田」と聞こえた。そして左手側の四人目は、この場に居るとは思わなかった、女子のメンバーだった。
「こちら記録係兼庶務会計担当の――」
 西川代表にうながされると、事務的に「奈緒です」と名乗った。髪をアップにして、こちらも今時珍しい、分厚いレンズの眼鏡姿である。
 そして、僕の後ろから「カジ谷です。お騒がせしています」と声がした。
 総勢五人。無笑会メンバーの勢ぞろいであった。
「カジ谷の実証実験にお付き合い頂き、感謝します」と言って、西川代表が右手を差し出す。
 いえ、それは運悪く巻き込まれただけと言うか――。
「その際に、大変適切なご指摘とアドバイスを頂いたと聞いています」と言う西川代表。ずいぶんと持ち上げられている。緊張するというか、空気感がわからずとても居心地が悪い。
「今日は客人、ゲストとして我々の討論を聞いていただき、気になった点などあったら随時質問、意見などお願いしたい。まあ、まずはごゆるりとおくつろぎ下さい」
 うながされて、そのまま座卓の入口側に座ったが、くつろぎとは程遠い雰囲気なのは確かだった。三方からの伏せがちな視線にもいたたまれず、多種多様な本が雑多に詰め込まれてる本棚に視線を泳がせていると、西川代表の咳払いが聞こえた。
 まず、真っ先に確認したいことがあった。ちょっと調べたところでは、大学には、お笑い研究系のサークル自体は三つばかりあるのだが、この無笑会は、信頼のおける筋の、非公認も含めたサークル一覧の名簿にも載っていないのだ。もう、鼻から存在自体が怪しいのである。おまけに、場所がこのお化け屋敷である。何の秘密結社ですか、と言いかけた言葉を飲み込んでと聞いてみた。「申し訳ないけれど、ここは全く知らなかったです。公認じゃないですよね。いったいどんな活動を?」
 西川代表の弁によると、この無笑会は歴史と権威があって――何と、ウチのサークルより歴史が長いのであった。
「あまり世間から注目されない種類の属性を持つ人間がいて、ですね――」と、西川代表は僕の質問に対して、ゆっくりとした口調で語り始めた。
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