存在してはいけない封印のページのこと~④

文字数 1,164文字

「何故、兄は秘密裏に実験を行おうとしているのか、実はそこが最大の疑問なんです」
 僕が気になっていたのも、まさにそのことだった。会としての公式な活動なら、木島副代表の留守を狙い、奈緒さんや吉田君にまで詳細を内緒で実験を強行する道理がないのである。
 ただ、まだ実演の準備は整っていないし、決行日もどうやら明確にきまっていない、という。幸いなことに、西川代表は昨日まで風邪をひいて授業も欠席していたのである。
「面白そうな騒動に巻き込まれてるんじゃない? 紗枝さんの予言通りかい?」
 コーヒーを運んできたマスターがのんきに笑う。奈緒さんの前にはレアチーズケーキの皿も置かれた。
「面白いわけじゃないし、一応真剣なんですけど」
「それは失礼」
 何だか楽しそうなマスターである。
「若い子達が真剣に何かをやっている姿を見るのは楽しくてね。つい笑ってしまったよ」
「マスターも人が悪いですね」と、冗談っぽく奈緒さんが言った。
 僕は、はた、と閃いた。思わず、マスターを見上げる。
「――マスター、今なんと?」
「え? 何か気を悪くしたかい」
「いえ、そうではなくて――」
 ちょっと、これはわかったかもしれない。奈緒さんに向き直る。
「もしかしたら、真相はもうちょっと違うところにあるのかもしれないよ」
「?」
「奈緒さんの思っている、西川代表への疑問も解けるかもしれない」
 実はあの極秘資料の書には、初代メンバーの手によると思われる「存在してはいけないことになっている」という但し書きが記された封印のページがあった。それを、おそらく最近になって一度開けて、再び戻したらしい痕跡があったのだ。封印を解いたのは西川代表だろう。もちろん中を見ることは出来なかったが、そこに記されていることこそが、今回の騒動に関係しているとは思っていたのだ。でも、わかったかもしれない。その内容とは――
「それには、やっぱり、現場を押さえないと」と、思わず独り言が漏れた。そして、奈緒さんに向かって言う。
「奈緒さん、君の公儀隠密としての力で、ちょっと調べてほしいんだけど」
「え、と、隠密、じゃないんですけど、はい。やります」
 いつどこで、決行するつもりなのか。これさえわかれば何とかなるかもしれない。僅かに光明が見えた気がする。ここまできたら、最後まで力を尽くしたい。
 奈緒さんは即座に、西川代表とカジ谷君の授業時間、バイト予定などを洗い出す。その手帳には、いったいどんな情報が書き込まれているんだろう?
「ううん。だめかな――」
 奈緒さんはしかめっ面である。木島さん帰国予定日までの間で決行日を予測してみた。何日か候補は絞れたけれど、かなり時間帯の幅があるし、場所も前回から変えて来るだろう。確実に現場を押さえるのは難しそうなのであった。
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