廃屋の集会に参加したこと~⑧

文字数 1,060文字

「では、予想もしない出来事が起きると面白い、という仮説は本当なのか、その実証実験結果の考証を行います」と西川代表が告げた。
「予想ができなければ、何が何でも無条件に面白いのか、それとも何か条件があるのか、そのあたりを見極められたら、と思います」
 カジ谷君が数枚のコピー用紙を座卓の上に置く。手書きのレポートをコピーしたものらしい。各自に資料が行き渡ると、カジ谷君が説明を始めた。
 日時、場所、事前準備、小道具――項目タイトルが読み上げられていく。
 演出は、細部まで西川代表が考えたもののようである。あの服装も真面目に考えたんだ。ケムール人のお面は手作り、とあった。誰の趣味なんだろうか。
 続いて、あの夜の遭遇場面である。カジ谷君によると、当初、公園側から近付いて来た女性達をターゲットにしようと身構えていた所、後ろからの人の接近に気付き、「最初に出会った者に対して、実験動作を行う」という条件に従って急遽ターゲットを変更したのだ、という。女性限定で狙っていたわけではなかったのか。
 その先は、僕があの夜体験したことが、カジ谷君目線で詳細にレポートされていた。そこまできっちり決められた手順だったのかと感心するほど、事前の準備がされていたことが伺える。至って真剣にレポートを読み上げるカジ谷君に、他のメンバーも真剣に聞き入っている。
 カジ谷君の最終結論は、決めのセリフの後で予想に反して怒鳴られてしまった旨に触れて、「笑ってもらうという目的に関する限り、結果は失敗と言わざるを得ない」と結ばれていた。
 続けて、検証が始まった。何が悪かったのか――
 木島副代表の「現実と概念の不一致を起こさせるのに、ギャップの大きさが足りない。つまり、リアリティが足りなかったのではないか」の問いに、カジ谷君は「僕の、演技力というか、その、自信を持って役になり切れなかったところはあります」と答える。
 いや、実際あの役になり切るのは、相当の勇気とふんぎりが要ると思うのだけれど。
 吉田君と奈緒さんは黙っている。
「あれは、面白いというより、最初は怖かった。最後まで訳が分からず理不尽な思いだった。それがあの叫びになったのかと。ギャップがあれば何でも面白い、という方向に行くかは疑問ですね――」と、僕は被験者としての感想を述べた。
 冷静に分析している自分を、更に冷ややかに見つめる自分を感じる――僕は何をやってるんだろう?
 うーむ、と木島副代表は考え込んでいる。
 そして、次に僕が言った言葉には思わぬ反応があった。
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