袋小路の先には木洩れ日が続いていること~⑤

文字数 1,189文字

 今回「Re:Person」の出番は無しだった。深川先輩に「ある計画」を話したら、今回はそっちに専念して、と言われたのだ。そのかわり上手く行ったら「Re:Person」で倍返しね、という条件が付いたのであるが。
 その計画とは、僕のソロでの弾き語り再挑戦。ほぼ一年ぶりである。確かに、多少声が変わった。それで、いくつかの面で急速な上達もあった。現実的な実力としては、本格的にボイストレーニングを始めて半年程度のレベルと言える。でも違和感は急速に消滅しつつあった。何より、今までとは違って自分の音色が見つかりそうな気がしていたのである。
 ただ、本番は緊張した。久しぶりの一人ステージということ以上に、深川先輩が最前列で観ているということに。「緊張も含めて、本番」と、逆に深川先輩だけに届けるつもりで、最善は尽くせたと思う。歌も練習の時の七割くらいの実力は出せたはず。本番でこれくらいは、上出来の部類である。結果は自分としても大いに満足であった。
 その深川先輩は「すごく、安心して聴けたわ。あ、褒めてるのよ」と、真っ先にねぎらってくれた。これは、素直に嬉しいのである。
「素敵な歌でしたよ! ファンになりました」
 奈緒さんである。ギターを片付けて観客席に向かう僕の手を、ためらいなく取って来る。すると、何だか前方から妙に視線を感じるのである。ここではアイドルという「変装」をしているようだからちょっとは自覚して行動しないと――でも、これも素直に受け取っておこう。
 奈緒さんの方は、更にサポート要請の頻度が増えて、もうほとんどレギュラーだった。
「真堂さーん!」
 自らのステージの異様な熱狂がまだ冷めない中、僕を見つけて駆け寄って来る。その衣装、やはり別人だ。
「どうでした? 今日の私達の出来は?」
「いや、もう、完全無欠にアイドルだよね」
 僕に対する外野の視線が一段と気になる。「出待ち」の連中を無視して、僕の所にやってきてくれた奈緒さんなのであった。
 白状すると、奈緒さんとは最近も、二人きりで会った。やましいことではない。ドッキリ再実験の夜、三人でもつれて転倒した際に僕の「正装」に穴が開いてしまったことを気にして、奈緒さんが新しい服の見立て役を買って出てくれたのだ。
 服を買うだけでなく、昼食を一緒に食べて、奈緒さんの買い物にも付き合って、気が付くと、ほぼ丸一日を一緒に過ごしたのである。これはデート? 「違います。謝罪とお礼です」と、いたずらっぽく笑う奈緒さんなのである。謝罪って、西川代表と同じようなことを言う。む、だいいち、こんなところを見られたら、それこそ毒入りの高級菓子でも届きかねないぞ。いや、無笑会とはもう関係ないんだった。
「いえ、真堂さんも会の関係者になりますから」と、奈緒さんは気になることを言う。それはない、と即座に否定したのだが――
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