第18話 恐れミオ

文字数 812文字

失うことを恐れていては何も出来ない。
何かを得た時点で何かを失っている。
得たものはいつか失うだろう。失ったものは形を変えて自身のもとに戻って来る時があるかもしれない。

もっとも、自分が何かを欲しいものを得られているのかどうか、それはまったくもってわからない、彼は想った。ただの希望であるかもしれない。想いこみの可能性も大だ。

だが、それが自身を生かし、生の原動力だと感じている。心が亡くなると忙しくなり、心が生き生きとしていると性になる。恋愛はセクシュアリティ=性が源である。

恐れから眼を背け忌避しているとそれはますます大きくなり、恐れをよく見つめるとそれは小さく感じるだろう、と言われる。

別れに至らぬ出会いがないように、出会いと別れは常にセットだ。失うことを恐れるあまり、最初から得ることを断念する、のは生きていると言えるだろうか、そんな楽しくない生など、御免だ。

喜びは悲しみが大きかった程、いや増し、普通でない苦難を乗り越えて得たものはこれ以上ない価値あるものとなるだろう。

一時期、彼女を渇望するあまりおかしくなったと自分でも感じていたが、時の経過は心を凪へと誘った。恋とは熱病である、と言われるが、「恋は人をチンパンジーなみにする」という。
だとすれば、恋をして愚かにならぬ者、なれない者は、恋をしていない、とも言えそうだ。

彼女を通して彼は結局、自身を見つめている。彼女に向けた視線・想いは彼の自分が何者であるかを語っている。

幸せを得ようとする刹那、人は「恐れ」を抱く。つまり、恐れを抱いた時、眼前に「幸福」が微笑んでいる、ことが多いだろう。

究極的には、彼女と幸せになることに執着せずとも、自分はどのような形でも幸せでいられる、このようになれることが壊しようのない「幸福」だろう。

どんな状況・未来が現在・今になろうとも、
「自分にとって最善の事だけが起きている」
こう信じ・想える自分になることが、幸せな人生へのパスポートだ。
  





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彼女

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