第00話(6)

文字数 834文字

 リーフェ歴二〇四九年五月十六日。
 ノールオリゾン国に滅ぼされたシュヴァルツ王国の王、姫の処刑が執り行われる。
 檻の中に入れられた仮初めの姫――セレナはそっと天井を見た。
 この檻の中はどうして無表情なのだろう。
 今の自分も恐らく、無表情なのだろう。
 仮初めの姫、エレンの替わりとして、自分は壊される。
 そんなことをすれば、本物の姫はただでさえ身を危ぶむというのに――何故、元帥はこのような指示をしたのだろう。
 コツン、コツンと、床を掠める音が聞こえる。恐らく、兵であろう。再び波乱の時は迫っている。
「セレナァ、こっち来い。命令だァ」
「セレナ……? 貴方、誰?」
 セレナはそっと男を見据えた。すると男は兜を外し、セレナに手をさしのべる。
「ニコラ……?」
 ガチャリと鍵が外される。ニコラはニヤリと微笑を浮かべ、告げる。
「お前を助けに来た。お前を仮初めの姫になんかにはさせねェ。親の俺が言うんだァ。ほら、来い!」
 ニコラはセレナの手を握り、引っ張る。セレナは自ら、檻の外へ出ている感覚に触れる。
 ああ、私は自由なんだ。これを、臨んでいた。
 鉄の塊だからとて諦めていた自由を手に入れれる。
「アレック、わりぃ、時間かかってしまったぜェ」
「遅い遅い、見張りの兵どんだけ倒したって思ってるの?」
 外で青い長髪の男が剣を鞘に入れ、自慢げに笑って見せていた。
「私、自由?」
「そうだよ、セレナちゃん。君は自由だ――誰にも、君の自由を奪わせはしない」
「自由、嬉しい……」
 セレナには他の機械人形とは違った所がある。
 それは心だ。彼女には感情や思いがある。
 それを施したのは技師・ニコラであり、そう考えたのはアレックだ。
「さあ、逃げるよ」
 そう言い、セレナ達は王国を飛び出した。
 この出来事がやがて、波乱を、大きな波乱を生むだろう。




 世界は謳うだろう。呟くだろう。
 一人の少女と仮初めの少女が、やがて運命を交錯し始めると――
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登場人物紹介

エレン・ディル(16)

シュヴァルツ王国第二皇女の少女。

性格はほのぼの穏やかだが、王女としてのプライドはある。

フェイを心の底から信頼している。

亡国となったシュヴァルツ王国を再建する為に、奮闘する。

フェイ・ローレンス(17)

エレン姫に仕える護衛騎士。

クールで一匹狼だが、面倒見が良い。

エレンの事が好き。

エレンの夢の為に、フェイもまた奔走する。

セレナ・エーデル

ニコラが作った機械人形。

通称・仮初めの姫。

たどたどしく喋るのが印象的。

アレックとニコラを親のように感じている。

アレック・リトナー(20)

おちゃらけている謎の剣士。

セレナとニコラを連れて、旅をしている。

昔はセレナ姫の護衛騎士だった。

セレナ姫と瓜二つのセレナに特別な感情を抱いている。

ニコラ・オルセン(19)

腕の立つ技師。

部乱暴なしゃべり方で心は熱い。

アレックとはなんやかんやで仲が良い。

機械人形・セレナの親的存在。

香月七瀬(16)

ツツジの集落に住んでいた香月家の少女。

今は家出して、ダニエルの元にいる。

明るく元気な性格。

ダニエルの事を少々気になっている様子。

ダニエル・フォン・マクスウェル(25)

若き青紫男爵家領主。

シュヴァルツ王国を再建する為に奔走する。

物腰柔らかで爽やかな性格。

七瀬の事をなんやかんやで信頼している。

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