第01話(2)

文字数 1,577文字

 季節彩る村――リーフィ村。
 その場所は、天使教の総本山で、教皇であるセラビムや、司祭のリリィが住んでいる。




「フーくん、フーくん! ここには沢山のお花さんがあるね。お城では見たこと無いものがあるね!」
「エレン、良いか……はっ、失礼しました。エレン姫様、あまり、騒がれませんように。我々は逃亡の身ですよ。ですよね、兄上!」
「ええ、その通りです。フェイ、エレン姫様、今から住まわれる家はとても貧祖ですが、我慢なさって下さいね」
「うん、分かってるよ! あ、蝶々さんだ!」
 こんなんで大丈夫なのだろうか。再起など出来るだろうか。
 フェイは不安に感じるが、それを支えるのは自分自身である。
「ところで、兄上。目に隈が出来てますよ。あまり眠れなかったのですか?」
 フェイは兄――ウィルに尋ねる。すると、ウィルは気にするなと一言告げた。
「あ、いらっしゃいました。あれは、ツツジの里の者ですね。エレン姫様、フェイ、気を付けて下さい。彼女達は敵です」
 そう、ツツジの里は敵だ。
 ツツジの里の長である玲は、ノールオリゾン国派に変わり、今ではシュヴァルツ王国の領地だけでなく、他国侵攻に携わっている――裏切りの民達だ。
「エレン姫様、いらっしゃいませ。ボクはミツル・カヅキ、こちらは姉の柚です。ボク達、ツツジの里を追い出されてしまって……なので、ここで暮らしているんです。ね、姉さん!」
「ああ。エレン姫、これからよろしく。いつでも頼ってくれよな!」
「もう、姉さん、無礼にも程があるよ! すみません、がさつな上礼儀が出来てない姉で……」
 これではどちらが姉か弟か分からない。
 しかし、彼らは何故、ツツジの里を追い出されてしまったのだろうか――疑問が残るも、フェイはエレンを呼び、さっさと住処の中へ入っていった。





「はあ、どうしようなあ。これから……」
 リーフィ村の丘の上、柚は寝転びながら色々考えた。とても、他人の耳には入れたくない事ばかり考えてしまう。
「どうしたんですか、柚さん?」
「あ、エレン……あ、悪い、エレン姫様……!」
「悩みならいつでも聞きますよ?」
「いえ、エレン姫様のお耳に入れるような事では……あの、俺、ツツジの里を追い出されたんです。自分の親が、ツツジの掟に背いたので」
 はあ、と柚はため息を吐く。もともと、長の玲とは仲は悪かったが、まさか掟に背いただけで親は殺され、追い出される事になるとは思いもしなかった。
 その事を、柚はエレンに吐露した。
 エレンは真剣に話を聞いていて、時たま一緒に悩んでいた。
「私に言えることはないのですが、どうか気を強く持って下さいね。きっと和解出来ますよ!」
「おい、エレン。どこにいると思ったら、そんな所に……全く、不用心だな」
「だいじょーぶだよ、フーくん。柚さん、良い人だよ!」
 キラキラな笑顔で、エレンはフェイに笑って見せた。
 その様子が、柚はとても、とても羨ましかった。
「それじゃ、柚さん。またね!」
「ああ、また会おうな!」
 そう言い、エレンはフェイに付いて行く。その様子を柚は心苦しく眺めていた。





 それは、ツツジの里を追い出される前の話。
 柚そしてミツルは、玲に呼び出されていた。
「柚、ミツル、どうやらお前達のこれから暮らす先に、エレン姫が逃亡したという話だ」
「玲様、まさか、それって……」
「ああ。エレン姫の息の根を止める。そしたら、お前達を里に帰らせてやろう。これは命令だ、柚、ミツル。さあ行くのだ!」




 それを思い出すと、柚は葛藤せずにはいられない。
 あんな素敵な人を殺すことなんて、殺すことなんて――
「俺は、どうすれば良いんだよ……!」
 悲観する柚の言葉に、ミツルはただ口を紡ぎ、心の中で苦しみにもがいた。
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登場人物紹介

エレン・ディル(16)

シュヴァルツ王国第二皇女の少女。

性格はほのぼの穏やかだが、王女としてのプライドはある。

フェイを心の底から信頼している。

亡国となったシュヴァルツ王国を再建する為に、奮闘する。

フェイ・ローレンス(17)

エレン姫に仕える護衛騎士。

クールで一匹狼だが、面倒見が良い。

エレンの事が好き。

エレンの夢の為に、フェイもまた奔走する。

セレナ・エーデル

ニコラが作った機械人形。

通称・仮初めの姫。

たどたどしく喋るのが印象的。

アレックとニコラを親のように感じている。

アレック・リトナー(20)

おちゃらけている謎の剣士。

セレナとニコラを連れて、旅をしている。

昔はセレナ姫の護衛騎士だった。

セレナ姫と瓜二つのセレナに特別な感情を抱いている。

ニコラ・オルセン(19)

腕の立つ技師。

部乱暴なしゃべり方で心は熱い。

アレックとはなんやかんやで仲が良い。

機械人形・セレナの親的存在。

香月七瀬(16)

ツツジの集落に住んでいた香月家の少女。

今は家出して、ダニエルの元にいる。

明るく元気な性格。

ダニエルの事を少々気になっている様子。

ダニエル・フォン・マクスウェル(25)

若き青紫男爵家領主。

シュヴァルツ王国を再建する為に奔走する。

物腰柔らかで爽やかな性格。

七瀬の事をなんやかんやで信頼している。

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