第01話(4)

文字数 2,245文字

 ノールオリゾン国になったこの地に、納税の義務の発布が行われた。
 それは、シュヴァルツ王国の時よりも、かなり重いものだった。
「これじゃ、家計は苦しいわねえ」
 普通の婦人――ミーアは財布を見るや、ため息を吐くしか無い。
 夫は先の戦で先立たれ、息子のラルフは無事帰ってきたが、職は失った。
「まあ、仕方ない。エレン姫様が無事なだけでも、良かったわよ」
 ミーアはそう言い、買い物が終わったあと、ラルフがいる鍛冶屋――レオンの元へ向かった。





「ジュリア、それは本当なのか?」
「占い師で予言者のエルマが言ってたわ。シュヴァルツ王国は復活するわ」
 ミーアがそこに着くと、ラルフの幼なじみの情報屋――ジュリアの姿があった。
 久しぶりに見たジュリアは、とても綺麗になっていた。
「俺達が生きている間に、復活すれば良いのだがな」
「じゃねえと、ラルフは無職だしな」
「それを言うな。今職を探している最中だ」
「それにしても、一人足りないわね」
 そう、いつものメンバーの中に一人いないのだ。
 彼――アレックの姿が。
「あー、アレックなら、今逃亡中って感じだぜ」
「噂では、機械人形を連れ国外に逃げたと言っている」
「えー、大丈夫なの? アレック……」
「大丈夫だと思う。あの男は不死身だ。それに、しっかりした技師――ニコラが側にいる」
「なら、安心だわね」
「まあ、あのアレックなら大丈夫でしょう。でも、不可解な事があるのよ」
 と、ジュリアは一息吐いて、告げる。
 その表情は深刻な物だった。
「エルマが、行方不明なのよね」
「えー、マジで。何でだよ」
「あのエルマの言葉は効力があるから、ノールオリゾン国側には不利な事を告げられれば――政を行いにくくなる、という訳だろうか」
「あー、難しい話分かんねえ! 分かんねえ!」
「レオンのおつむは五歳児だからね」
「そんなに低くねえ、せめて、十五歳にしてくれ」
「十五歳で良いのか」
 たわいのない会話が行われている。
 しかし、不可解な事は気になるところだ――そうミーアは肝に銘じた。





 ノールオリゾン国、その一国で、例の三人はいた。
「エルマが、捕まっただとォ?」
「ニコラくん、声がでかいよ」
「ニコラ、声、大きい」
 アレックとセレナの総ツッコミに、ニコラは悪ぃと一言告げた。
 しかし、エルマが捕まったとは。
 ニコラとエルマは幼なじみだ。幼なじみが捕まったとなれば、あの冷静なニコラでも驚きと不安を隠せないのだ。
「助けに行くぞォ」
「もう、こっちは多分お尋ね者だって、止めといた方が良いよ」
「だけどよォ、エルマを黙って処刑されるのを見てられるかよォ」
「エルマ、きっと、自由、欲しい、思う。私、救いたい、エルマ――」
 ニコラとセレナはエルマを救いたいというらしい。
 多数決で言えば、助けに行くの方が多い。
 つまり、アレックは折れなければならないだろう。
「仕方ないね。ノールオリゾン城へ忍び込むよ。ニコラくん、ヘマしないでね」
「おめェだろ、ヘマしてるのは」
「セレナちゃん助ける時もたもたしてたのは、ニコラくんだよ……」
 とりあえず、忍び込む方法を考えなければ。
 アレックはニヤリと微笑み、思考を張り巡らせた。





「ただいま、ノエル。貴方帰ってたのね」
「ああ。ミーアさん、ラルフ、無事帰ってきて安心した」
 ミーアとラルフが帰ると、長身の男――ノエル・クレイが出迎えた。
 ノエル・クレイはソレイユ家の研究所に勤める、天才だ。
「ノエル、なんだか浮かない顔をしてるわね」
「そんなことは無い、いつものノエル様だ。それより、ラルフ、仕事見つかったか?」
「仕事は多分見つかる。ケーキ屋でも始めようかと」
「お前、お菓子作りは得意だもんな」
「他にも得意な事はある、全く、お前みたいに頭が理系じゃないんだ、俺は!」
「はいはい。じゃあ、俺はちょっと席外しますね、ミーアさん」
 そう言い、ノエルは自室に向かった。
「ノエル、どうしたのでしょうね? なんだか思い詰めてたようだったけど」
「どうせ、研究が上手く行かなくて思い詰めてるんだ。あいつのことは放置がいい。実験で飯を忘れるぐらい、熱中したら、何も出来なくなる奴だ」
 早くご飯を食べようとばかり、ラルフはミーアに訴える。
 仕方ないわね、とミーアは食事の準備を始め、ノエルのことはあまり思い止めようとはしなかった――いつもの事だと、決めつけた。





 ミーア達が帰ってくる前の話。
 ノエルが早めに帰宅した時、謎の封書が出てきた。
 オリジン――という名の差出人。
 当然、オリジンなど知っているはずも無く、ノエルは開けずにいた。
 だが、上質の紙の封書が気になり、開けるだけならと、ノエルは封を開けてみた。
 中には一通の紙。紙にはこう書かれていた。

 ソレイユ家の令嬢――エイミーを暗殺しろと。
 さすれば、お前の昇格は保証する、と。

 やけに綺麗な字で綴られている所、高貴の身分の者が書いたものだろう。
 しかし、暗殺など出来るはずはない。
 彼女――エイミーの姉、公にはされていないが、姉のローゼと、ノエルは付き合っている。
 だが、最近は上手くいっておらず、見かねたローゼからは研究所を破門にするとまで言われている。
 どうせ、破門にされるぐらいなら、いっその事、研究所を守るために――ノエルは策を巡らせ始めた。
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登場人物紹介

エレン・ディル(16)

シュヴァルツ王国第二皇女の少女。

性格はほのぼの穏やかだが、王女としてのプライドはある。

フェイを心の底から信頼している。

亡国となったシュヴァルツ王国を再建する為に、奮闘する。

フェイ・ローレンス(17)

エレン姫に仕える護衛騎士。

クールで一匹狼だが、面倒見が良い。

エレンの事が好き。

エレンの夢の為に、フェイもまた奔走する。

セレナ・エーデル

ニコラが作った機械人形。

通称・仮初めの姫。

たどたどしく喋るのが印象的。

アレックとニコラを親のように感じている。

アレック・リトナー(20)

おちゃらけている謎の剣士。

セレナとニコラを連れて、旅をしている。

昔はセレナ姫の護衛騎士だった。

セレナ姫と瓜二つのセレナに特別な感情を抱いている。

ニコラ・オルセン(19)

腕の立つ技師。

部乱暴なしゃべり方で心は熱い。

アレックとはなんやかんやで仲が良い。

機械人形・セレナの親的存在。

香月七瀬(16)

ツツジの集落に住んでいた香月家の少女。

今は家出して、ダニエルの元にいる。

明るく元気な性格。

ダニエルの事を少々気になっている様子。

ダニエル・フォン・マクスウェル(25)

若き青紫男爵家領主。

シュヴァルツ王国を再建する為に奔走する。

物腰柔らかで爽やかな性格。

七瀬の事をなんやかんやで信頼している。

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