第01話(1)

文字数 1,327文字

 どんな命の終わり方だったら良いだろう。
 目の前の惨劇を、グローヴァー第一子息のルイスは直視出来なかった。
「親父が、親父が……、殺され、た……」
 酒に盛られていたのは毒だった。
 今宵はルイス自身そして、エイミー・フォン・ソレイユ公爵令嬢の婚約が行われていた。
「ルイス様……、これは、あんまりですわ……!」
 エイミーも義父になるはずの伯爵領主に、悲哀を浮かべるしかない。
「ルイス様、エイミー姫様、ここは危ないです。貴方達自身恐らく狙われているでしょう」
「イオン、ああ……、くそうっ……、誰が、こんな事……!」
 イオンは素早く、他の家事用人達に指示を出していく。その様子は流石、長年ルイスに仕えているだけあって、手慣れたものだった。




 以上のことから、ルイスとエイミーの婚約は取り消しになった。
 しかし、誰が一体、自分達の命を狙ったのだろう。




「ルイス様、お悩みですか。貴方は次期伯爵領主ですよ」
「いや、親父の事を考えていて、誰だよ、親父を殺したのは!」
「……ルイス様は、酷く領主様をお恨みになってたじゃないですか」
 ルイス自身、大きな夢があった。
 だが、自分の夢を諦める理由が出来た。世襲という、貴族では逃れられない呪縛。
「貴方が、継ぐはずだった領主の座。しかし、貴方の弟に既に奪われる。夢を奪った上、今度は領主の座まで奪う――死んで当然ではないですか」
「イオン、まさか、お前が……」
 そこで、ルイスは気付いた。目の前の男――信頼の置いている青年・イオンが、自分の親を殺したと。
「ルイス様、お許しを――、全て貴方の為とは言えません。いかなる処遇も受ける覚悟です」
「イオン、俺はお前を手放したくない。どうしてくれるんだよ!」
 ルイスは声にならない声で泣いた。
 どうにもならない、負の連鎖。それは、かつての戦乱が招いた悲劇。
 イオンもまた、静かに泣いた。
 ルイスのため、そして自分のため、七瀬からの依頼を受けた。




「グローヴァー領主が亡くなられたんやって。誰のせいやろなあ?」
「これで、親ノールオリゾン国派は少なくなった、か……」
「ダニエル様、話聞いとる?」
「ああ、聞いているよ。まあ、上手くいったんじゃないかな。君を信頼して良かったよ、七瀬ちゃん」
 マクスウェル邸の一室で内密に行われている二人の会話。
 ダニエルは次の手を考えた――ソレイユ家をどうにかすれば良い。
「なあ、ダニエル様。ちゃんと、うちの言い分聞いてくれる? うち、ツツジの掟、破った上、行く当ては無いんやで?」
「君の事はちゃんと考えているよ。君を次期ツツジの里の長にするってね」
「大丈夫なんかなあ?」
「僕達には、ウィル元帥が付いてるんだよ? シュヴァルツ王国が復興すれば、きっと――」
 そこで、伝書鳩がダニエルの元に到着した。それは、ウィル元帥が飛ばした物だった。そこには、こう書いてあった――姫が逃亡に成功したと。
 あとは、基盤を作り、再起を図れば良い。ウィルも、ウィルの弟であるフェイも無事だという。
「さあ、次はどうしようか。手始めに、ソレイユ家の誰かを――」
 そう言い、ダニエルは筆を取った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

エレン・ディル(16)

シュヴァルツ王国第二皇女の少女。

性格はほのぼの穏やかだが、王女としてのプライドはある。

フェイを心の底から信頼している。

亡国となったシュヴァルツ王国を再建する為に、奮闘する。

フェイ・ローレンス(17)

エレン姫に仕える護衛騎士。

クールで一匹狼だが、面倒見が良い。

エレンの事が好き。

エレンの夢の為に、フェイもまた奔走する。

セレナ・エーデル

ニコラが作った機械人形。

通称・仮初めの姫。

たどたどしく喋るのが印象的。

アレックとニコラを親のように感じている。

アレック・リトナー(20)

おちゃらけている謎の剣士。

セレナとニコラを連れて、旅をしている。

昔はセレナ姫の護衛騎士だった。

セレナ姫と瓜二つのセレナに特別な感情を抱いている。

ニコラ・オルセン(19)

腕の立つ技師。

部乱暴なしゃべり方で心は熱い。

アレックとはなんやかんやで仲が良い。

機械人形・セレナの親的存在。

香月七瀬(16)

ツツジの集落に住んでいた香月家の少女。

今は家出して、ダニエルの元にいる。

明るく元気な性格。

ダニエルの事を少々気になっている様子。

ダニエル・フォン・マクスウェル(25)

若き青紫男爵家領主。

シュヴァルツ王国を再建する為に奔走する。

物腰柔らかで爽やかな性格。

七瀬の事をなんやかんやで信頼している。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み