第06話(4)

文字数 2,908文字

 リーフィ村近郊。その場に、レオン、ミーアがいた。
 訳は簡単だ。今日、ラルフとジュリアが釈放されるからだ。
 レオンとミーアは、今か今かと二人を待ちわびていた。
「あ、ジュリア、ラルフ! お前ら、無事だったか?」
 二人の姿を確認するや、レオンはこっちだとばかりに二人を手招きする。
 二人は――特にジュリアはとてもやせ細っていた。
 そんな二人の姿を見て、ミーアは心配するしか無かった。
「母さん、レオン、心配掛けてすまなかった」
「ええ、ごめんなさい」
 二人は疲れで、あまり喋りたくないようだ。
 無理も無いだろう。今まで酷い拷問を受けていたのだから。





「なあ、アレックは一体今どこにいるのだろうな?」
「レオン、噂じゃさ、仮初めの姫――セレナ姫、ノールオリゾン国の側室になるみたいよ」
「あれ、じゃあ、ミーア、アレックは、ノールオリゾン国にでもいるのか?」
 いや、あくまで、セレナ姫がという話になるが、アレックは、あれだけ一緒にいたのだ。恐らく、アレックとニコラは――レオンは嫌な予感がした。
「ま、まあさ、生きてるよな。生きてるに違いねえ!」
「そうだったら良いわね。あ、そう言えば、結婚と言えば、エレン姫の事だけど……」
「ダニエル様と結婚したらしいな。なあ、俺達もエレン姫と一緒に、マクスウェル家の領地で暮らそうじゃん」
「まあ、エレン姫がいるし、賢明な考えだわねえ」
 しかし、情勢が目まぐるしく変わる。住民を置いてきぼりに、回っていく。
 レオンとミーアは、後ろから元気なく歩くラルフとジュリアの二人を鼓舞し、まずは元シュヴァルツ王国にある自分達の家へ帰る事にした。





「なるほど、七瀬ちゃん。エイミー様、ルイス様が僕を毒殺するだなんて。本当過激な事をするもんだ」
「あんさんが最初に仕掛けた事やで。自分のせいや」
「まあ、そうなんだけど……、恐らく、今度行われる貴族の茶会のお茶に毒でも混ぜ込んで、殺すつもりだろう」
「他人の事のように言うけど、あんさんやで、狙われとるの」
「そうだね。まあ、今更行かないというのは怪しまれるよね……その情報をくれた人が」
 情報を暮れたのは、天使教会のメリルだ。
 メリルと言うことは、天使教会もグルになっているという事になる。
「まあ、大丈夫。良いこと、ちょっと考えたから」
「ほんま、あんさん、悪やなあ」
「悪だなんて。僕は自分を守るためにやっているんだよ?」
 貴族のお茶会で、あまり不自然な行動は起こせない――が、毒さえ飲まなければ良いのだ。
 しかも、毒殺を企てる、ソレイユ家とグローヴァー家を潰す方法はある。ダニエルは静かに笑った。





 ダニエルは七瀬との話の後、七瀬そして自分の妻であるエレン、護衛兵のフェイを連れて、領地を散歩した。
「ダニエル様、何処へ連れて行ってくれますか?」
 エレンは初めてのマクスウェル家の領地を、ダニエルと一緒に歩ける事が嬉しかった。
 道行く人は、皆、エレンそしてダニエルを慕っている。
 エレンは勿論のこと、悪名高いと言われている領主・ダニエルが慕われているのを知って、七瀬は少し安心したような気がした。
 二人の結婚を、領民は祝福している。ダニエルは敵には厳しいが、身内には優しいのだろう。
「あれ、ここ、牢獄ですよね?」
「うん。最初のデートがこんな所でごめんね」
「いえ、どうされたのかなって思いました」
「ダニエル様、これはどういう事だ?」
 フェイはため息を吐く。なんで、自分達を牢獄に連れたのだろう。エレンとの初めてのデートにしては、不格好にも程がある。
「エレン姫様、君に会わせたい人がいるんだ」
 そう言い、三人に付いて来てとばかりに、ダニエルは言った。エレンは分かったとばかりに、ダニエルと共に階段を降りていく。
「一体、誰に会わせるつもりなんだ。ダニエル様は」
 とりあえず、付いて行かなくては――フェイは七瀬と一緒に二人の後を追った。





「あ、貴方は柚さんに、ミツルさん……!」
「え、エレン姫? どうして、エレン姫が、俺達に会いに……?」
 ダニエルがエレンに会わせたい人というのは、柚とミツルの事だった。
 二人はマクスウェル家の領地の牢獄に捕まっていたのだ。
「ダニエル様、こいつらは、エレン姫の暗殺を企てた奴らです。なんで、こんな奴らに会う必要が……」
「彼らは、ツツジの里の首領・玲によって命令されたんだ。自分達の意思ではないよ」
「ダニエル様、それでも……」
 柚とミツルは、自分達の敵だ。フェイは信じられないとばかりに、ダニエルを、柚を、ミツルを睨み付けた。
「エレン姫様、どうする? 彼女らには居場所がない、作ってあげれるよね?」
「ええ。柚さん、ミツルさん、私と一緒に来ませんか?」
「エレン、それ正気か。相手は、お前を殺そうとした奴だぞ。ダニエル様もだ。こんな事、兄上に知れたら……」
「ウィル様には話しているよ」
「兄上まで、一体何を考えているのですか!」
 信じられない。なんで、エレンは甘いのだろう。ダニエルは一体何を考えているのだろう。兄上も何でそれを承諾したのだろう。
「あの、柚さん、ミツルさん。私達と一緒に来ましょう。私を殺そうとしたのは、ツツジの里の命令だと聞きました。でも貴方達には居場所がない……それは辛いです」
「エレン姫様、俺達を許してくれるのか?」
「ボク達、悪い事をしたのに……」
「一緒に来て下さいませんか?」
 エレンはそっと、二人に手をさしのべる。
 柚も、ミツルも、エレンの心の広さに、驚くしかない。
 でも、居場所がない二人にとって、またとないチャンスだ。
「俺達を連れて行って下さい。貴方に、忠誠を誓います」
「姉さん……、ええ、もう、ボク達はツツジを捨てます。あの場所には、帰る場所なんてないから」
「決まりだね」
 こうして、柚とミツルはマクスウェル家に召し抱えられる事になった。
 今度こそ、と柚は、ミツルはエレンに忠誠を誓う。それが居場所を作ってくれたエレンに捧げる礼儀だと弁えた。





「ダニエル様、何考えとるん? あの二人を牢屋から出すなんてなあ……」
「二人、そして七瀬ちゃん……ツツジの分家がエレン姫様の元に来た事を大々的に公表するよ。そうすれば、ツツジの里は内分裂したとでも思われるからね」
「ダニエル様、そういう事だと思ったわ。内分裂したとして、ツツジの里を混乱させる為なんやね」
「まあ、そうじゃなきゃ、ノールオリゾン国の勢力をどうにか出来ないからね。これは微々たる物かもだけど……ね?」
「ね、やないんやけどなあ……」
 少しダニエルの事を勘違いしていたのかもしれない。
 ダニエルも少しは心の広い所もあるのかもしれない――それは、エレン姫に通ずる物だ。
「ダニエル様、あんさんが光になってもええんやで。うちが闇を全部抱えても、ええんやで……」
 ダニエルに聞こえないように、七瀬は呟く。微かに彼に恋心を抱いた七瀬は、ダニエルに再び忠義を尽くすと決めたのだった。
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登場人物紹介

エレン・ディル(16)

シュヴァルツ王国第二皇女の少女。

性格はほのぼの穏やかだが、王女としてのプライドはある。

フェイを心の底から信頼している。

亡国となったシュヴァルツ王国を再建する為に、奮闘する。

フェイ・ローレンス(17)

エレン姫に仕える護衛騎士。

クールで一匹狼だが、面倒見が良い。

エレンの事が好き。

エレンの夢の為に、フェイもまた奔走する。

セレナ・エーデル

ニコラが作った機械人形。

通称・仮初めの姫。

たどたどしく喋るのが印象的。

アレックとニコラを親のように感じている。

アレック・リトナー(20)

おちゃらけている謎の剣士。

セレナとニコラを連れて、旅をしている。

昔はセレナ姫の護衛騎士だった。

セレナ姫と瓜二つのセレナに特別な感情を抱いている。

ニコラ・オルセン(19)

腕の立つ技師。

部乱暴なしゃべり方で心は熱い。

アレックとはなんやかんやで仲が良い。

機械人形・セレナの親的存在。

香月七瀬(16)

ツツジの集落に住んでいた香月家の少女。

今は家出して、ダニエルの元にいる。

明るく元気な性格。

ダニエルの事を少々気になっている様子。

ダニエル・フォン・マクスウェル(25)

若き青紫男爵家領主。

シュヴァルツ王国を再建する為に奔走する。

物腰柔らかで爽やかな性格。

七瀬の事をなんやかんやで信頼している。

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