第02話(3)

文字数 1,474文字

 風が走る、走る、勢いを付け、真っ直ぐに。
 ノールオリゾン城の地下牢で、怒号が響き渡る。兵数名が騒ぎ出す。
「いたか!」
「こっちには居ない」
「全く、何処へ行ったんだ、予言者を連れ去った犯人は――」
 兵達はくそうと悔しがりながら、駆け出す。
 その様子を端から見る、一人の青年――アレックの姿があった。
「アレック殿、アナタには感謝するんだな」
「エルマちゃん、まだ油断は禁物だよ」
 背の小さい女性――エルマは、窮屈な牢屋から出られた喜びに浸る。しかし、アレックは静かにと、彼女を制した。





「エルマ、無事かァ!」
「ニコラ、アナタがワタシを助けに来てくれたのは予想外なんだな」
「なァに言ってんだァ、おめェは予言者だろ、この事も予測してただろ」
「まあ、そうなんだな」
 無事、アレックはエルマを連れ出す事が出来た。今回も間一髪だった。
 自分は遊び人より盗人を名乗った方が良いのだろうか、そう自問するも、アレックはそっと夜風に当り、息を整える。
 一方、エルマは仮初めのシュヴァルツ王国の姫――セレナを見据えた。
「やはり、助かってしまったんだな。まあ、そうでなければ、シュヴァルツ王国は復活しないんだな」
 エルマは目を細め、セレナを再び見据える。
 彼女達の運命が交わる時――恐らく、その時が訪れる。その時はいつなのか、予言者のエルマでも分からない。予言者とは不便にもそこまでは予測出来ないのだ。
「私、生きたい、生きたい……」
「壊されるぐらいなら、なんだな。命無きものなのに、それを臨むのは滑稽なことなんだな」
「エルマァ、滑稽とはどういう意味だァ?」
「そのままの意味なんだな」
「二人とも、そこまでにして、ここを早く離れよう。追っ手が来てる」
 さあ、この場所を離れよう。少し先を歩いていたアレックは三人に視線で告げた。三人は口を噤み足早にアレックを追いかけた。





 とある、元シュヴァルツ王国領地の酒屋――アレックはとある人を待っていた。
「ジュリアちゃん、今日も綺麗で可愛いね」
「アレック、御託は良いわ。さあ、中に入って話をしましょう」
 中は、流石、ノールオリゾン国に奪われた土地柄も反映され、人の出入りは少なかった。これは、好機と言えよう。
「で、話は何?」
「情報を売ってあげる。天使教の教皇――セラビムが、ノールオリゾン国と繋がってるわ」
「待って、売って欲しいとは言ってないよ。でも、その情報、どういう事?」
「とある、人に聞いたんだけど、教皇とノールオリゾン国の側近二人が会ってたのよ」
 ジュリアはグラスの中に入ってた酒を飲み干し、告げる。
「ツツジも天使教もノールオリゾン国側よ? そんな中、エルマの予言は当たるかしら?」
「俺は、セレナちゃんを守るだけだよ。マスター、お代置いておくね」
 アレックはそう言い、小銭を何枚か置き、ジュリアの方を見据える。
「レオン君と、ラルフ君は元気?」
「あり得ないぐらい元気だから、安心して」
「なら良かった。二人には心配かけてるからね。でも、心配しないでって言っておいて」
「心配かけない保証なんて何処も無いわよ。貴方、危険な立場なのよ? 仮初めの姫なんて……」
「そこまでだよ、ジュリアちゃん。そこまでだ……、幼なじみとはいえ、言っちゃ駄目だからね」
 そう言うと、アレックは立ち去った。
 ジュリアはその様子を見据え、見据え、呟く。
「アレック、貴方、どうしたのかしら? らしくないわよ」
 ジュリアはそう言い、その場から立ち去ったのだった。
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登場人物紹介

エレン・ディル(16)

シュヴァルツ王国第二皇女の少女。

性格はほのぼの穏やかだが、王女としてのプライドはある。

フェイを心の底から信頼している。

亡国となったシュヴァルツ王国を再建する為に、奮闘する。

フェイ・ローレンス(17)

エレン姫に仕える護衛騎士。

クールで一匹狼だが、面倒見が良い。

エレンの事が好き。

エレンの夢の為に、フェイもまた奔走する。

セレナ・エーデル

ニコラが作った機械人形。

通称・仮初めの姫。

たどたどしく喋るのが印象的。

アレックとニコラを親のように感じている。

アレック・リトナー(20)

おちゃらけている謎の剣士。

セレナとニコラを連れて、旅をしている。

昔はセレナ姫の護衛騎士だった。

セレナ姫と瓜二つのセレナに特別な感情を抱いている。

ニコラ・オルセン(19)

腕の立つ技師。

部乱暴なしゃべり方で心は熱い。

アレックとはなんやかんやで仲が良い。

機械人形・セレナの親的存在。

香月七瀬(16)

ツツジの集落に住んでいた香月家の少女。

今は家出して、ダニエルの元にいる。

明るく元気な性格。

ダニエルの事を少々気になっている様子。

ダニエル・フォン・マクスウェル(25)

若き青紫男爵家領主。

シュヴァルツ王国を再建する為に奔走する。

物腰柔らかで爽やかな性格。

七瀬の事をなんやかんやで信頼している。

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