第01話(3)

文字数 1,840文字

 天使競総本山であるリーフィ村。
 そこで、一人の女性と男性の婚礼が行われていた。
「アリス・ティラー、汝は今日からこの青年――セシル・ユイリスを愛すか?」
「ええ、神に誓います」
「セシル・ユイリス――、汝は今日からこの女性――アリス・ティラーを愛すか?」
「ああ、神に誓おう」
 老爺は二人の手を重ねるや、小さく頷いた。
「これより、セシルはアリスの、アリスはセシルの伴侶となった。神――エンゲルは、お前達を認めるだろう」
「ありがとうございます……、神――エンゲル、教皇――セラビム」
「二人とも、幸せになるのだぞ」
 最後、セシルは軽く、アリスの額に口づけを交わすや、婚礼は無事終わったのだ。
 その様子を静かに見守っている白神子――ユウがいた。
 ユウは複雑な心境で二人を見守っていた。アリスを祝福したい気持ちと、アリスを奪った男――セシルに嫉妬の気持ちで、どうにかなりそうだった。
「アリスさん、セシルさん、ご結婚おめでとうございます」
「ユウ様、この度は貴方のおかげで、結婚式を挙げる事が出来ました。これもエンゲル様を始め、セラビム様、勿論、ユウ様達神子様方のおかげですよ!」
「二人とも、幸せになって下さいね」
 それだけ言うと、ユウは教会の中に入っていた。
「さあ、セシルさん。帰りましょう」
「ああ。しかし、天使教は深いのだな。あまり信仰したことはないのだが……」
「セシルさん、天使教は祈りを捧げるだけで極楽浄土に行けるのですよ?」
「アリス、本当に天使教に詳しいのだな」
「だって、皇女――エレンも愛していたのですよ、天使教。詳しいというか、好きなんです。こういう、素敵な信仰。だから、セシルさんも祈りましょう。きっと、私達の生活を見守って下さいますよ!」
 セシルはアリスの熱狂振りに圧巻しながら、新しい住まいへ向かっていた。二人の新たな生活は始まったばかりだ。





 その夜、いつもの勤めが終わり、ユウは就寝しようとしていた。
 その時だ。自分のすぐ側をどうみても異国の人間と思わしき者が、通り過ぎた気がした。
「どうして、ノールオリゾン国の方が……」
 その者はノールオリゾン国の者だった。その者は、教皇がいる部屋へ入っていたのだ。
 何故だろう――ユウは、胸騒ぎがした。これでは寝られるはずもない。
 ユウはそっと、彼らを追ったのだ。





「――姫様は、リーフィ村に住まわれているね。ユーグ・セラビム教皇」
「ああ。勿論、保護をしている。大丈夫だ、時が来たら、彼女達を渡そう」
「先日、失敗したばかりなんだよな。檻から逃げ、調べてみたらさ、偽物だった訳でさ、こっちは焦った焦った」
「シルヴァン様、クロエ様――どうか、この件は我に任せてくれないか。お前達も、亡国の姫がいては、上手く政が出来ない。その代わり、天使教の信仰を広める活動を許可して欲しい」
 衝撃の事実が耳元に入れられる。
 天使教を広めるかわり、姫――エレンを引き渡すという内密の会話。
 エレン姫自身を裏切る行為ではないか、ユウは思わず、体を震わせ、恐怖を感じる。
 信仰していた神は、何故このような事をするのだろうか。
 これが、天使教の姿なのだろうか。
「……そこにいるのは、出てきなさい。ユウ・アレンゼ」
「あ、すみません。今の話のことは聞かなかった事に……」
「そうではない。お前に一役買って欲しいのだ」
 セラビムはそう言い、ユウの元に近付く。
 セラビムはにやりと、天使教の信仰の為だと告げ、伝える。
「お前がシュヴァルツ王国の姫の居場所を突き止めろ。なぜだか、あちら側が居場所を教えてくれなかったのでね……」
「一体、どうすれば……」
 ごくり、とユウは唾を飲み、自分が信じていた道を絶たれた感触に、堪え忍んだ。
「アリス・ティラーは熱心な天使教の信者。その夫のセシル・ユイリスは、確か、シュヴァルツ王国騎士団長だ。騎士団長なら、姫の居場所ぐらい分かるだろう」
「彼女たちを探れ、と言うのですか」
「天使教の為だ。出来るな、ユウ・アレンゼ……」
「は、はい。その任務しかとつとめを果たして参ります」
 ユウはそれだけ言うと、その場を立ち去った。
 自分の神の為だ、自分の神の為だ――ユウはそれだけを念じて、アリス達を浮かべた。
 彼女達をこれから自分は裏切るだろう。自分は神子の立場だ。教皇の命令は絶対だ。
 だから、この行為は正しい――そう言い聞かせて。
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登場人物紹介

エレン・ディル(16)

シュヴァルツ王国第二皇女の少女。

性格はほのぼの穏やかだが、王女としてのプライドはある。

フェイを心の底から信頼している。

亡国となったシュヴァルツ王国を再建する為に、奮闘する。

フェイ・ローレンス(17)

エレン姫に仕える護衛騎士。

クールで一匹狼だが、面倒見が良い。

エレンの事が好き。

エレンの夢の為に、フェイもまた奔走する。

セレナ・エーデル

ニコラが作った機械人形。

通称・仮初めの姫。

たどたどしく喋るのが印象的。

アレックとニコラを親のように感じている。

アレック・リトナー(20)

おちゃらけている謎の剣士。

セレナとニコラを連れて、旅をしている。

昔はセレナ姫の護衛騎士だった。

セレナ姫と瓜二つのセレナに特別な感情を抱いている。

ニコラ・オルセン(19)

腕の立つ技師。

部乱暴なしゃべり方で心は熱い。

アレックとはなんやかんやで仲が良い。

機械人形・セレナの親的存在。

香月七瀬(16)

ツツジの集落に住んでいた香月家の少女。

今は家出して、ダニエルの元にいる。

明るく元気な性格。

ダニエルの事を少々気になっている様子。

ダニエル・フォン・マクスウェル(25)

若き青紫男爵家領主。

シュヴァルツ王国を再建する為に奔走する。

物腰柔らかで爽やかな性格。

七瀬の事をなんやかんやで信頼している。

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