第04章(1)

文字数 993文字

 朝の鳥が悲鳴を上げ、飛んでいく。
 その様を、ずっと、ずっと、エレンは見ていた。
 先日、ミツル・カヅキが自分を殺そうと毒入りの饅頭を拵えて来た。
 事無きことを終えたが、その事にエレンは胸を痛めていた。
「エレン姫様、ここへいらしていたのですか」
「あ、ウィルさん」
 そこに、シュヴァルツ王国の元帥だったウィルがやって来る。
 ウィルの目にはまたもや隈が出来ていた。
「ずっと最近、ウィルさんは考え事をしていらっしゃいますが、どうされたんですか?」
「エレン姫様、貴方様はただ、シュヴァルツ王国の事を考えていて下さいね」
「ウィルさん、私は考えています。必ずやお父様の遺言を果たすつもりです」
「エレン姫様。私達は、その為に動いているのです。貴方はただ前を見据えていて下さい」
 ウィルはそう言い、振り返る。すると、自分の弟――フェイが自分とエレンを見据えていたのを知った。
「あ、フーくん!」
「兄上の前だ、エレン姫様。全く、勝手に出歩くのはいい加減にしろとあれ程言ってるだろ!」
「あ、ごめんごめん」
「本当に思ってるのか? 全く、俺の苦労も分かってくれよ」
 フェイが苦言をするや、エレンは大丈夫とだけ言って、フェイとウィルから少し離れた場所で朝の空気を吸った。
「兄上、私は思うのです。エレン姫はこのまま、何も重みを持たず生きて欲しいと。それは、姫護衛騎士として間違った考えなのでしょうか?」
「フェイ、そうですね。私が行っている行動からすれば、それは裏切りに等しいです。でも、その気持ちも分かりますよ」
「兄上……、私は、エレン姫様には普通の幸せを抱いて欲しい。本音を言うと。だけど、だけど、シュヴァルツ王国を復興して欲しいのも事実なのです」
 それは護衛騎士として悩ましき思いだった。兄も周りの者も、シュヴァルツ王国の為に動いている。
 やはり、これは、裏切りなのだろうか。
「フェイ、貴方は変わらないで下さいね。純粋に、エレン姫様を守るのです」
「兄上……」
 ふと、フェイは頭を過ぎる事があった。
 自分の兄は、まさか、倫理的に良からぬ事をしているのではないかと。
 いや、それは間違いだ。兄が国の為に下の者に命じ、間違ったことをしているのではないかと。
 まだ、フェイは知らない。純粋に姫と国を思うフェイの裏側で、行われている数々の出来事を未だ知らぬままでいた。
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登場人物紹介

エレン・ディル(16)

シュヴァルツ王国第二皇女の少女。

性格はほのぼの穏やかだが、王女としてのプライドはある。

フェイを心の底から信頼している。

亡国となったシュヴァルツ王国を再建する為に、奮闘する。

フェイ・ローレンス(17)

エレン姫に仕える護衛騎士。

クールで一匹狼だが、面倒見が良い。

エレンの事が好き。

エレンの夢の為に、フェイもまた奔走する。

セレナ・エーデル

ニコラが作った機械人形。

通称・仮初めの姫。

たどたどしく喋るのが印象的。

アレックとニコラを親のように感じている。

アレック・リトナー(20)

おちゃらけている謎の剣士。

セレナとニコラを連れて、旅をしている。

昔はセレナ姫の護衛騎士だった。

セレナ姫と瓜二つのセレナに特別な感情を抱いている。

ニコラ・オルセン(19)

腕の立つ技師。

部乱暴なしゃべり方で心は熱い。

アレックとはなんやかんやで仲が良い。

機械人形・セレナの親的存在。

香月七瀬(16)

ツツジの集落に住んでいた香月家の少女。

今は家出して、ダニエルの元にいる。

明るく元気な性格。

ダニエルの事を少々気になっている様子。

ダニエル・フォン・マクスウェル(25)

若き青紫男爵家領主。

シュヴァルツ王国を再建する為に奔走する。

物腰柔らかで爽やかな性格。

七瀬の事をなんやかんやで信頼している。

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