第25話

文字数 855文字

 もちろん、そんなに初めから事が進むとは健人も思っていない。ユリと観光を楽しみながら現地の人々にマイラの写真を見てもらい、この子を知らないか?ーーと尋ねて回った。

 無計画だったが、二人で協力していろんな体験をしてユリの度胸の強さとか行動力とか、あらためて素晴らしい人を妻にしたと実感した。
 ユリは自分にはもったいない。自分は、ユリがいて一人前のような気がしていた。

 ユリの笑顔は現地の人々に自然と受け入れられていた。
「ちょっといいですか?」と笑顔で問いかけると歩いている人でも立ち止まってくれるし、迷惑がらずに耳を傾けてくれる。時には、「知人にもあたってみるから連絡先を教えて」などと親身になってくれる人もいた。
 ユリは迷う事なく「ここに電話ちょうだい」とあらかじめ用意していた尋ね人のビラを配っていた。そこには、写真のようなマイラの似顔絵も描かれていた。
「イビガイコサイヨ」とユリはビラを配っていた。あれ、その響き、どこかで聞いたような……。
「ねぇ、ユリ、今なんて言ったの?」
「えっ?……これあげるって言って配ってるのよ。半強制的にでも受け取ってほしいから」
(イビガイコサイヨ……マイラが言った最後の言葉……)
 マイラの言葉の意味を確信した。
 やはり、マイラの手がかりをなんとしてもみつけなければーー。

 フィリピンには三日ほど滞在したが、めぼしい情報は得られなかった。ユリと僕は、ただただどこにでもいる普通の旅行者だった。そう、もちろん新婚旅行として充分に楽しんでいたことは間違いないのだ。

 そして、僕は何よりもインドネシアでユリの生活が見られることを楽しみにしていた。
 ユリがどんなところで、どうやって過ごしているんだろうと、とても興味があった。それを知ることでもっとユリの力になれる気がした。

 僕を頼ってくれのは牛だけではないーー

 もっとユリを支えられる強い人間になりたいと健人は思っていた。
(僕は妻を……ユリを全力で守る)

 インドネシアに渡る飛行機の中で眠っているユリの手を握りながら自分自身に誓った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み