第30話

文字数 1,320文字

 二人はフィリピンに一泊した。翌日の飛行機で健人は日本へ、ユリはインドネシアへそれぞれ帰ることにした。
 翌朝、飛行機に乗る前に、健人とユリは港から遊覧船に乗った。そして大海原へ指輪を投げた。
(永遠にお幸せに……)と願いを込めて。

 きっと天国でジャスティンとニコルとマイラの三人は仲良く暮らしていることだろう。

 朝の光に反射して青くキラキラと光を
放ちながら、指輪はゆっくりと沈んでいった。


 あれから二年の時が経ち、北海道に春が訪れ観光客の賑わいが戻ってきた。
 健人とユリのファームも忙しくなってきた。

 ユリは約束通り、二年の契約を終え帰国した。
そして、北海道で小学校の教師を続けている。ファームは健人の両親とユリの手伝いでなんとか経営している。

 健人の考案でその後、バターやヨーグルトなどの加工品も空港のショップにおいてもらい、近所の店にも販売ルートを拡大し、少しずつだが、事業を広げている。

 健人が配達していると、途中、近所の魚屋の店主に呼び止められた。
「けんちゃん、今日、いい魚がはいったんだよ。持っていきな」と大きな鮭を一匹、ケースで持ってきてくれた。健人はバターとヨーグルトをお礼に手渡した。
「いつも悪いねー」
「お互い様ですよ。じゃ、遠慮なくもらっていきます」と車に戻った。

 家に戻ると、玄関口で中に叫んだ。
「魚政のおじさんにまた、魚もらったよ。ここに置いておくよ」
 台所から母が顔をだした。
「いつも悪いよね。ちゃんとお礼いっといてよ」
「うん、バターとヨーグルト置いてきたから」
「あらそう。じゃ、遠慮なくいただこうかね」

 健人とユリは、牧場の隅に離れの新居を建てた。両親の家のすぐ隣だ。今日の夕食は、いただいた鮭を鍋にするからとお呼ばれしていた。ユリと揃って八時頃、お邪魔すると母が健人に話しかけてきた。
「今日、魚政さんにいただいた大きな鮭ね、さばいたら魚の胃袋からこんなものが出てきたのよ」

 手渡されたのは青い石だった。

 健人とユリは手のひらの上の石を見て、しばらく動けなかった。
(これはもしかして……)
 健人とユリは顔を見合わせた。
「えっ、母さん、これ魚の胃袋から出てきたの?」
「そうよ、だからそう言ったじゃないの。綺麗な石よね。間違って食べなくて良かったわ」

 間違いなかった。他にはない深いブルー。マイラの指輪だ。リングから外れて石だけが巡り巡って健人のもとへ戻ってきたのだ。

「きっと健人に持っていてほしいというマイラの思いよ。両親に会えたんだわ。そのことを健人に知らせたかったのよ」
「そうかな」
「ねぇ、この石で指輪を作らない?J・N・Mと刻んで。どう?」
「いい考えだね。きっと天国で三人一緒に見守ってくれているよ」
「そうね」

「何してるのー?ご飯がなくなるわよー」
「あっ、はいはい。いまいきまーす」

 これから先、いろんなことが起こるだろう。
大人になる前の辛い経験は、この先もずっと心から消えることはない。
 それでも、先に進まなければいけない人生は決して影だけではない。
 自分の力で歩んできた人生。これからはユリと二人で、過去も乗り越えられるよう、しっかりと前を向いて生きていこうと思う。

 この先、人生の奇跡が起こることを信じて。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み