第5話

文字数 825文字

「健人、ごめん。お風呂入ってた」
「あぁ、そっか。今は大丈夫なの?……ちょっと話せるかな……と思ってさ」
「うん、ライン見たから嬉しくなって電話しちゃった。バイト決まったんだね、おめでとう。で、どんなバイト?」
 健人は一日の出来事をすべて報告した。ユリはところどころ相槌を打ちながら、僕のつまらないであろう報告を真剣に聞いてくれた。
「それじゃあ、明日から電話も自由に出られなくなるね」
「あぁ、そうだね……でも着信あれば折り返すし、ラインは必ずチェックするから」
「うん、そうして……ちょっと寂しくなるなぁ」
「えーっ、さっきあんなに自分のことみたいに喜んでくれたじゃない。どうしたんだよ、急に」
「うん……東京に行った健太がどんどん離れていっちゃう気がしてさぁ。ちょっとセンチメンタルになってみただけ……あっ、そういえば話変わるけどね……今度、私も東京へ行く機会がありそうなの。その時、会えない?」
「えっ、ほんと?」
「うん。私、大学で児童教育を専攻しているんだけど、授業の一環で論文の発表会があるの。来月、東京で開かれる国際児童フォーラムに行くことになったんだ。見学も兼ねて参加できることになったの」
「へぇ、すごいな。ユリもついに東京進出かぁ。詳しい日程がわかったら連絡してよ。絶対会おうな」
「うん、わかった。楽しみだね……あっ、もうこんな時間。もうすぐ十二時だよ。明日早いから、今日はもう寝るね」
「あぁ、ごめん、もうこんな遅いのかぁ。ユリと話していると時間があっという間だな。じゃあ、おやすみ」
「うん、おやすみ。いい夢みてね」
「うん、ユリの夢な」

 電話を切った後も健人は、気持ちがたかぶってすぐには寝付けなかった。
(明日から人生が大きく動いていく気がする。何かいいことが起こる予感が……)
 ユリにも会えそうだし、未来に起こるであろう楽しい出来事をあれこれ想像していたら突然、睡魔がおそってきた。
(きっといいことがある……きっと……)

 健人は深い眠りにおちた。
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