第27話

文字数 773文字

 再びホテルに戻った二人は、翌日からインドネシアの観光スポットを思う存分満喫した。一年も住んでいたって、観光する時間なんかなかったとユリも心底、旅行を楽しんでいるようだった。歩き疲れて店で休憩していると、ユリの携帯が鳴った。知らない番号からの電話だった。
「はい、広井ユリです」相手は片言の日本語を話した。
「マイラ、知ってる人います」
 ユリは健人にマイラの電話であることを合図した。
「どこにいますか?会えますか?」
「マイラのおばあちゃん、マニラにいます。夜なら僕、迎えに行きます」
「今晩、空港で会えますか?今日の夜、エアポートで会えますか?」
「はい、七時にまた電話します」
「情報ありがとう」
 知らない人からの電話だし、いたずらかもしれないが、今まで何も手がかりがないのだから、今は信じてみるしかない。

 ユリと健人はホテルをチェックアウトし、その足でマニラへ飛んだ。
 夜七時、約束の時間ギリギリに空港に着いた。空港に着いてまもなくユリの携帯が鳴った。
「今、タクシー乗り場にいます。グリーンのシャツを着ています」
 二人はタクシー乗り場へ急いだ。そこには教えられた通りの服装をした一人の青年が立っていた。
「アントニオと言います。これからおばあちゃんの家に行きます」
「初めまして。ユリです。こちらは健人です。情報をありがとう」
 今はアントニオと名乗るこの青年を信じるしかない。アントニオは運転手に細かく指示を出していた。車は空港から二十分ほどの小さな村に着いた。
 辺りは薄暗かったが、家の明かりがついていたので、村全体を見渡すことができた。表通りから五件目の家の前で車を降りるとアントニオはチャイムを鳴らした。中から年は七十歳くらいの女性が現れた。
「よく来たね、アントニオ。さぁ、そちらさんも中へどうぞ」
 先に話はしてあるからとアントニオは僕たちに言った。
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