第10話

文字数 716文字

 六月の初め。初めてのアルバイト代が入った。手取りで十万円ほどになった。無理のないペースで月十万円ほど収入があると、東京で一人暮らしの学生生活も人間らしく成立する。

 今月末は、ユリが東京へやってくる。国際児童フォーラムの会場は有明。土曜日ということだったので店長に話をすると休みを快諾してくれた。が、一つお願いがあると店長に頼まれた。
「ちょうど、その国際児童フォーラムに知り合いの女の子が参加する予定で来日するんだ。名前をマイラという。私は店があって迎えに行くことができない。健人くんがその場所にいるのなら、展示場駅で待ち合わせしているマイラを会場入り口にあるベンチまで連れて行ってあげてほしいんだ。そのベンチに座っていれば担当の案内係がやってくる約束になっているんだ。つまり、最寄駅から会場前のベンチまで案内してあげてほしいんだよ。頼めるかね」
「あぁ、はい。僕でお役に立てるのであれば、かまいませんよ」
 店長はマイラの写真を手渡してくれた。
(なんでこんな小さな女の子が一人で日本に来るのだろう)と不思議には思ったが、国際児童フォーラムは海外からたくさんの子供や要人がやってくると聞いている。店長に確認すると団体で駅までは連れてきてもらえるのだが、そこから先は各担当者がそれぞれ会場へ連れて行くというルールらしい。
 マイラとの待ち合わせは午前十一時。ユリとの約束は駅前で午後三時だ。近くに時間を潰せる場所はいくらでもある。健人は店長との約束よりユリとの再会の方が本来の目的なので、たいした依頼ではないとその時は考えていた。
 ただ、一人の少女を会場まで連れて行くだけのこと。特に心配などしていかなった。それより早くユリに会いたかった。
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