第21話
文字数 955文字
しばらくすると小柄な女性が小学一年生くらいの男の子をベンチに座らせた。何か言い聞かせて、その場を去っていった。
健人は座っている男の子を気にしつつ、その女性の後を追いかけて声をかけた。
「あの、ちょっとすみません」
「はい、何か?」
「あのお連れ様はお一人で大丈夫なのでしょうか?」
「えぇ、すぐにお迎えが来ますから大丈夫ですよ」
「失礼ですが、そのお迎えの方とはお知り合いですか?」
「いいえ。知り合いに頼まれただけなので」
健人はこの女性をどこかでみたことがあると思った。
「そうですか。失礼いたしました」
そう言い、すぐにベンチに座る男の子のところへ戻った。幸い男の子はまだそこにいた。
「ちょっといいかな。洋服、触るよ」
健人は男の子の服を確認すると、あきらかな異変に気づいた。内側に爆弾らしき装置が付いていたのだ。すぐに健人は、その場を離れ、無線で報告し、マニュアル通り、近くにいた警察官に連絡をした。男の子を注視していると、迎えの係と思われる女性が現れた。おそらく爆弾のスイッチを持っているはずだ。大掛かりなテロでは、すぐにあしがついてしまうから実行犯は最低人数のはずなのだ。
入場前に、警察官が子供を連れている女性を呼び止めた。小さなバッグを肩にかけた女性は、これから始まるフォーラムにスピーチで参加するのだと英語で話をしていた。女性がバッグに手を入れようとした瞬間、警察官はバッグを振り落として女性を確保した。男の子は服を脱がされ、爆弾は人のいない広場へ放り投げられた。抵抗した女性の行動に一瞬、緊張が走ったが、数人の駆けつけた警察官に取り押さえられ、人だかりができる前に、何事もなかったかのような早さで処理された。
テロは未遂に終わった。
健人はその場に一人崩れ落ちた。
そして悪い予感が当たってしまったことに心を痛め、溢れる涙を止めることはできなかった。
(マイラ……)
今日は男の子の命を救うことができた。でも、五年前は、おそらく自分がマイラを救うことができた最後の人間だったのだ。
健人は、しばらく放心状態のまま会場に吸い込まれていく楽しそうな人々を見ていた。ほんの数分前に目の前で起きたことが、まるで映像のようで現実のものとは思えなかった。
(ごめん、マイラ……)
健人は首からかけた指輪を握りしめた。
健人は座っている男の子を気にしつつ、その女性の後を追いかけて声をかけた。
「あの、ちょっとすみません」
「はい、何か?」
「あのお連れ様はお一人で大丈夫なのでしょうか?」
「えぇ、すぐにお迎えが来ますから大丈夫ですよ」
「失礼ですが、そのお迎えの方とはお知り合いですか?」
「いいえ。知り合いに頼まれただけなので」
健人はこの女性をどこかでみたことがあると思った。
「そうですか。失礼いたしました」
そう言い、すぐにベンチに座る男の子のところへ戻った。幸い男の子はまだそこにいた。
「ちょっといいかな。洋服、触るよ」
健人は男の子の服を確認すると、あきらかな異変に気づいた。内側に爆弾らしき装置が付いていたのだ。すぐに健人は、その場を離れ、無線で報告し、マニュアル通り、近くにいた警察官に連絡をした。男の子を注視していると、迎えの係と思われる女性が現れた。おそらく爆弾のスイッチを持っているはずだ。大掛かりなテロでは、すぐにあしがついてしまうから実行犯は最低人数のはずなのだ。
入場前に、警察官が子供を連れている女性を呼び止めた。小さなバッグを肩にかけた女性は、これから始まるフォーラムにスピーチで参加するのだと英語で話をしていた。女性がバッグに手を入れようとした瞬間、警察官はバッグを振り落として女性を確保した。男の子は服を脱がされ、爆弾は人のいない広場へ放り投げられた。抵抗した女性の行動に一瞬、緊張が走ったが、数人の駆けつけた警察官に取り押さえられ、人だかりができる前に、何事もなかったかのような早さで処理された。
テロは未遂に終わった。
健人はその場に一人崩れ落ちた。
そして悪い予感が当たってしまったことに心を痛め、溢れる涙を止めることはできなかった。
(マイラ……)
今日は男の子の命を救うことができた。でも、五年前は、おそらく自分がマイラを救うことができた最後の人間だったのだ。
健人は、しばらく放心状態のまま会場に吸い込まれていく楽しそうな人々を見ていた。ほんの数分前に目の前で起きたことが、まるで映像のようで現実のものとは思えなかった。
(ごめん、マイラ……)
健人は首からかけた指輪を握りしめた。