第22話

文字数 1,091文字

 国際児童フォーラムは何事もなく無事に全ての日程を終えた。
 今日で警備の仕事が終わる。警備会社の社長から直々に正社員として働かないかと声をかけられたが断った。
 社長は会社に貢献したお礼ということで、ボーナスをプラスしてバイト代を支給してくれた。健人は深く頭を下げてビルを後にした。お手柄を素直に喜べない自分がいた。
 ビルの階段を降りながらふと思い出した。
(あの女性、どこかで会ったことがあると思っていたが、あのイタリア料理店のアルバイト店員だ!)

 健人は急いで、今夜出発予定の飛行機をキャンセルし、翌日の夕方便に振り替えた。そして今晩の宿泊先のビジネスホテルをネットで予約した。(今すぐ、あのイタリア料理店へ行ってみよう)

 イタリア料理店は臨時休業と札がかかり店は閉まっていた。土曜日の夜なのに臨時休業なんておかしい。
(何があったに違いない)
 健人は店の裏にまわってみたが、誰もいないようであった。
(せっかく来たのに手がかりなしか……)
 でも何もしないで北海道へ帰る気にはなれなかった。
 警察へ行って過去のことを全て話そう。そして、この店のことも調べてもらおう。ここから先は、全てを警察に任せよう。

 健人はその夜はビジネスホテルに泊まり、一連の出来事を整理し報告書を作成した。
 言葉では感情的になってしまい、全てを冷静に説明できる自信がなかったのだ。報告書にまとめた方が相手に正しく伝わるだろうと思った。

 でも、マイラの写真と指輪のことは報告しなかった。代わりに写真をもとにしたマイラの似顔絵を添付した。

 翌日、朝九時に警察を訪れ、昨日のフォーラムでの事件で伝えたいことがあると個人的に申し出た。警備をしていたことも、もちろん報告したが、バイトは昨日で辞めているので警備会社には迷惑をかけないように配慮した。
 二時間ほど拘束されたが、
「調査してみます。ご協力ありがとうございました」と礼を言われ解放された。

 健人は少しだけ気持ちが楽になった。
 もう過去はどうすることもできない。でも未来は変えることができる。
 これ以上、大人の利害関係や都合で子供の犠牲者が出ることがないように心から願った。

 そして、あと一つ。この指輪のことを調べてみたい。
 健人は一生をかけてこの指輪、つまりはマイラのことを調べてみたいと思った。

 マイラはもうこの世にはいない。でも僕に預けてくれたこの大切な指輪。これはきっと大切な人に会いたい……というマイラの願いなのだ。愛する人からのお守りだったのではないだろうかーーおそらくマイラの両親……
 
 健人はマイラの思いを胸に北海道上空から街の明かりを眺めていた。
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